ゆかりと恭佳の夏休み。

綾川ふみや

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挿入話 市佳と真冬1

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「真冬ちゃん、ぎゅー」「……ぎゅー」
 ひとまず挨拶代わりに抱擁を交わした。私はあまり背が高い方ではないけれど、真冬ちゃんはさらにひと回り小さい女の子だった。ちゃんと食べてるのかな、と少し心配になるくらい。
 それでも、いつもと変わらない抱き心地は私にこの上ない安心感を与えてくれた。
「……暑い」
「だねえ」
 できればもっと真冬ちゃんを抱きしめていたかったけれど、比較的体温の高い二人がこうも引っついていてはさすがに汗ばんでしまう。……あれ、だけど、お姉ちゃんとゆかりちゃんはいつもくっついて寝てるよなあ。あの二人、暑くないんだろうか。
「あんたたち、相変わらず仲いいわねえ」
 同室の女の子が呆れ混じりの溜め息をついた。
「そんなにべたべたして、飽きたりしないの?」
「飽きる?」
 今まであまり考えたことがなかったので、私は首を傾げてしまった。
 確かに真冬ちゃんは無口な方だけど、気まぐれで好奇心旺盛なので、一緒にいると子猫みたいに目が離せなかった。だから毎日会っても、その都度違う刺激をくれる女の子だった。
 私は、真冬ちゃんのそういうところが好きだった。
「……あー、まあ、心当たりがないならいいや。忘れて」
 ごちそうさま、なんてよく分からないぼやきを残して話を打ち切ってしまった。なんだったんだろう。お腹空いてたのかな。
「市佳ー」
 ふと、足下から気の抜けた声が聞こえてきた。続けて、足首の辺りをくいくいと引っ張られる。
 床に敷かれた布団の上では、真冬ちゃんが携帯ゲーム機を片手に物欲しそうな目で私を見上げていた。枕の横には、同機種の色違いのものが当たり前のように置かれている。二台とも彼女の持ち物だ。
「遊ぼ」
 真冬ちゃんにそうおねだりされたら、返事は一つに決まっていた。
「えへへ、いいよ」
 私は遠慮もせず、彼女の隣にごろんと寝転がる。
 二人ともうつ伏せで、肩と肩が軽く触れ合うような距離。
 お人形さんみたいな真冬ちゃんの横顔が間近にあって、ちょっとだけどきりとする。
 色素の薄い、ふわふわの髪。長い睫毛に大きな瞳。透き通るような白い肌。ほっそりとした首筋。ちらりと覗く小さな鎖骨。
 彼女はすっかりゲーム画面に夢中なのか、私の不躾な視線を全く意に介していなかった。
「部屋作った」
「はーい、今入るー」
 それからしばらく、私たちは布団の上で夢中になってゲームに興じた。そもそも用事があってこの部屋を訪れたことなんて、当分思い出せるはずもなかった。
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