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4.いってらっしゃい
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出発式当日の朝。
妙な緊張感に包まれた中でで朝食を食べ終え、ダイニングを出ようとしたとき、ルカに引き止められた。
「ソラさんちょっと」
「うぉっと…どうした?」
「話したいことがあるの。ハルくんのことで」
ダイニングでは既に片付けが始まっていたので中庭のベンチに場所を移した。もうすぐ出発だというのに空模様は似つかわしくない曇りだ。
「それで…なんかあったのか?」
「いや…ちょっと心配してるだけっていう話。ソラさん、ハルくんにご両親の話を聞いたことはある?」
「あ…」
少々タイムリーな話題に驚いてしまった。じいちゃんに話を聞いてから俺の頭を悩ませている問題。
「いや、ない。あんまり聞く気になれない雰囲気だから、あいつ」
それは俺が出した一番それっぽい答えだ。無意識のうちにハルに親のことを聞くのを躊躇っていたのかもしれない、という結論が一番納得できた。
「あ、やっぱりそうだよね?私たちも結局今まで聞けずにいるの。元いた世界では、親の存在って結構大きいのに。この世界はそこまでじゃないみたいだけど」
ルカは視線を遠くにやって、膝の上の拳をギュッと握った。きっと俺もルカも同じ想像をしてる。ちゃんと口にすることはなかった、あの雰囲気の正体。
「憶測でしかないんだけど…。あの子、もしかしたらご両親、いなかったのかもって」
✻
出発式の準備があるからそろそろ行かなきゃ、とルカは立った。
「ごめんなさい。私たちはもうハルくんのそばには居れないのに、こんな話をして不安にさせて。でも、言っておきたかったから」
「うん、ありがとう。あいつを気にかけてくれて」
雲が少しずつ千切れて、光が差してきた。
「あの子をお願いします。きっとこれから、あの子が頼れるのはあなただけだから」
頼れるのは俺だけ。
そんなことはないだろと言いたいが、実際そうかもしれない。常にそばに居てやれるのは俺だけだ。
もし、本当にハルに両親がいなかったとしたら。俺は親の代わりになれているのだろうか。
✻
「あ、ソラさん遅い。もう出なきゃ近くで見れないですよ」
部屋に戻ると開口一番にこう言われた。お前の話をしてたんだけどな。
「ごめんごめん、って、俺の準備まで終わってるな…」
「あとはソラさんが着替えるだけどオッケーの状態です」
「ありがとう」
ふふんとハルは得意そうに鼻を鳴らした。
「ハル、淋しいか?」
「え?そりゃもちろん…」
何故か最近は着替えまで手伝ってくれるようになって、(要らないって最初は言ったが聞かなかった)ハルは俺のシャツのボタンを上まで留めた流れで俺の顔を不思議そうに見上げた。
「リクさんもルカさんも、無事に帰ってきてほしいです」
「…そうだな」
「でもしんみりしたお別れは嫌なので。笑顔でお見送りします」
よし、と俺の全身を見回して笑顔を見せるこの子はなんてよく出来た子なんだろう。
✻
出発式は厳格に執り行われた。
国王のおことばの後、壮大なファンファーレと共に勇者一行が歩き出した。
「キャーー勇者様ー!!」
「頑張ってください!」
「応援してます!!!」
街中を練り歩くパレードのような形で、勇者たちは最終スポットの門に到着した。なぜスタートとゴールを知っているかというと、出発式が終わってからダッシュで門まで移動したからだ。ハルが最初も見たいし最後も見たいと言うので。
「皆様、ありがとうございます。では、行ってまいります!!」
勇者が剣を高く掲げると、群衆はワッと湧き上がった。その傍ら。
「ハルくーん!」
「リクさん、ルカさん!」
最前列で手を大きく振っていたハルに気が付いて、2人は手を振り返してくれた。
「いってらっしゃい!!」
「いってきます!!」
それから一行が見えなくなるまで、ハルは手を振り続けた。
やがて人々がわらわらと解散し始めると、ふぅと息をついて、それから独り言のように呟いた。
「僕も頑張ります」
今度は俺たちが帰る番だ。見送りにはシェネリ様やメイレンさんなどお世話になった人たちが来てくれた。驚いたことに、じいちゃんも遅れてやって来た。
「おお、この子がハルか。またそのうち小屋に行くからの、そのときはじいちゃんと遊ぼう」
「はい、ありがとうございます。お祖父様」
「お祖父様って…」
「私からも。来てくれてありがとう。またいらしてくださいね」
「あ、シェネリ様、散歩しそびれちゃいましたね。よければ今度、こちらに来ていただけると嬉しいです。森を散歩しませんか?キレイですよ」
「あら、良いですね。楽しみにしてます」
なんだかハルは王宮に来る前より大人びた気がする。メイレンさんがくれた食材の袋も俺が持つって言ったのに持ってくれた。気が利くというか優しいというか…
「僕はかなり鍛えたんですから、頼ってくれて良いんですよ」
ハルが頼れるのは俺だけだ~みたいなことを悩んでいたのに、そのハルから頼れと言われてしまったから、ちょっとバカバカしくなって笑ってしまった。
「ではお二人様、お気をつけて」
「さようなら!」
「ありがとうございました!さようなら!」
✻
帰り道。楽しかったねーなんて話しながら2人で歩いていたとき。
「あっ、ソラさん!危ない屈んで!」
「えっなになに」
「パリルー」
言われたままに屈んで、そっと後ろを振り返ってみると、そこにはぐったりとしたゴブリンがいた。胸に細い氷が突き刺さっている。
「お…」
「森で炎は厳禁ですもんね」
「せ、成長したなー…」
「ソラさんのことは僕が守ります」
「お、おお…ありがと」
俺の拾った子の成長スピードが怖い。
妙な緊張感に包まれた中でで朝食を食べ終え、ダイニングを出ようとしたとき、ルカに引き止められた。
「ソラさんちょっと」
「うぉっと…どうした?」
「話したいことがあるの。ハルくんのことで」
ダイニングでは既に片付けが始まっていたので中庭のベンチに場所を移した。もうすぐ出発だというのに空模様は似つかわしくない曇りだ。
「それで…なんかあったのか?」
「いや…ちょっと心配してるだけっていう話。ソラさん、ハルくんにご両親の話を聞いたことはある?」
「あ…」
少々タイムリーな話題に驚いてしまった。じいちゃんに話を聞いてから俺の頭を悩ませている問題。
「いや、ない。あんまり聞く気になれない雰囲気だから、あいつ」
それは俺が出した一番それっぽい答えだ。無意識のうちにハルに親のことを聞くのを躊躇っていたのかもしれない、という結論が一番納得できた。
「あ、やっぱりそうだよね?私たちも結局今まで聞けずにいるの。元いた世界では、親の存在って結構大きいのに。この世界はそこまでじゃないみたいだけど」
ルカは視線を遠くにやって、膝の上の拳をギュッと握った。きっと俺もルカも同じ想像をしてる。ちゃんと口にすることはなかった、あの雰囲気の正体。
「憶測でしかないんだけど…。あの子、もしかしたらご両親、いなかったのかもって」
✻
出発式の準備があるからそろそろ行かなきゃ、とルカは立った。
「ごめんなさい。私たちはもうハルくんのそばには居れないのに、こんな話をして不安にさせて。でも、言っておきたかったから」
「うん、ありがとう。あいつを気にかけてくれて」
雲が少しずつ千切れて、光が差してきた。
「あの子をお願いします。きっとこれから、あの子が頼れるのはあなただけだから」
頼れるのは俺だけ。
そんなことはないだろと言いたいが、実際そうかもしれない。常にそばに居てやれるのは俺だけだ。
もし、本当にハルに両親がいなかったとしたら。俺は親の代わりになれているのだろうか。
✻
「あ、ソラさん遅い。もう出なきゃ近くで見れないですよ」
部屋に戻ると開口一番にこう言われた。お前の話をしてたんだけどな。
「ごめんごめん、って、俺の準備まで終わってるな…」
「あとはソラさんが着替えるだけどオッケーの状態です」
「ありがとう」
ふふんとハルは得意そうに鼻を鳴らした。
「ハル、淋しいか?」
「え?そりゃもちろん…」
何故か最近は着替えまで手伝ってくれるようになって、(要らないって最初は言ったが聞かなかった)ハルは俺のシャツのボタンを上まで留めた流れで俺の顔を不思議そうに見上げた。
「リクさんもルカさんも、無事に帰ってきてほしいです」
「…そうだな」
「でもしんみりしたお別れは嫌なので。笑顔でお見送りします」
よし、と俺の全身を見回して笑顔を見せるこの子はなんてよく出来た子なんだろう。
✻
出発式は厳格に執り行われた。
国王のおことばの後、壮大なファンファーレと共に勇者一行が歩き出した。
「キャーー勇者様ー!!」
「頑張ってください!」
「応援してます!!!」
街中を練り歩くパレードのような形で、勇者たちは最終スポットの門に到着した。なぜスタートとゴールを知っているかというと、出発式が終わってからダッシュで門まで移動したからだ。ハルが最初も見たいし最後も見たいと言うので。
「皆様、ありがとうございます。では、行ってまいります!!」
勇者が剣を高く掲げると、群衆はワッと湧き上がった。その傍ら。
「ハルくーん!」
「リクさん、ルカさん!」
最前列で手を大きく振っていたハルに気が付いて、2人は手を振り返してくれた。
「いってらっしゃい!!」
「いってきます!!」
それから一行が見えなくなるまで、ハルは手を振り続けた。
やがて人々がわらわらと解散し始めると、ふぅと息をついて、それから独り言のように呟いた。
「僕も頑張ります」
今度は俺たちが帰る番だ。見送りにはシェネリ様やメイレンさんなどお世話になった人たちが来てくれた。驚いたことに、じいちゃんも遅れてやって来た。
「おお、この子がハルか。またそのうち小屋に行くからの、そのときはじいちゃんと遊ぼう」
「はい、ありがとうございます。お祖父様」
「お祖父様って…」
「私からも。来てくれてありがとう。またいらしてくださいね」
「あ、シェネリ様、散歩しそびれちゃいましたね。よければ今度、こちらに来ていただけると嬉しいです。森を散歩しませんか?キレイですよ」
「あら、良いですね。楽しみにしてます」
なんだかハルは王宮に来る前より大人びた気がする。メイレンさんがくれた食材の袋も俺が持つって言ったのに持ってくれた。気が利くというか優しいというか…
「僕はかなり鍛えたんですから、頼ってくれて良いんですよ」
ハルが頼れるのは俺だけだ~みたいなことを悩んでいたのに、そのハルから頼れと言われてしまったから、ちょっとバカバカしくなって笑ってしまった。
「ではお二人様、お気をつけて」
「さようなら!」
「ありがとうございました!さようなら!」
✻
帰り道。楽しかったねーなんて話しながら2人で歩いていたとき。
「あっ、ソラさん!危ない屈んで!」
「えっなになに」
「パリルー」
言われたままに屈んで、そっと後ろを振り返ってみると、そこにはぐったりとしたゴブリンがいた。胸に細い氷が突き刺さっている。
「お…」
「森で炎は厳禁ですもんね」
「せ、成長したなー…」
「ソラさんのことは僕が守ります」
「お、おお…ありがと」
俺の拾った子の成長スピードが怖い。
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