恋の闇路の向こう側

七賀ごふん

文字の大きさ
23 / 28
元通り

#3

しおりを挟む



「あれって貴島君?」
「誰抱えてんのかな?」
「えっ……川音君じゃん!」

やっっっばい。
それはもう、史上最高に。この学校の伝説になりそうなほど、今の俺は注目されている。

体育館に繋がる外廊下を歩いて、校舎に移動する。月仁は俺を抱え、平然と真ん中を歩いた。
放課後なのは不幸中の幸いだけど……誇張ではなく、俺も月仁も学校では知られた存在。だから俺達を見つけた生徒は、皆興味津々で寄ってきた。

「お。貴島、川音のこと捕獲できた?」

現れるやいなや、都波も呆れた様子で腕を組んだ。隣にはクラスの女子達もいる。

「できたみたいだな。でも今度は展開進み過ぎな気が」
「まあまあ、都波君。無事くっついて良かったじゃん」
「最近の二人、ほんと見ててムズムズしてたから良かった~。スッキリした!」

えっっ。

どう反応するのが正解だろう。
男が男を抱っこして現れたんだから、気持ち悪がるのが自然だろうに。彼らは落ち着き払い、むしろホッとしている。……っていうか、俺と月仁がひっついてんのが当然みたいな空気だ。

よく分からないけど、とにかく誤魔化さないと。

「いやいや……! 俺、外で転んで足挫いちゃってさ。立てなくて困ってたら月仁が運んでくれたん」
「抱っこしようか。って俺が訊いたら、してくれって言ったんだよ」

何て!!?
フリーズした。聞き間違いかと思って見上げたけど、月仁は「な?」と笑顔で覗いていた。

いやいや。な? じゃない!

「えーっ! 川音君、貴島君に甘えてたの?」
「わ~! かわいい~!」
「ち、違うよ!」

あらぬ誤解を受け、慌てて手を振る。しかし彼女達の熱は高まる一方で、全く落ち着く気配がない。
あぁ、もう!

「月仁、下ろせっ」
「ん? ……今は大人しくしといた方がいいと思うけど」

月仁はなにか言いつつも屈み、俺を下に下ろした。

散々恥ずかしい姿を見られてしまったが、これでよし。自分の席に足早に向かい、鞄を取りに行った。すると都波が不思議そうに首を傾げて。

「川音、足挫いてないじゃん」
「あれ。じゃホントに貴島君に甘えてたんだ!」
「ほあっ! ちっ違……っ!!」

しまった。ここから逃げ出したい一心で墓穴を掘った。
これじゃ何を言っても苦し紛れの言い訳に聞こえてしまう。

月仁は別次元を見てるけど、絶対笑いを堪えてるし。く……っ。

「もっもう帰る!! また明日!」
「バイバーイ、川音君」

一目散に教室から出ていった川音を見て、都波は吹き出した。

「川音のやつ、やっと素に戻ったって感じ?」
「……かな。じゃあ、俺も帰るよ」

月仁も鞄を取り、ゆっくり歩き出す。しかし立ち止まり、徐に振り返った。

「あいつ、頑張り過ぎて限界きたみたいなんだ。明日から甘やかしまくると思うから、改めて宜しく」
「すげえ宣言だな……」

どこまでも無表情を保ち立ち去る貴島に、取り残された都波と女子一同は顔を見合わせた。

「よく分かんないけど、おめでたい感じか」








断じてわざとではない。
なるようになったというか……成り行き上、というか。

人前で誰かに甘える日が来るなんて、夢にも思わなかった。

「月仁。おは!」
「深白。おはよう」

駅に着いてすぐ、大好きな彼の背中を見つけて声を掛けた。

今では正真正銘、恋人となった元幼馴染、……月仁。

恋人の特別フィルターみたいなものもあるんだろうか。
付き合うようになってまだ一週間だけど、日に日に月仁に惚れていくのが分かる。

かっこいいなんてことは、初めて会った時から知ってるのに。彼の関心を独り占めしてると分かった途端舞い上がるのは、もはや一種の病気だ。
「寝癖ついてる」
「わ。さ、さんきゅ」
手櫛で整えてもらい、学校へ向かう。

やー……眼福を通り越して、目が痛い。
月仁の笑顔とスパダリっぷりで胃がやられる。外でも距離が近いせいか、他校の女子からもやたら視線を感じる。

注目されるのは以前からあったけど、月仁といるともっとあけすけというか、わりと堂々と見られてるんだよな。さっき触られたときも「おぉ~」みたいな歓声が聞こえたし。

「深白、良い意味できっちりしなくなったな」

月仁はわずかに口端を上げ、俺に振り返った。
彼の言う通り……朝は結構ぎりぎりだし、制服も着崩してる。ややずぼらなぐらいに変化した。

いや、退化か。夜更かしして月仁にモーニングコールしてもらうこともあるもんな。

「何か、力抜いたら一気に駄目駄目になったよ」
「あはは。別に駄目じゃない。今までが気を張りすぎてたんだろ」

校門を潜り、教室へ向かう。その道中も、月仁は俺の頬をついたりしていた。

「俺がいるんだから、それぐらいでいいんだよ」
「……お前は俺を甘やかし過ぎじゃない?」
「仮にそうだとして、何が悪いんだ? 恋人を可愛がるのは普通だろ」
「う。それは……確かに」

反論できない。もごもごしてると、一瞬だけ手を握られた。

「深白。今日もたくさん俺に甘えて」
「ふええ……」





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】恋愛初学者の僕、完璧すぎる幼馴染に「恋」を学ぶ

鳥羽ミワ
BL
志村春希は高校二年生で、同い年の幼馴染・須藤涼太のことが大好き。その仲良しぶりといったら、お互い「リョウちゃん」「ハルくん」と呼び合うほどだ。 勉強が好きな春希には、どうしてもひとつだけ、全く理解できないことがあった。それは、恋心。学年一位の天才でもある涼太にそのもどかしさを愚痴ったら、「恋」を教えようかと提案される。 仮初の恋人になる二人だけど、春希が恋を知ったら、幼馴染の友達同士のままではいられない。慌てる春希に「パラダイムシフトを起こそうよ」と提案する涼太。手を重ねて、耳元で囁く涼太。水族館デートに誘う涼太。あまあまに迫られて、恋愛初学者の春希が陥落しないはずもなく……。 恋を知ったら友達でいられない。でもこの思いは止められない。 葛藤する春希の隣で涼太だけが、この関係は両片思いだと知っていた。 幼馴染の溺愛恋愛ケーススタディ、開幕! 最後はもちろんハッピーエンド! ※アルファポリス、カクヨム、小説家になろうへ投稿しています

笑って下さい、シンデレラ

椿
BL
付き合った人と決まって12日で別れるという噂がある高嶺の花系ツンデレ攻め×昔から攻めの事が大好きでやっと付き合えたものの、それ故に空回って攻めの地雷を踏みぬきまくり結果的にクズな行動をする受け。 面倒くさい攻めと面倒くさい受けが噛み合わずに面倒くさいことになってる話。 ツンデレは振り回されるべき。

夜が明けなければいいのに(洋風)

万里
BL
大国の第三皇子・ルシアンは、幼い頃から「王位には縁のない皇子」として育てられてきた。輝く金髪と碧眼を持つその美貌は、まるで人形のように完璧だが、どこか冷ややかで近寄りがたい。 しかしその裏には、誰よりも繊細で、愛されたいと願う幼い心が隠されている。 そんなルシアンに、ある日突然、国の命運を背負う役目が降りかかる。 長年対立してきた隣国との和平の証として、敵国の大公令嬢への婿入り――実質的な“人質”としての政略結婚が正式に決まったのだ。 「名誉ある生贄」。 それが自分に与えられた役割だと、ルシアンは理解していた。 部屋に戻ると、いつものように従者のカイルが静かに迎える。 黒髪の護衛騎士――幼い頃からずっと傍にいてくれた唯一の存在。 本当は、別れが怖くてたまらない。 けれど、その弱さを見せることができない。 「やっとこの退屈な城から出られる。せいせいする」 心にもない言葉を吐き捨てる。 カイルが引き止めてくれることを、どこかで期待しながら。 だがカイルは、いつもと変わらぬ落ち着いた声で告げる。 「……おめでとうございます、殿下」 恭しく頭を下げるその姿は、あまりにも遠い。 その淡々とした態度が、ルシアンの胸に鋭く突き刺さる。 ――おめでとうなんて、言わないでほしかった。 ――本当は、行きたくなんてないのに。 和風と洋風はどちらも大筋は同じようにしようかと。ところどころ違うかもしれませんが。 お楽しみいただければ幸いです。

幼馴染み

BL
高校生の真琴は、隣に住む幼馴染の龍之介が好き。かっこよくて品行方正な人気者の龍之介が、かわいいと噂の井野さんから告白されたと聞いて……。 高校生同士の瑞々しくて甘酸っぱい恋模様。

【完結】大学で再会した幼馴染(初恋相手)に恋人のふりをしてほしいと頼まれた件について

kouta
BL
大学で再会した幼馴染から『ストーカーに悩まされている。半年間だけ恋人のふりをしてほしい』と頼まれた夏樹。『焼き肉奢ってくれるなら』と承諾したものの次第に意識してしまうようになって…… ※ムーンライトノベルズでも投稿しています

恋は、遠い背中から始まった

葉空
BL
中学1年の体育祭。清水結斗は、走高跳で宙を舞う紫川斗葵の跳躍に心を奪われ、その美しさを忘れられずにいた。 高校で再び同じ学校に通うことになっても、陸上部のエースとして輝く斗葵と、帰宅部で学年も違う結斗に接点はない。 だが、陸上部である幼馴染の光希と友人の春利の縁で言葉を交わしたことで、2人の距離は静かに近づいていく。 他サイトでも公開しています

サンタからの贈り物

未瑠
BL
ずっと片思いをしていた冴木光流(さえきひかる)に想いを告げた橘唯人(たちばなゆいと)。でも、彼は出来るビジネスエリートで仕事第一。なかなか会うこともできない日々に、唯人は不安が募る。付き合って初めてのクリスマスも冴木は出張でいない。一人寂しくイブを過ごしていると、玄関チャイムが鳴る。 ※別小説のセルフリメイクです。

あなたのいちばんすきなひと

名衛 澄
BL
亜食有誠(あじきゆうせい)は幼なじみの与木実晴(よぎみはる)に好意を寄せている。 ある日、有誠が冗談のつもりで実晴に付き合おうかと提案したところ、まさかのOKをもらってしまった。 有誠が混乱している間にお付き合いが始まってしまうが、実晴の態度はいつもと変わらない。 俺のことを好きでもないくせに、なぜ付き合う気になったんだ。 実晴の考えていることがわからず、不安に苛まれる有誠。 そんなとき、実晴の元カノから実晴との復縁に協力してほしいと相談を受ける。 また友人に、幼なじみに戻ったとしても、実晴のとなりにいたい。 自分の気持ちを隠して実晴との"恋人ごっこ"の関係を続ける有誠は―― 隠れ執着攻め×不器用一生懸命受けの、学園青春ストーリー。

処理中です...