恋の闇路の向こう側

七賀ごふん

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お迎え

#7

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こうなることは分かっていた。
分かっていたけど、受け入れられるかは別の話だ。

「貴島君、次移動教室だよ」
「視聴覚室行ったことないよね? 案内するから一緒に行こ~!」
「いや、ちょっと……」

……っ!!

女子達に半分拉致されてる貴島を見つけ、フラッとした。

貴島が転校してきてからはや一週間。だいぶ学校の雰囲気にも慣れてきたようで、そこは安心していた。
けど慣れてきたのは女子達も同じ。勿論、男子勢もだ。

貴島は特別落ち着いてるだけで、冗談を言えば笑って返している。何となく貴島に怖いイメージを持っていた男子達も、段々彼に積極的に関わるようになった。

とは言え下心半分なことも分かってる。貴島と一緒にいれば女子と仲良くなれると思ってるんだろう。

「貴島! お前部活入んないの?」
「俺はバイトしようと思ってるから」
「へー。川音と同じ料理部に入ると思ってた。じゃあ今度皆でカラオケ行こうぜ。女子も呼んでさ~……」

…………。

遠巻きに貴島とクラスメイト達のやりとりを見守り、腕を組む。

俺としたことが、ちょっと油断した。気付けば貴島は、常に誰かに囲まれてる状況になっていた。

でも一旦立ち止まって考えてほしい。俺が一年半かけて手に入れた優等生カードの有効期限がわずか一週間だなんて、誰が思うんだ。

ついこの間まで貴島の隣で通訳係みたいなことができたのに、今は入り込む余地がない。普通に押しのけられるし、あれ、川音君いたの? みたいな反応をされる。

「何か、最近の川音は影が薄いなー」

と、ふらふら隣にやって来たのは同じクラスの都波。チャラ男でいつも遊んでるのに成績優秀という、特殊なタイプ。

「前はみんなして川音君がー、って言ってたのにさ。薄情だと思わない?」
「はは、そんなこと……自分の時間ができてむしろ嬉しいよ。貴島君は人気出て当たり前の超イケメンだし」

ここで弱みを見せてはいけない。努めて穏やかに微笑むと、都波は前に屈み、耳打ちした。

「そのイイコちゃんキャラ、そろそろやめれば? 貴島が来た以上、もう覇権は奪えないだろうし」
「……っ!」

教科書を開こうとした手を止め、思わず彼を見返す。
誰にも触れられたくない部分に手を突っ込まれたみたいで、顔が熱くなった。

「前は白原高校と言えば川音君って感じだったけど。知ってる? お前のファンクラブのメンバー、ほとんど貴島に流れてるぞ」
「え? そそそうなんだ。でも別にいいよ。ファンがいるから何だって話だし」

嘘だ。俺が一年半かけて築き上げた地位が一週間で崩壊したことに衝撃を受けてる。
そんな俺の心を見透かすように、都波は目を細めた。

「そう? パッと見、今までのお前はファン作りに躍起になってた気がするけど」
「う……」

ほんと、痛いところ突いてくるな。
教科書で顔の下半分を隠すも、簡単に奪われてしまう。彼は声を潜め、俺の机に肩肘をついた。

「優等生キャラよりクールで大人キャラの優勝ってことだ。俺だって前は学校一のギャル男で人気あったのに、お前に女の子ファンとられたんだぞ。アイドルは代替わりする、コレこの世の理」

あれ、ギャル男なのか。チャラ男だと思ってて申し訳ない。
っていうか両者の違いって何だ?
ギャル男はファッションに重きをおき、チャラ男は何か一人でもウェイウェイ言ってる印象がある。どっちもクラスの中心人物だけど、やっぱり文化的背景が異なるのかもしれない。




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