欠けるほど、光る

七賀ごふん

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四石

#7

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「宙さん! この間は気が回らず申し訳ありません。お身体の具合はどうですか?」
「三澄さん。おかげさまですっかり良くなりました。ご心配おかけしてすみません……」

週が変わり、久々に三澄さんと顔を合わせた。彼は終始心配そうにしてくれていたので、意を決して本当のことを打ち明けた。
自分は気象病を持っていて、それがきっかけで前の仕事を辞めたこと。晴れの日しかヘルプには来られないこと。

呆れられないかとびくびくしたけど、三澄さんは苦しそうに顔を歪め、首を横に振った。

「お辛い想いをされていたんですね」
「いえいえ! これが俺の中では普通なので、今さらなんてことありません」

強いて言うなら、この苦しみが肥大したのは透夜に出会ってからだ。
自分だけが苦しいなら、いくらでも耐えられる。だが自分より大切な人を巻き込み、負担を強いることになるのが一番苦しい。

透夜はもう、自分の人生より大切なんだ。

彼は俺の知らないところで、俺の為に大切な時間をつかっていたから……。

「誰だって、人には言えない事情を持ってます。だから、その人の苦しみもその人にしか分かりません。偉そうなことを言って申し訳ないんですが……あまりご自分を責めないでくださいね」
「三澄さん……ありがとう、ございます」

彼も本当に優しい人だ。それと同時に、とても強いひと。
感謝の気持ちで胸の中がいっぱいになっていると、彼は思い出したように手を叩いた。

「あぁでも、宙さんには頼れる人がいましたね。才木透夜さん、でしたっけ」
「あ、ええと……はい」

まさか透夜の話になるとは思わず、少し歯切れの悪い返事をしてしまった。
「医療職って仰ってましたよね」
「はい。理学療法士で……俺の病気を知って、目指してくれたみたいなんです」
そう言うと、三澄さんは露骨に驚いた顔をした。

「それはすごい……宙さんは、その……本当に」
「?」
「あい……じゃない、えっと。だ、大事に想われてるんですね」

三澄さんらしくもなく、言葉を濁している。どうしたのか不思議だったけど、素直に受け取って微笑んだ。

「ええ。でも元々優しい子だったので。身近に俺みたいな危なっかしいのがたまたまいたから、指標になったんですかね?」
「いやぁ……もっと大きな理由があると思いますけど」

彼は気まずそうに鞄をわきに抱え、真面目に悩み出した。
「宙さんにとって、才木さんは後輩……なんですか」
「はい。実は後輩というか、俺が学生時代ここでバイトしてた時にお客として来てくれた子なんです。だから尚さら特別っていうか」
「それはそれは……」
午後三時の鐘が鳴る。新たなお客がやってきて、店内が少し賑やかになった。

「では、今日はこの辺で失礼しますね。どうぞご自愛ください」
「はい! ありがとうございます」

店先まで見送りに行くと、彼は振り向きざまに微笑んだ。

「貴方は才木さんのことを誰よりも信頼されてる。その気持ちを疑わず、大事にしてあげてください」
「……」

赤いドアが閉まる。彼は軽く会釈し、駅の方へ歩いていった。
今のは絶対、アドバイスだ。
透夜を信頼してる……のはもちろん、その通りだけど。

それだけで終われない何かが、俺の中を掻き乱しているんだな。

彼はそれを見抜いていたんだろう。
おざなりにしてはいけない問題を、ずっと見ないふりをしてきた。

透夜と一緒にいたいなら、絶対に向き合わないといけないことがある。

「……っ」

もう彼は子どもじゃない。俺も同じだ。これ以上卑怯な大人でいちゃいけない。
彼の為に俺が出せる最前の答えを用意して、ボロボロでも渡さないと。

「ありがとうございます」

そして、それに気付かせてくれた青年に、届かないお礼を声にした。




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