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お迎え
#8
しおりを挟む「川音は正統派イケメンだけどな。女の子って普段素っ気ない男に優しくされるとコロッといくんだぜ」
それは分かる。表情筋眠ってる貴島が笑うと、俺もめちゃくちゃ嬉しいし。
その笑顔をもっと見たいと思う。願わくば、俺の力で引き出したい。
でも、満面の笑みの貴島とか……ちょっと破壊力あり過ぎてやばそうだな。
「……都波君は、彼女いないの?」
「俺はつくらない。何故ならひとりの女の子に縛られたくないから」
迷いなくそう答える彼はかっこよくもあり、見方を変えると最低でもあった。
「ところで前から思ってたけど、お前ってほんとは目立つこと自体嫌いだろ。無理してるんと違う?」
「それは……」
「何の話?」
都波の問いかけに動揺した……俺の机に手をついたのは、女子に囲まれてたはずの貴島だった。
彼の方から声を掛けてきたことが意外だったようで、都波は露骨に驚いてる。
「いや。川音は真面目だなって話してたんだよ。な?」
「う、うん」
仕方なしに話を合わせ、頷く。すると貴島は「そう」と短く呟き、俺の腕を引いて立ち上がらせた。
「ちょ、貴島君?」
「次の授業、移動なんだろ? 案内頼む」
「あ、うん……」
きょとんとしてる都波を置いて、貴島は足早に歩き出した。どうやってあの熱狂的な女子達をまいたのか不思議だが、慌てて歩幅を合わせる。
「貴島。ちょっと歩くの速い……」
「……」
小声で訴えると、彼は歩くスピードを落とした。それには安心したけど、今度は何を話したらいいか分からなくなる。
俺が静かなせいか、貴島の方から口を開いた。
「大勢に囲まれるのは我慢できるけど。その間にお前が他の誰かといるのは気になるもんだな」
「へ」
やれやれといったように額を押さえる貴島に、思わず目を丸くする。
「あ、あぁ。ごめん、ガードするって言ったのに」
「別にそれはいい」
貴島は足を止め、振り返る。そして眉を下げて笑った。
「……でも、お前もこんな気分だったんだな」
ごめん、と頬を撫でられる。
多分、転校初日のことを言ってるんだと思った。俺がひとり葛藤していたときのことを。
また胸の中が熱くなった。まばたきすら忘れた俺を見つめ、貴島は小声で呟く。
「そりゃモヤモヤするよな」
「ん……何て?」
意味が分からず聞き返すと、彼は俺の手を引いて歩き出した。
思わず見惚れそうなほどの笑顔を浮かべ、俺の前髪を持ち上げる。
「何でもないよ。さ、行こう」
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