拾った異世界の子どもがどタイプ男子に育つなんて聞いてない。

おまめ

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3.王宮②

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「ハルくんハルくん、今日訓練の見学においでよ」
「アンドレさんから聞いたけど、ハルくん魔法の練習してるんだってね。私たちも協力できると思うよ」
朝食会でリクとルカはこんな提案をしてきた。

もちろんハルの目はキラキラ。 

「2人に特訓付き合ってもらえるなんて…!」
「今更だけどさ、ハル、なんでそんな魔法熱心なんだ?」
「それは…」

「ソラがそんなんだからだよな」
「あっ、アンドレ…!」
訓練場に向かう途中、アンドレと出くわした。
「ソラが氷魔法以外からっきしだから、なんかあったときは助けてやろうって、ハル言ってたもんな」
「アンドレさん!言わないでって!」
「そうだったのか…ハル~」
「うわぁぁ」
なんて良いやつなんだと思って、ハルの頭をわしゃわしゃ撫で回す。
「もう!秘密だったのに!ソラさん特訓見に来ないでください!絶対!!」
「えっ…!ちょ、」

怒ったハルは俺から逃げるようにズンズンと行ってしまった。
「お前のせいだぞアンドレ」
「えーっ、て、文句言いたかったけど俺が悪いな。スマン」
「俺今日ヒマになっちゃったじゃん」
「んー。あ、じいさんに会いに行ったらどうだ」
「じいちゃん?王宮にいたんだっけ?」
「割と最近の話だったから知らねえか。お前のじいさん、魔法考古学研究所の所長になったんだ」
「え、知らなかった。趣味が仕事になるなんて」
「ちょっと歩くが丁度いいだろ。この道をずーっと真っすぐだ。顔見せてやれよ」
「おう、ありがとうアンドレ」
手を挙げて去っていくアンドレを見送って、俺も歩き出す。



俺のじいちゃんはちょっと変な人だ。
最初に思い浮かぶのは、召喚場所である光の樹にへばりついた姿。
次に、光の樹の前で魔法考古学の本をたくさん散らかして読み漁って、こっちの声が聞こえないほど集中している姿。

「我が一族あって召喚は成り立つのじゃ」

このフレーズを何度聞いたことか。じいちゃんはとてもフォールド家の仕事を誇りに思っていた。そしてその召喚の研究に熱心だった。
父さんに仕事を継がせてからは図書館に引き籠もって研究漬けの毎日を過ごしていた。それを知らない間にれっきとした仕事にしたらしい。

「絶対ここだ…」

言われた道を真っすぐ歩き続けると、光の樹にそっくりな場所に辿り着いた。
そこで目にしたのは、さっき思い浮かんだじいちゃんの姿と全く同じ光景だった。散らばった本の海の中で、熱心に何かを書いているらしい。
遠くから呼びかけても気付かれないので、傍まで行って肩を揺さぶる。
「じいちゃん、じいちゃん。久しぶり」
「ん~誰じゃ…って、ソラか!よう来たのぉ」
じいちゃんは老眼鏡を外して俺をまじまじと見た。
「おぬし、異世界の子を引き取ったらしいな」
「え、あぁ、うん。知ってたんだ」
「なら知っておくべきじゃな」
「な、何を…?」

久々に会った孫への挨拶もそこそこに、いきなり話を始めるじいちゃんはやっぱり変わってる。立ち上がり、散らばった本のうち一つを取り上げて俺に見せてきた。
「誰でも分かる召喚、じゃ」



「え、じゃあ召喚はそんなしょっちゅうできないんだ」
「うむ。姫が器を壊したのも頷ける話じゃな。壊していなかったとしても、来た人を返すには最低2年はかかる」

本とじいちゃんの解説によると、召喚に必要な王家の祈りの力はとてつもないエネルギー量で、一度使ってしまえば必ず、しばらくの間魔力が枯渇してしまうらしい。その出力を間違えれば、今回のシェネリ様のように魔力爆発を起こして器を壊すことになる。
誤って召喚された人をすぐに帰せないわけだ。

「今回の事故の原因はこんな風に文献をちょっと調べればわかったんじゃ。だから今ワシは被召喚者について調べとる。なぜ彼らが選ばれたのか…彼らの世界はどうであったのか…」
じいちゃんはそこにあったファイルを手に取った。
「まだ未熟な子どもなんじゃろ。不用意に傷つけないためにも、知るべきじゃ」


被召喚者に協力を仰ぎ、一通り心身ともに検査したらしい。このファイルにはそのレポートとじいちゃんの見解が綴じられている。

長い文章の最後。恐らくじいちゃんが1番注意して欲しいところはここだろう。

『我々が気をつけるべきなのはやはり被召喚者との関わり方である。彼らは何の準備もない状態で召喚される。そのとき、彼らの家族は?友人は?…最上級の待遇をすることは自明のこととして、それ以上に、彼らの心に気を遣うべきだ。……最後に、1番分からないのは彼らが帰った後だ。果たして彼らが居ない間、どういう対応がされていたのか。そもそも元の世界に帰れるのか。まだ調査を進める必要がある』


「その子は寂しがっている様子はないのかえ」
「うん、シェネリ様にも聞かれたけど。毎日楽しそうだよ」
「む…ちょっと変わった子なのかもな。でも油断は禁物じゃ。子どもゆえ、特に親の話などはあまりすべきではないかもしれぬ」
「そっか…」
「まぁ気をつけることじゃ。さ、ワシはまだやることがあるから退いてくれると助かる」

久々の孫に話したいことはそれしか無かったのか。
仕方ないので立ち去る。ふと振り返る。
改めて見ても光の樹にそっくりだ。
「じいちゃん!この場所…」
じいちゃんはこちらに目も向けず手だけ挙げた。
「そっくりじゃろ!ワシが作った」



本当にこっそり。訓練場を見に来た。
じいちゃんの話を聞いてから、ずっとハルのことを考えている。思えば、俺はハルに親や、その他の、元の世界の話を質問したことがない。2年一緒にいるのに。別にそれはハルから聞くなと言われたわけではなく、俺が無意識に聞かなかっただけだ。なぜだろう。
そんなことを考えながら、建物の陰でしゃがんで訓練場を覗いたとき。

「あら、ソラ様」
「うわぁぁ!?シェ、シェネリ様…」
「驚かせてしまってごめんなさい。訓練場はこの建物から入れますよ」
「ああ、はい。お気遣い感謝します…」
「…?入らないのですか?」
「ハルに…来るなと言われまして…」
「あらあら」
後ろから声をかけてきたシェネリ様は、自分で指した建物に入らず俺の隣にしゃがんだ。

「シェネリ様はどうぞ中へ…。きっと喜びますよ」
「いえ、私もここから観ます。貴方にお会いしたくて来たのですから」
「え…あっ!」

すっかり忘れていた。昨夜のハルの様子を報告するのを。シェネリ様はくすくすと笑う。

「思い出しました?」
「ええ、すみません」
「それで…どうでしたか?」
「大丈夫でしたよ。ちょっと起きて俺のこと見てから、また幸せそうに眠りました。それがなんか…かわいくって。って、ここは要らないですね、ハハ…」

ちょっと喋りすぎたと思った頃にはもう遅く、わずかな誤魔化しも意味がなかった。シェネリ様はニヤニヤと俺を見た。
「仲が良いようで。安心しました。ありがとうございます」

恥ずかしい。そう思って目線を訓練場に向けると、そこに立ってたハルと目が合った。俺を見た瞬間、あーっという顔でこっちに迫ってくる。
「やっぱりソラさんだった!来ないでって言ったの忘れたんですか!?」
「ご、ごめんつい…」
「ハル、ソラ様は寂しがっているようですよ」
「シェネリ様!?」
「えー、ソラさん子どもじゃないですか」
「ハル誤解だって!」
「仕方ないなー」

この通路と訓練場は柵で隔たれている。ハルはその柵の間から手をこちらに伸ばしてきた。
「まだ特訓が終わってないので、夜。散歩しましょ。指切り」
言われるがままに小指を結ぶ。
「ゆーびきーりげんまん、嘘ついたら針千本のーます、指切った」
「なにそれ?」
「ふふ、おまじないです」
柵越しでも分かるいつもの笑顔の後、指を離して柵の向こうに歩き出したハルは一度こちらを振り返った。
「楽しみにしてます」

「お、おお…」
「もういませんよ」
さっきからシェネリ様には笑われてばっかりだ。



夜。
訓練場の前まで来た。何でか分からないけど、ちょっとソワソワしてる。抱えたパンの紙袋をキュッと抱きしてみる。

「そーらーさん」
「あ、ハル。お疲れ様。これ、お腹すいただろうから持ってきた」
「やった、ありがとうございます」
「うん。で、どっか行きたいところがあるのか?」
「はい。さっきルカさんにおすすめのデ、…散歩コース教えてもらいました。行きましょ」
「へぇ~楽しみ」

2人ですっかり日の暮れた道を歩く。ハルはパンを頬張りながら楽しそうに歩いているように見えるが、やはり疲れているからか歩幅が小さい。
「こんな時間まで、どんな特訓をしてたんだよ」
「秘密ですよ」
「ちょっとくらいいいだろ」
「うーん、ハルさんの体力じゃ到底無理な練習ですね」
「お前…俺もやろうと思えばやれるからな?」
「無理しないでください体力無いんだから」
「ずっと思ってたけどハル俺のことナメてるよな!?」
「ふふ、どうだか」

ちょっと薄暗い小道になると、ハルは何も言わず魔法で小さな炎を出してランプ替わりにした。ちょうどよい、暖かな色合いの炎。
「おお、色の調節とかできるようになったんだ」
「青い炎とかもできますよ。霊園にありそうな。そっちにします?」
「しねぇよ。怖い、こっちの色が好き」
「ソラさんかわいいですね」
「どこがだよ」
「あ、上」
「上?」

ハルが指差したのは空。見上げるとそこには満天の星。
「綺麗だな…」
「ええ…。そこの塔、あるじゃないですか。星に加えて月と海が見える人気スポットらしいです」
「登りたい」
「もちろん」



「うわ…!」
「すごい…!きれいですねソラさん!」
塔のてっぺんからは想像以上の景色が見えた。
明るく輝く三日月。夜の海なんて暗いだけだと思ってたのに、なんだか夜空を反射してるように見えて、思わず息を呑む。
「上も下も夜空で、包まれてるみたいですねぇ」
「うん…」
ぼーっと360°夜空を眺める。しばらくの沈黙。

口を開いたのはハルだった。
「ソラさん」
「ん?」
「あの…」


「なに?」
「ぅ、えーーっと……」


「あ…!」
「え?」
「今流れ星見えました」
「えーっどこどこ」
「もう…一瞬なんですから」

キョロキョロする俺の横でふふっと笑った。
「帰りましょうか。冷えちゃう」
「うーん」
「流れ星はまた見えますよ。ほら」
「んー、仕方ないかぁ。ハル、流れ星になんかお願いした?」
「ん、しましたよ」
「なんて?」
「言いませんよ。こういうのって言ったら叶わないっていいますし。さ、早く」
ほらほらというように俺の背中を押したハルの手は少し熱かった気もした。冷えてないといいが。
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