悋気応変!

七賀ごふん

文字の大きさ
15 / 17

#14

しおりを挟む



口調からして仕事の電話みたいだ。友悠は廊下の角を曲がり、話し始めた。
「……はぁ」
あっという間だったけど、良い日になったな。
鞄に入れていたスマホを取り出し、時刻を確認しようとしたが。

「あれ。楠木?」
「鈴原……!」

心臓が跳ねる。情けないが、嫌な汗が額に流れた。
このところずっと仕事で嫌がらせをしてくる同僚、鈴原が現れたからだ。彼もちょうど、この階にあるレストランへ行くらしい。

「そういえば今日は随分仕事速かったな。ああ、分かった。新しい男とデートだろ?」
「ち、違う。友達と会う約束をしてたんだ」

何も馬鹿正直に答えなくていい。でもあまりに皮肉った態度をとられて、思わず言い返してしまった。そして、友達いたんだ、と言われる始末。
普通に悪口だけど、そう揶揄したくなる理由も分かる。何故なら、俺は彼の前で何度か他人の悋気を感じ、泣いたことがあるから。

「ていうか約束なくても、いつもそれぐらい仕事速ければ助かるんだけど。実は手ぇ抜いてんじゃないの?」

終わらないのは自分の仕事まで振ってくるからなのに。
でも言い返したら火に油を注ぐだけだ。妬まれて泣いたら、彼を喜ばせるだけ。

こらえろ。いつもそうしてきたんだから。
俯いて口端を引き結ぶと、後ろから高い靴音が鳴った。

「弦美、……こちらは?」

振り向くと、スマホを持った友悠が佇んでいた。眼鏡を外し、鈴原のことを無表情で見据えている。
反対に、鈴原は友悠を見て驚いていた。
「し、職場の……同僚の」
「鈴原です。初めまして。楠木さんのお友達ですか?」
俺を押しのけ、鈴原は友悠に笑顔で挨拶した。先程とはまるで違う、弾んだ声。友悠が彼のタイプということが容易に想像できた。

「はい、中学校教諭の城川と申します。弦美がいつもお世話になっております」

友悠は会釈し、完璧な笑顔で対応した。俺も向けられたことのない笑顔で、何だか複雑になる。
鈴原は、彼の笑顔でさらに射抜かれたらしい。
「学校の先生ですか! ああ、何か分かるなぁ。今日は楠木と二人だけで食事されてたんですか?」
「えぇ。彼とは幼なじみなので」
「それじゃ、良ければ今度一緒にお食事しませんか。俺も、楠木とは職場で一番長いんですよ!」
「なっ?」と振られた為、小さく頷く。でも実際は気が気じゃなかった。

彼が目の前にいるだけで膝が震えそうなのに。……一緒に食事なんて、とてもできそうにない。
段々息苦しくなって首元を押さえる。すると、鈴原は掠れた声で笑った。

「楠木の失敗談も山ほど知ってるから、面白いと思いますよ~。今も伝説になってるのは、打ち合わせ中に突然泣き出したことで」
「へぇ……。せっかくですが、ご遠慮します。俺も仕事ができない方で。弦美に会う時間をつくるのが精一杯なんです」




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ある新緑の日に。

立樹
BL
高校からの友人の瑛に彼女ができてから、晴臣は彼のことが好きなのだと認識した。 けれど、会えば辛くなる。でも、会いたい。 そんなジレンマを抱えていたが、ある日、瑛から 「肉が食べたい」と、メールが入り、久しぶりに彼に会うことになった。

恋なし、風呂付き、2LDK

蒼衣梅
BL
星座占いワースト一位だった。 面接落ちたっぽい。 彼氏に二股をかけられてた。しかも相手は女。でき婚するんだって。 占い通りワーストワンな一日の終わり。 「恋人のフリをして欲しい」 と、イケメンに攫われた。痴話喧嘩の最中、トイレから颯爽と、さらわれた。 「女ったらしエリート男」と「フラれたばっかの捨てられネコ」が始める偽同棲生活のお話。

【完結】後悔は再会の果てへ

関鷹親
BL
日々仕事で疲労困憊の松沢月人は、通勤中に倒れてしまう。 その時に助けてくれたのは、自らが縁を切ったはずの青柳晃成だった。 数年ぶりの再会に戸惑いながらも、変わらず接してくれる晃成に強く惹かれてしまう。 小さい頃から育ててきた独占欲は、縁を切ったくらいではなくなりはしない。 そうして再び始まった交流の中で、二人は一つの答えに辿り着く。 末っ子気質の甘ん坊大型犬×しっかり者の男前

双葉の恋 -crossroads of fate-

真田晃
BL
バイト先である、小さな喫茶店。 いつもの席でいつもの珈琲を注文する営業マンの彼に、僕は淡い想いを寄せていた。 しかし、恋人に酷い捨てられ方をされた過去があり、その傷が未だ癒えずにいる。 営業マンの彼、誠のと距離が縮まる中、僕を捨てた元彼、悠と突然の再会。 僕を捨てた筈なのに。変わらぬ態度と初めて見る殆さに、無下に突き放す事が出来ずにいた。 誠との関係が進展していく中、悠と過ごす内に次第に明らかになっていくあの日の『真実』。 それは余りに残酷な運命で、僕の想像を遥かに越えるものだった── ※これは、フィクションです。 想像で描かれたものであり、現実とは異なります。 ** 旧概要 バイト先の喫茶店にいつも来る スーツ姿の気になる彼。 僕をこの道に引き込んでおきながら 結婚してしまった元彼。 その間で悪戯に揺れ動く、僕の運命のお話。 僕たちの行く末は、なんと、お題次第!? (お題次第で話が進みますので、詳細に書けなかったり、飛んだり、やきもきする所があるかと思います…ご了承を) *ブログにて、キャライメージ画を載せております。(メーカーで作成) もしご興味がありましたら、見てやって下さい。 あるアプリでお題小説チャレンジをしています 毎日チームリーダーが3つのお題を出し、それを全て使ってSSを作ります その中で生まれたお話 何だか勿体ないので上げる事にしました 見切り発車で始まった為、どうなるか作者もわかりません… 毎日更新出来るように頑張ります! 注:タイトルにあるのがお題です

【完結】幼馴染に告白されたけれど、実は俺の方がずっと前から好きだったんです 〜初恋のあわい~

上杉
BL
ずっとお前のことが好きだったんだ。 ある日、突然告白された西脇新汰(にしわきあらた)は驚いた。何故ならその相手は幼馴染の清宮理久(きよみやりく)だったから。思わずパニックになり新汰が返答できずにいると、理久はこう続ける。 「驚いていると思う。だけど少しずつ意識してほしい」 そう言って普段から次々とアプローチを繰り返してくるようになったが、実は新汰の方が昔から理久のことが好きで、それは今も続いている初恋だった。 完全に返答のタイミングを失ってしまった新汰が、気持ちを伝え完全な両想いになる日はやって来るのか? 初めから好き同士の高校生が送る青春小説です!お楽しみ下さい。

今日くらい泣けばいい。

亜衣藍
BL
ファッション部からBL編集部に転属された尾上は、因縁の男の担当編集になってしまう!お仕事がテーマのBLです☆('ω')☆

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由

スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの少年二人は、15歳になり神の祝福でスキルを得た事で道をたがえる。彼らはやがて青年となり、片方は魔王討伐に旅立つ勇者として華々しい活躍をし、もう片方はただ彼の帰還を待つ相変わらずスラム暮らしの存在となる。 これは何も持たない青年がただ勇者の帰りを待つ日常を描いた作品です。 無自覚両片想いの勇者×親友。 読了後、もう一度だけ読み直して頂けると何か見える世界が変わるかもしれません。

処理中です...