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第5話 コーラとワンピース
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夏休みではあるものの、家の近所にあるハンバーガーショップには学生姿がちらほらと見受けられた。部活帰りの生徒がお店に寄ったりしているのだろう。
とは言えそれ程混んでいるという訳でもなかったので、私と真昼さんは窓際の四人席に向かい合って座ることにした。
相変わらず肌を焼くような真夏の暑さが続いているけど、店の中はかなり冷房が効いていて火照った体を冷ましてくれる。
私の前にはスタンダードなハンバーガーセットとコーラ。真昼さんの前には照り焼きバーガーセットと白ブドウジュース。相手の前に置いてある食べ物って、不思議と自分のより美味しそうに見えてしまうものだ。
「というか、真昼さんってハンバーガーとか普通に食べるんだね」
「ええ、もちろん食べるけど……私、ファストフードとか食べないように見える?」
「うーん、なんとなくだけどね」
「別に、そんな大金持ちのお嬢様とかじゃないわ」
真昼さんはやんわりと否定する。まあ、小説ならともかく、現実の世界になかなかそういうお嬢様は存在しないだろう。ただ、この人ならもしかして……と思わせるような、妙な浮世離れ感が真昼さんにはあるのだ。
今日の真昼さんはレース模様の付いたノースリーブの白いワンピース姿だった。全体的に線の細い印象ではあったけど、肩が出ていると二の腕辺りの細さがひと際強調される。こんなお店と言ったら失礼だけど、ハンバーガーショップに連れてきて良かったのかな、なんてちょっと思っちゃう。彼女だけなんかまとってる空気が明らかに違う。
私はいただきます、と小さく口にしてハンバーガーをひとかじりしてから真昼さんに尋ねた。
「真昼さんって部活入ってないよね? 夏休み期間って何してるの?」
「そうね……ひとまず本を読んで………………飽きたら、別の本を読んでる」
「本当にずっと読んでるんだね……」
彼女が筋金入りの読書好きなのは知っていたが、ここまで来るともはや病気のレベルなんじゃなかろうか。まあ、それほどハマれる趣味があるのは羨ましいことでもある。うーん。私は趣味と言えるほどの趣味ってないなあ。
「私はやっぱり本を読むのが好きだし、それに、人見知りだからみつはさん以外に友達もいないし……」
「ふ、ふーん、そっか」
私はにやけ顔を抑えるのに必死だった。ごまかすようにまたハンバーガーを口に含む。
私だけ。真昼さんの友達は、少なくとも今のところ私だけ。
あと今更だけど、ちゃんと友達として認識されていることにもほっとした。
「みつはさんは友達多そうね。お昼もよくクラスの人と一緒にご飯を食べてるみたいだし……」
「うん、まあ中学からの知り合いもいっぱいいるからね」
「そうよね……私は編入組だから、どうしてもちょっと気が引けてしまって……」
真昼さんくらい頭が良ければ、お隣の優秀な女子校とかでも全然受かったはずだけど。残念なことに――そして私には幸運なことに、近所の中高一貫女子校で高校からの編入を認めているのはうちだけだった。
「人とお喋りするのはそんなに得意じゃないんだけど……どうしてかしらね。うまく言えないんだけど、みつはさんが相手だと安心してお話できるし、何より楽しいの」
えへへ。真昼さんにそう言われると、少し照れちゃう。
「そっか、それなら良かったな。私、真昼さんみたいに頭良くないし、くだらない話しかできないから、話合わせられるかなってちょっと心配だったんだ」
「くだらなくなんかないわ。みつはさんがしてくれる友達とか先生のお話、私好きよ。それに――話の中身と言うより、みつはさんと……」
そこで真昼さんは一旦言葉を区切った。続きを待っていたが、なかなかうまく頭の中がまとまらない様子だった。
「その……ううん、やっぱりなんでもないわ」
「……? そっか」
真昼さんはさらさらの長い黒髪を手で梳きながら、少し落ち着かない様子だった。頬も紅潮しているし、うーん、どうしたんだろ。
でも、彼女には悪いけど、真昼さんのこういう仕草、結構好きだったりする。
また頬がにやけそうになったので、ハンバーガーをもうひと齧り。
ごまかすように頬張っていたら、いつの間にかハンバーガーだけ食べ終わってしまった。
「ふふ……ふふふ」
口をもぐもぐ動かしてたら、今度は真昼さんが私の顔を見て何やら可笑しそうにくすくす笑っていた。
「え、な、なに?」
「口の横。ふふ、取ってあげるね」
真昼さんはしなやかな指先で紙ナプキンを手に取り、私の口元へと手を伸ばした。
ナプキン越しに感じる指先の感触。何故かちょっとどきっとする。
「ほら、ケチャップ。口の横に付いてたの。なんだか小さい子供みたいで、笑っちゃった」
「えー、気づかなかった……」
食べることに夢中だったからかなあ。恥ずかしい。
でも、また真昼さんの笑顔を見られたから、それはそれで満足。
思い上がりかもしれないけど、私の前だと真昼さんは結構笑ってくれる気がする。
最初は一度でいいから笑顔が見てみたいな、なんて思っていたけれど。
今は、少しでもたくさん笑ってる真昼さんを見たいな、なんて、贅沢な悩みを抱えているのだった。
とは言えそれ程混んでいるという訳でもなかったので、私と真昼さんは窓際の四人席に向かい合って座ることにした。
相変わらず肌を焼くような真夏の暑さが続いているけど、店の中はかなり冷房が効いていて火照った体を冷ましてくれる。
私の前にはスタンダードなハンバーガーセットとコーラ。真昼さんの前には照り焼きバーガーセットと白ブドウジュース。相手の前に置いてある食べ物って、不思議と自分のより美味しそうに見えてしまうものだ。
「というか、真昼さんってハンバーガーとか普通に食べるんだね」
「ええ、もちろん食べるけど……私、ファストフードとか食べないように見える?」
「うーん、なんとなくだけどね」
「別に、そんな大金持ちのお嬢様とかじゃないわ」
真昼さんはやんわりと否定する。まあ、小説ならともかく、現実の世界になかなかそういうお嬢様は存在しないだろう。ただ、この人ならもしかして……と思わせるような、妙な浮世離れ感が真昼さんにはあるのだ。
今日の真昼さんはレース模様の付いたノースリーブの白いワンピース姿だった。全体的に線の細い印象ではあったけど、肩が出ていると二の腕辺りの細さがひと際強調される。こんなお店と言ったら失礼だけど、ハンバーガーショップに連れてきて良かったのかな、なんてちょっと思っちゃう。彼女だけなんかまとってる空気が明らかに違う。
私はいただきます、と小さく口にしてハンバーガーをひとかじりしてから真昼さんに尋ねた。
「真昼さんって部活入ってないよね? 夏休み期間って何してるの?」
「そうね……ひとまず本を読んで………………飽きたら、別の本を読んでる」
「本当にずっと読んでるんだね……」
彼女が筋金入りの読書好きなのは知っていたが、ここまで来るともはや病気のレベルなんじゃなかろうか。まあ、それほどハマれる趣味があるのは羨ましいことでもある。うーん。私は趣味と言えるほどの趣味ってないなあ。
「私はやっぱり本を読むのが好きだし、それに、人見知りだからみつはさん以外に友達もいないし……」
「ふ、ふーん、そっか」
私はにやけ顔を抑えるのに必死だった。ごまかすようにまたハンバーガーを口に含む。
私だけ。真昼さんの友達は、少なくとも今のところ私だけ。
あと今更だけど、ちゃんと友達として認識されていることにもほっとした。
「みつはさんは友達多そうね。お昼もよくクラスの人と一緒にご飯を食べてるみたいだし……」
「うん、まあ中学からの知り合いもいっぱいいるからね」
「そうよね……私は編入組だから、どうしてもちょっと気が引けてしまって……」
真昼さんくらい頭が良ければ、お隣の優秀な女子校とかでも全然受かったはずだけど。残念なことに――そして私には幸運なことに、近所の中高一貫女子校で高校からの編入を認めているのはうちだけだった。
「人とお喋りするのはそんなに得意じゃないんだけど……どうしてかしらね。うまく言えないんだけど、みつはさんが相手だと安心してお話できるし、何より楽しいの」
えへへ。真昼さんにそう言われると、少し照れちゃう。
「そっか、それなら良かったな。私、真昼さんみたいに頭良くないし、くだらない話しかできないから、話合わせられるかなってちょっと心配だったんだ」
「くだらなくなんかないわ。みつはさんがしてくれる友達とか先生のお話、私好きよ。それに――話の中身と言うより、みつはさんと……」
そこで真昼さんは一旦言葉を区切った。続きを待っていたが、なかなかうまく頭の中がまとまらない様子だった。
「その……ううん、やっぱりなんでもないわ」
「……? そっか」
真昼さんはさらさらの長い黒髪を手で梳きながら、少し落ち着かない様子だった。頬も紅潮しているし、うーん、どうしたんだろ。
でも、彼女には悪いけど、真昼さんのこういう仕草、結構好きだったりする。
また頬がにやけそうになったので、ハンバーガーをもうひと齧り。
ごまかすように頬張っていたら、いつの間にかハンバーガーだけ食べ終わってしまった。
「ふふ……ふふふ」
口をもぐもぐ動かしてたら、今度は真昼さんが私の顔を見て何やら可笑しそうにくすくす笑っていた。
「え、な、なに?」
「口の横。ふふ、取ってあげるね」
真昼さんはしなやかな指先で紙ナプキンを手に取り、私の口元へと手を伸ばした。
ナプキン越しに感じる指先の感触。何故かちょっとどきっとする。
「ほら、ケチャップ。口の横に付いてたの。なんだか小さい子供みたいで、笑っちゃった」
「えー、気づかなかった……」
食べることに夢中だったからかなあ。恥ずかしい。
でも、また真昼さんの笑顔を見られたから、それはそれで満足。
思い上がりかもしれないけど、私の前だと真昼さんは結構笑ってくれる気がする。
最初は一度でいいから笑顔が見てみたいな、なんて思っていたけれど。
今は、少しでもたくさん笑ってる真昼さんを見たいな、なんて、贅沢な悩みを抱えているのだった。
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