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番外編
髪
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「ん、あぁ、ハル。よく来たなっ…て、お前なぁ」
王宮の訓練場に顔を出したら、出くわしたアンドレさんにうんざりした顔をされた。
「え、やっぱり来るのも控えたほうがいい感じですか…?」
「いやそうじゃなくて」
リクさんやルカさんが居ない今、この世界で一番大きな魔力の器を持っているのは僕になってしまった。
この力は国を、世界を変えうる。一歩間違えれば危険なのだと何度も説明された。
だから人前で魔法を使うのは極力控えている。それでも腕が鈍るのは嫌(ソラさんに何かあったとき困る)なので、たまに訓練しに来ていたのだが。
「じゃあ、なんでしょうか…」
「フードはどうしたんだよ、何の変装も無しで来たのか?」
「あ」
すっかり忘れていた。
異世界から来たものだから、この見た目はかなり目立つ。特に髪色。だから、外に出るときはなるべく被れ、とフードを渡されていた。
やらかしたのは、これが初犯じゃないということだ。
何回目か考えてみる。
考えてみて、被ってきたことないな、と結論づいた。
「なんで忘れるかなぁ」
「うーん…」
言えない。
ソラさんに変な虫がつかないようにって、フード渡しちゃったなんて言えない。
本当は忘れてはいないのだ。
ここに来て毎回思い出す。返してもらうか新しく買うかしなきゃなーって。
「僕の意識の無さが原因です…ごめんなさい…」
「いやまぁ、そんな怒ってるわけじゃないけどさ。なんか対策できねぇかな、なぁ?」
「へ!?」
可哀想に。通りすがりの一般兵に急に回ってしまった。
彼は必死に考えた。そして恐る恐る、僕に向かって口を開いた。
「いっそのこと…髪、染めたらどうですか…?」
「……ムリ」
「…えぇ!?」
必死に出した答えが却下されて、オロオロする新人のような彼を慰めながら、アンドレさんは言った。
「いいと思ったんだが…一応理由聞いていいか…?」
✻
それは何でもない日の、いつも通りのゴールデンタイムだった。
その日はソラさんがやけに素直で、ソファから手招いたらすぐ来てくれた。促せば素直に膝の上にゴロンと寝てくれた。撫でさせてもくれる。
かわいい。猫みたい。今日ぽやぽやしてる。
「どうしたんですか、ソラさん。眠い?」
「ん~…。眠くはないけどぉ」
「眠いんじゃん、それ、…?」
強がるソラさんを少し笑ったら、そっと手が伸びてきた。その、森で育ったであろうしっとりとした綺麗な指(これが本当に良い)は、僕の髪に。
驚いて見下ろすと、こちらに微笑むソラさんと目が合った。
指は髪を弄ぶ。はらりとこの黒い髪が落ちては、また手の中へ。
大体ソラさんからのスキンシップ自体が珍しいのに、こんな慣れない触り方は初めてで恥ずかしい。
「ソラさん、僕の髪が何か、…?」
「んー?いやぁ、綺麗だなぁって」
「はぁ。…………は?!」
綺麗。綺麗って言ったか今?
あの日以来、好きどころかそれ以外の愛情表現してくれなかったのに!?
「出会った頃から思ってはいたんだけど…」
「出会った頃から!?」
「珍しいってのもあるけど…なんか、美しい?ていうの?この黒」
「は、はぁ」
急に褒められていっぱいいっぱいな所で、トドメの一発。
「好きだなぁ、ハルの髪」
✻
「びっくりした、惚気しかなかった」
「まぁ、はい。そういうことで。僕は一生髪色変えないつもりです」
「はいはい、ごちそうさま、じゃあせめてフード被ってこいよな」
訓練場へと通された。一安心。
案が却下された理由を聞いて開いた口が塞がらなかった新人君が少々不憫ではあったが。
✻
「さてと…」
夕方。今日の晩ご飯は魚介類モリモリの鍋だ。この間ソラさんがかなり喜んでくれたやつ。
とりあえず材料をキッチンに出す。
出したところで気付いた。
豪華な装飾の瓶。
王宮でもらった高級料理酒。
「絶対これじゃん…」
あの夜思ったのだ。別にお酒飲んでないよな、と。
直前に食べたこの鍋に、たっぷり入れてた。
だからぽやぽやしてたんだ。
そっと瓶を棚にしまった。分かってて入れたらそれは犯罪だろう。
だけど、まぁ、その、方法としてはありかもしれない。そのうち。
王宮の訓練場に顔を出したら、出くわしたアンドレさんにうんざりした顔をされた。
「え、やっぱり来るのも控えたほうがいい感じですか…?」
「いやそうじゃなくて」
リクさんやルカさんが居ない今、この世界で一番大きな魔力の器を持っているのは僕になってしまった。
この力は国を、世界を変えうる。一歩間違えれば危険なのだと何度も説明された。
だから人前で魔法を使うのは極力控えている。それでも腕が鈍るのは嫌(ソラさんに何かあったとき困る)なので、たまに訓練しに来ていたのだが。
「じゃあ、なんでしょうか…」
「フードはどうしたんだよ、何の変装も無しで来たのか?」
「あ」
すっかり忘れていた。
異世界から来たものだから、この見た目はかなり目立つ。特に髪色。だから、外に出るときはなるべく被れ、とフードを渡されていた。
やらかしたのは、これが初犯じゃないということだ。
何回目か考えてみる。
考えてみて、被ってきたことないな、と結論づいた。
「なんで忘れるかなぁ」
「うーん…」
言えない。
ソラさんに変な虫がつかないようにって、フード渡しちゃったなんて言えない。
本当は忘れてはいないのだ。
ここに来て毎回思い出す。返してもらうか新しく買うかしなきゃなーって。
「僕の意識の無さが原因です…ごめんなさい…」
「いやまぁ、そんな怒ってるわけじゃないけどさ。なんか対策できねぇかな、なぁ?」
「へ!?」
可哀想に。通りすがりの一般兵に急に回ってしまった。
彼は必死に考えた。そして恐る恐る、僕に向かって口を開いた。
「いっそのこと…髪、染めたらどうですか…?」
「……ムリ」
「…えぇ!?」
必死に出した答えが却下されて、オロオロする新人のような彼を慰めながら、アンドレさんは言った。
「いいと思ったんだが…一応理由聞いていいか…?」
✻
それは何でもない日の、いつも通りのゴールデンタイムだった。
その日はソラさんがやけに素直で、ソファから手招いたらすぐ来てくれた。促せば素直に膝の上にゴロンと寝てくれた。撫でさせてもくれる。
かわいい。猫みたい。今日ぽやぽやしてる。
「どうしたんですか、ソラさん。眠い?」
「ん~…。眠くはないけどぉ」
「眠いんじゃん、それ、…?」
強がるソラさんを少し笑ったら、そっと手が伸びてきた。その、森で育ったであろうしっとりとした綺麗な指(これが本当に良い)は、僕の髪に。
驚いて見下ろすと、こちらに微笑むソラさんと目が合った。
指は髪を弄ぶ。はらりとこの黒い髪が落ちては、また手の中へ。
大体ソラさんからのスキンシップ自体が珍しいのに、こんな慣れない触り方は初めてで恥ずかしい。
「ソラさん、僕の髪が何か、…?」
「んー?いやぁ、綺麗だなぁって」
「はぁ。…………は?!」
綺麗。綺麗って言ったか今?
あの日以来、好きどころかそれ以外の愛情表現してくれなかったのに!?
「出会った頃から思ってはいたんだけど…」
「出会った頃から!?」
「珍しいってのもあるけど…なんか、美しい?ていうの?この黒」
「は、はぁ」
急に褒められていっぱいいっぱいな所で、トドメの一発。
「好きだなぁ、ハルの髪」
✻
「びっくりした、惚気しかなかった」
「まぁ、はい。そういうことで。僕は一生髪色変えないつもりです」
「はいはい、ごちそうさま、じゃあせめてフード被ってこいよな」
訓練場へと通された。一安心。
案が却下された理由を聞いて開いた口が塞がらなかった新人君が少々不憫ではあったが。
✻
「さてと…」
夕方。今日の晩ご飯は魚介類モリモリの鍋だ。この間ソラさんがかなり喜んでくれたやつ。
とりあえず材料をキッチンに出す。
出したところで気付いた。
豪華な装飾の瓶。
王宮でもらった高級料理酒。
「絶対これじゃん…」
あの夜思ったのだ。別にお酒飲んでないよな、と。
直前に食べたこの鍋に、たっぷり入れてた。
だからぽやぽやしてたんだ。
そっと瓶を棚にしまった。分かってて入れたらそれは犯罪だろう。
だけど、まぁ、その、方法としてはありかもしれない。そのうち。
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