恋の闇路の向こう側

七賀ごふん

文字の大きさ
25 / 28
元通り

#5

しおりを挟む


うわ──────。
恥ずかしい。恥ずかしくて五回は死ねる。

顔から火が出そうだ。また半泣きになってると、月仁は身を乗り出し、俺の頭を撫でた。

「お前はほんっ……とに可愛いな」
「だって……! 好きなんだからしょうがないだろっ」
「うんうん。しょうがない」

月仁は笑いながら俺の頬を撫でる。若干からかわれてる気がしてムッとしたけど、それに気付いたのか彼は真剣な表情になった。

「俺なんて、自分をコントロールすることに毎日必死だからな」
「コントロール?」
「可愛がり過ぎて嫌われるかもしれないから。二十四時間我慢してる」

それは俺以上にやばいかもしれない。
改めて、彼もものすごい葛藤をしてることに驚く。
でも最終的に痛感したのは……俺も彼も、もっと触れ合っていたい願望があるということ。

「好き過ぎるのも地獄だな。離れていたときの方が地獄なのにさ。……触れる距離にいるのに触っちゃ駄目、って罰ゲームみたい」
「うん。……わかる」

互いに見つめ合い、吹き出した。
想いは通じてるし、代え難い関係も手に入れたけど、全てが叶ったわけじゃない。まだまだ限られた選択の中から未来を見つけ、選び取る必要がある。
それでも月仁と一緒に考えられるなら、こんなに嬉しいことはない。

月仁といたら大勢に非難されて、彼にも迷惑をかけてしまうと思っていた。
でもそんなのは痛い勘違いで、周りの優しさを無視した思い込みだった。

驚きつつも見守ってくれる周りに感謝して、今日も“俺らしく”生きたい。
七年前の俺が見たらびっくりするだろうな。また月仁に甘えて、且つ奔放に過ごしていたら。


「月仁君、お疲れ様。もう上がって、深白と夜ご飯食べな」
「お疲れ様です。あ、でもご飯は大丈夫ですよ」

両親の店でバイトを始めた月仁も、だいぶ慣れたみたいだ。夕方からとは言え忙しい時間帯なので、二人はとても助かったと喜んでいる。
俺も嬉しくて、以前に増して店を手伝うようになった。

「遠慮しないで! 深白ー、これ裏に持って行って」
「おっけ。月仁、俺の部屋で食べようぜ」
「でも、いつも悪い」
「いやいや、作ったもん食べない方が駄目! ってことで、ほら!」
 
丼が乗ったお盆を片手に、もう片方の手を月仁に差し出す。
彼は少し微笑み、俺の手をとり、お盆にも手を添えた。
厨房に向き直り、母に声を掛ける。

「そだな。……ありがとうございます、頂きます」
「はーい」

季節はあっという間に変わっていく。
俺達の毎日も、同じのようで確実に変わっていた。
月仁は希望の大学を決めたし、俺も迷ったものの進学し、家を出ることに決めた。
やりたいことが見つかれば良いし、もし見つからなかったとしても、無駄にはしたくない。両親は俺に店を継いでほしいと思ってなさそうだし……とりあえず、行けるところまで行ってみることにした。

どこへ辿り着こうと、どんな景色を見ようと……月仁と共感できるように。

「ご馳走様でした」
「ご馳走さま~。はー、幸せ」

空になった丼を端によけて、ベッドに腰をおろす。
月仁は口を拭いて、楽しそうに笑った。
「腹いっぱいになったら嬉しくなるの、お前の長所だよ」
「そりゃそう。腹減ってると全てに絶望する」
「はは。じゃあ常にお前の腹満たしとかないとな」
月仁は立ち上がり、ゆっくりと歩いてくる。体の向きを変え、よっとベッドに腰を下ろした。

今じゃ当たり前に馴染んだこの景色も、昔なら夢と同じだった。

「……腹だけじゃなくて、こっちも満たしてほしい」

だから俺は、何でもないこの距離と時間に脳を焼かれてるんだ。

月仁の掌を自身の胸に押し当てる。
上目遣いで見つめると、彼は困ったように笑った。

「お前って、無自覚でひとを狂わすよな」

呆れなのか何なのか、ため息もついている。
台詞を吐いたことは反省するけど、仕方ない。

月仁が好き過ぎて、俺はとっくにおかしくなってるんだから。

「ぶっちゃけ月仁の影響もでかい」
「そうかもな。じゃ、責任とるよ」

もう片方の手が触れ、繋がる。
心臓の音まで聞こえてしまいそうな距離で、彼は囁いた。

「卒業したら一緒に住もう」
「月仁……」

不意打ちにも程がある。もちろん! と叫びたかったけど、どこか手放しで喜べない自分もいた。

「え、と……冗談じゃないよな?」
「冗談でこんなこと言うか」

念の為確認すると、月仁は俺を膝に乗せて見上げた。

「昔みたいに離れたこと、まだ不安なんだろ? だからもう離れられない関係にする」

彼は悪戯っぽく笑い、俺の手を取る。

「どう? この提案」
「……イイ」

というか、最高。
驚きと喜びで呆然としてしまったが、遅ればせながら現実感が戻ってきた。

動かないけどまばたきだけは繰り返す俺を、月仁は笑いながら抱き締める。

「ありがとっ。大好きだよ」





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

もしも願いが叶うなら、あの頃にかえりたい

マカリ
BL
幼馴染だった親友が、突然『サヨナラ』も言わずに、引っ越してしまった高校三年の夏。 しばらく、落ち込んでいたが、大学受験の忙しさが気を紛らわせ、いつの間にか『過去』の事になっていた。 社会人になり、そんなことがあったのも忘れていた、ある日の事。 新しい取引先の担当者が、偶然にもその幼馴染で…… あの夏の日々が蘇る。

失恋したのに離してくれないから友達卒業式をすることになった人たちの話

雷尾
BL
攻のトラウマ描写あります。高校生たちのお話。 主人公(受) 園山 翔(そのやまかける) 攻 城島 涼(きじまりょう) 攻の恋人 高梨 詩(たかなしうた)

笑って下さい、シンデレラ

椿
BL
付き合った人と決まって12日で別れるという噂がある高嶺の花系ツンデレ攻め×昔から攻めの事が大好きでやっと付き合えたものの、それ故に空回って攻めの地雷を踏みぬきまくり結果的にクズな行動をする受け。 面倒くさい攻めと面倒くさい受けが噛み合わずに面倒くさいことになってる話。 ツンデレは振り回されるべき。

ある日、友達とキスをした

Kokonuca.
BL
ゲームで親友とキスをした…のはいいけれど、次の日から親友からの連絡は途切れ、会えた時にはいつも僕がいた場所には違う子がいた

だって、君は210日のポラリス

大庭和香
BL
モテ属性過多男 × モブ要素しかない俺 モテ属性過多の理央は、地味で凡庸な俺を平然と「恋人」と呼ぶ。大学の履修登録も丸かぶりで、いつも一緒。 一方、平凡な小市民の俺は、旅行先で両親が事故死したという連絡を受け、 突然人生の岐路に立たされた。 ――立春から210日、夏休みの終わる頃。 それでも理央は、変わらず俺のそばにいてくれて―― 📌別サイトで読み切りの形で投稿した作品を、連載形式に切り替えて投稿しています。  エピローグまで公開いたしました。14,000字程度になりました。読み切りの形のときより短くなりました……1000文字ぐらい書き足したのになぁ。

【完結】大学で再会した幼馴染(初恋相手)に恋人のふりをしてほしいと頼まれた件について

kouta
BL
大学で再会した幼馴染から『ストーカーに悩まされている。半年間だけ恋人のふりをしてほしい』と頼まれた夏樹。『焼き肉奢ってくれるなら』と承諾したものの次第に意識してしまうようになって…… ※ムーンライトノベルズでも投稿しています

楽な片恋

藍川 東
BL
 蓮見早良(はすみ さわら)は恋をしていた。  ひとつ下の幼馴染、片桐優一朗(かたぎり ゆういちろう)に。  それは一方的で、実ることを望んでいないがゆえに、『楽な片恋』のはずだった……  早良と優一朗は、母親同士が親友ということもあり、幼馴染として育った。  ひとつ年上ということは、高校生までならばアドバンテージになる。  平々凡々な自分でも、年上の幼馴染、ということですべてに優秀な優一朗に対して兄貴ぶった優しさで接することができる。  高校三年生になった早良は、今年が最後になる『年上の幼馴染』としての立ち位置をかみしめて、その後は手の届かない存在になるであろう優一朗を、遠くから片恋していくつもりだった。  優一朗のひとことさえなければ…………

幼馴染み

BL
高校生の真琴は、隣に住む幼馴染の龍之介が好き。かっこよくて品行方正な人気者の龍之介が、かわいいと噂の井野さんから告白されたと聞いて……。 高校生同士の瑞々しくて甘酸っぱい恋模様。

処理中です...