マガセントセージ

響世燐光

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マガセント

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「坊ちゃん。本当に大丈夫ですか?」

「心配しすぎだよ。僕に戦いかたを教えてくれたのは君だろ?」

僕に問いかける彼女はマーガレット。我が家のメイドにして、僕のたった一人の家族だ。

物心ついた頃から側にいた彼女は、こうして僕が育つまで女手一つで育ててくれた。

心配症なのが珠に傷なのだが、別れ際になるとそんな一面すらかけがえのない物に思えてくる。


馬車が屋敷の前に到着する。

装飾の施された貴族が使うような馬車だ。

一体どこからそんなお金を出しているのだろう。

以前不思議に思い聞いたこともあったが、彼女は金銭の心配はしなくていいというだけだった。

何か後ろ暗い方法で稼ぎを得ている訳でもなさそうなので、詳しく聞くつもりはないが、出来ればいつか教えてもらいたいものだ。


「行ってくるよ。」

「坊っちゃん。」

馬車に足をかけると、マーガレットにロケットペンダントを手渡される。

魔力視をしてみると、何やら魔力がこもった品だった。

「本当に危なくなった時、それを開けてください。」

「分かったよ、ありがとう。」

「ではお坊ちゃん────いってらっしゃい。」

「行ってきます。」


マーガレットの頬を涙が伝う。

未練を断ち切るように前を向く僕の頬を伝う涙は、多分もっと多かった。











この世界に生まれた人々の誰もが一度は聞く物語がある。


偉大なる魔術王メイガス。

あらゆる物を魔術によって操る神の如き存在。

彼の者は万能の君としてこの広い広い世界を一つに治めていた。

治められていた人々は争いもなく幸せに生きていた。

しかし、光あるところには必ず影もある。

世の混沌を目論む狂信者ファナティック達は自らの命を犠牲に魔神を呼び出した。

魔神の力は凄まじいもので幾つもの大陸、そして幾億の命が奪われることとなった。

彼は愛しい家族を残し、たった一人で魔神と対峙した。

数十の星の如き魔術を使える彼でも魔神の力には及ばなかった。

彼は結局命をとして魔神を封印することに成功したのだ。


彼の犠牲のお陰で僕達は生きている。


さて、このお話のどこからどこまでが真実かはおいておいて確かに彼は実在した。

千年以上前の話だけどね。


………お前は誰だって?


僕は語り部さ。

歴史の全てを見てきた。もちろんメイガスの事もよく知ってる。


おっと、僕の事なんてどうでもいいんだ。

今から語るのはとある少年のお話だ。


この魔術に溢れる世界に生まれながら、魔力を持たず魔術の一つも使えない。

そんな少年が、伝説の魔術の存在を証明しようともがく物語だ。


さて、タイトルはどうしたものか。


ふーむ、じゃあこの物語をこう名付けよう。


魔術の使えない賢者の物語


マガセントセイジと













馬車が止まる。

窓の外を見ると、僕の家よりも一回り大きい屋敷。

その前には金髪の少女が立っていた。

貴族だ。相乗りがいるとは聞いていたが、まさか貴族と一緒だとは思っていなかった

見送りがないことから彼女の家の中での扱いが想像できた。

しかし、少女は暗い顔一つせず馬車へ乗り込んでくる。

そういう扱いに慣れているのだろう。


そうか貴族か……

面倒な旅になりそうだ。


彼女はそのまま座席に座る。

容姿はかなり整っている。


「何か?」

「いや別に。」


じろじろと見ていたのがばれたのだろう。

鋭い視線が飛んでくる。

少なくとも人当たりが良い方では無さそうだ。


僕はこのロイヤル王国の貴族とは関わりたくない。

何故なら彼らには根深い選民意識があるからだ。

魔術の練度、魔力の量によって優劣を語り、魔導具などを作り出す魔具制作家への待遇は大陸一悪いといっても過言ではない。

それも僕がこの国を出ようと思う理由の一つ。


そして……


「あなたマガセントなのね。」


僕はその選民意識の中では最下層の存在だからだ。


マガセント

魔力を持たないまたは属性魔術を使えない者を指す言葉。

僕はその内の前者で生まれつき魔力を持っていない。

よりによって貴族と一緒になるなんて僕も運が悪い。


「そうだけど何か文句あるの?」

「すぐに人につっかかるのは弱さの証よ。」

「貴族様にマガセントの気持ちなんて分かりませんよ。」


少女の体からは一目見て分かるほどの魔力が迸っていた。


この少女と話していても時間の無駄だ。

僕はトランクを開き魔術を発動するために必要な、術式を書き込んであるノートを取り出す。



「それは何?」

「術式のメモです。別に珍しくもないでしょう。」


少女は僕が筆を走らせるノートを覗き込む。


「何が珍しくない、よ。こんな術式公表されている物の中には無いわ。」

「あなたが知らないだけでしょう。いたって普通の術式ですよ。」

「嘘ね。私の実家には本がたくさんあるの。これは空間、天地………それと反転。複雑だけど要は飛行用ホウキと同じ原理ね。驚いた、この術式を売り込めば一山築けるわよ。」


少女は数瞬ノートを見つめると、術式を読み取ったようだった。その推測はおおよそ正しい。

驚いたとはこちらのセリフだった。

この術式には現在使われている術式とかけ離れた記号、遥か異国の記号が使われている。一瞬で見抜いたその知識量は異様な物だ。


「これでも記憶力には自信があるの。」

少女は自信ありげに胸を張る。

どうやら驚きが表情に現れていたようだった。


僕はノートを閉じる。

これ以上術式を読み取られてはたまったものではない。

彼女が言った通り新しい術式の価値は計り知れないのだ。いくつもストックを持っているとはいえ、術式を読み取れる人間を前にこれ以上見せるわけにはいかない。


本当に貴族は、いやこの女は厄介だ

これで馬車の中で出来ることが大幅に削られてしまった。



こうして僕の二日間に渡る長い旅は、予定と違うものとなっていった。





「…ぃちゃん。兄ちゃん!降りな、着いたよ。」

御者のおじさんの声に、まどろみから引き上げられる。

隣を見ると既に貴族の少女、ラピス・ストレリチアは居なくなっていた。

代金を払った僕は馬車から降りると、視界一杯に広がる巨大な都市を見上げる。


空高くそびえ立つ建築物の数々

活気に溢れた街道

そして空を飛ぶ人々


そうここは魔導国家レプブリック。

この世界で最も魔術の発展した最高にイカした国だ。



入国審査官の元を訪れ手続きを済ませる。

「魔導国家レプブリックへようこそ。インヘリット魔術学校行きの魔導車は五分後に到着します。」

「分かりました。ありがとうございます。」

親切な入国審査官に感謝を伝えた僕は待合所に足を運ぶ。


僕がこの魔導国家レプブリックへ来た理由は一つ。

世界最高峰の設備、人材、歴史を誇るインヘリット魔術学校に入学し、伝説の魔術と言われる時空魔術の存在を証明するためだ。

目的地がレプブリックの時点で予想できてはいたが、ラピスの目的地もインヘリット魔術学校だった。



待合所には十人程の新入生の姿があった。

ラピスの姿はない。これより前の魔導車に乗ったか、寄り道をしているかのどちらかだろう。

中に入ると好奇の視線と嘲笑にさらされる。


「マガセントが魔術学校に何の用だ。」


マガセント。魔力を持たない、または属性魔術を使えない人達を称する言葉。


僕は彼らにとって魔力を持たないマガセントでありながら、世界最高峰の魔術学校に入ろうとしている、自分で言うのもなんだが相当な奇人だと言うことだ。



貴族のボンボン達が集まる学校だ。こんな事態も予想していた……していたが実際にやられると相当に頭に来る。インヘリットの厳しい入学試験を乗り越えたものの中にもこんな馬鹿はいるようだ

だがここで手を出してはいけない。

最悪内定を取り消されることもありえる。


僕は新入生達ににらみを利かせ黙らせる。

大きい隈のできたいつも不機嫌そうに見えるというこの目もこういう時には役に立つ。

彼らもここで騒ぎは起こしたくは無かったようですんなりと声を沈めた。




しばらく待っていると何台もの魔導車が到着する。


僕が待合所に着いたのは最後から二番目だったようで、最後尾の車に乗ることになった。


隣に僕よりあとに来た女が乗り込むと魔導車は動きだした。


「すごい……」

景色が流れるように移り変わっていく。

飛行用ホウキの免許を持つものすら数える程しかいないほどの田舎にすむ僕にとって、それは感動的な光景だった。



魔導車はやがて宙に続く道に乗り上げ、そのまま国の中心部へ走り始める。

眼下にはいくつもの巨大な施設。


太陽のシンボルを掲げたあの建物は世界魔術協会の本部だ。

インヘリットを無事卒業できた場合はあそこに属することになるだろう。


世界魔術協会序列第一位のステル、九賢達に教えを乞えば僕の目標、時空魔術の存在の証明に大きく近づくことが出来るだろう。



時空魔術


かつて魔術王メイガスが存在を示唆したという伝説の魔術。

時間、空間を操る魔術で、無限に存在する平行世界への干渉、時間の流れへの干渉が出来ると言われているが歴史上時空魔術の存在が確認されたことはない。


世界魔術協会最高位の魔術師、ステル達でさえ実現出来ない魔術だ。マガセントにとってその証明は想像を絶するほどの苦難の道だろう。


だが時空魔術の存在の証明は僕自信の望みだ。他の誰が何と言おうとも、僕自身のために絶対に証明して見せる。





流れていく景色を眺めていると、隣の淡い青髪の美しい女が興味ありげに話しかけてきた。


「ねぇねぇ、この魔導車に乗ってるってことは、君もインヘリットに行くんだよね?」


不思議な女性だった

青い瞳は見つめていると、どこまでも深く潜っていくような錯覚を感じる。

その身振りは活気に溢れたものでありながら、どこか気品も感じられる。

それに不思議なことに、どこか懐かしい感覚を覚えた。

初めて会う人にも関わらず、だ。


「はい。あなたもインヘリットに?」

「うん。ねぇ、よかったらお互いにインヘリットでの目標を言い合わない?学園での励みになると思うの。」








「─────そしたらマーガレットは言ったんだ。『坊っちゃん。私はメイドです』って。だから頼んでるんだろ!?それで結局荒れ果てた庭の修復は僕がすることになったんだ。」

「あはははは!そのマーガレットって女性は愉快な人だね。ぜひ会ってみたいよ。」

「それは難しいね。彼女は僕以外の人と関わりたがらないんだ。特に敷地内に人を入れることは絶対にない。昔迷い混んだ魔獣が千切りにされていたのを見たときはゾッとしたよ。」




本当に楽しそうに僕の話を聞くからこっちまで楽しくなってくる。

彼女は聞き上手なのだ。

マーガレットの事や聞かれていないことまで話してしまった。


「そうだ。君の名前教えてくれない?」

「名前?あぁそっか君は知らないんだった。」

彼女はいたずらっぽい笑みを浮かべて言った。

「そのうち分かるよ。」







「じゃあまた。」

「うん。またねー。」

インヘリットに到着すると、彼女は何か用事があるようで会場とは違う場所へ向かっていった。彼女を見送ると僕はインヘリットを見上げる。


凄い結界魔術だ。

最上位魔術でも傷一つ付かないだろう。

じっくりと観察したいところだが、入学式なるものがもうすぐ始まる。

そこでクラス分けもされるようなので遅れるわけにはいかない。

毎日ここに通うのだ。結界なんていつでも見れる。

そう自分に言い聞かせ何とか未練を断つと僕は会場へ向かった。




周囲から注がれる視線を無視して前を向いて立つ。

約八十人全員が新入生。上級生の姿はない。式には参加しないようだ。


壇上の教師の口から語られるのは、生活を送る上での注意などそのどれもが事前に送られてきたパンフレットに書かれていたことだった。

周囲の同級生達は退屈な顔をしている。

僕も同じような顔をしているだろう。



「────では学長、よろしくお願いします。」

「やぁ新入生の皆。入学おめでとう。学長のフェイス・インヘリットだ。」

「!?!?!?」


壇上に登ったのは、淡い青髪の美しい少女。

つまりつい先ほど別れた魔導車に同乗していた少女だった。

混乱のあまり口をパクパクと開いてしまう。


そんな僕を見て、壇上の少女が小さく笑ったような気がした。


「長ったらしい話は止めよう。僕から言うことはたったの二つ、魔術の研鑽を積みなさい。学園内には色んな施設があるから後で見て回るといいよ。そしてもう一つは他人を尊重しなさい。インヘリットには自身と違う国、文化、思想の人間が多く集まっている。自分と他人が違うのは当たり前の事だと心得る事。この二つを守ってくれれば基本は自由に過ごしてくれて構わない。じゃあゴーメット先生クラス発表よろしくね。」

「はい。」


フェイス学長に変わり、ゴーメット先生と呼ばれた教師が壇上に上がる。

ゴーメット先生により名前が呼ばれた生徒達が会場から出ていくが、僕は未だにショックから抜け出せないでいた。

あの少女が学長。何か失礼なことを仕出かしてはいなかっただろうか。

普通にタメ語で話してしまった……いや学長も嫌な顔はしていなかったから大丈夫だとは思うけど────


「一組セイジ・エナモル」

「っ!はい!」


気付けば自分の番だった。

周りにはほとんど人がいない──というか僕一人だった。

僕は返事をすると一人で一組へ向かった。



「ばぁ!!!」

「うわぁっ!?」

「あはは!」

廊下の影からいきなり飛び出してきたのはフェイス学長だ。

この子供っぽさを見ると本当に学長かどうか分からなくなってくる。


「実は僕学長でしたー。」

フェイス学長はそういうとカラカラと笑い声を上げる。

彼女が学長。そうなると気になってくるのが、どうして僕と同じ魔導車に乗っていたのかだ。


「こうやって毎年生徒を驚かせるのが僕の楽しみなんだ。」

「インヘリット学長は悪趣味ですね。驚きすぎて死ぬところでした。」

「学長命令だ。僕の事はフェイスと呼びなさい。そして敬語は禁止。分かった?」

「────いや流石にそれは」

「退学にするぞ?」

「職権乱用だ!」

「ふはは、この学園では僕こそが神なのだ。」

「……分かったよフェイス。でも二人きりの時だけだ。」

「ふふん。まぁそれで許してあげよう。そのトランクの中にある君のノートも気になるところだけど今はあまり時間もないからね。」

「何で知ってるの???」

「学長は何でも知ってるものなのさ。さぁ行きなさい、楽しい学園生活が待ってるよ。」


笑うフェイスに見送られ廊下を後にした。



フェイスと別れ十分程歩くとようやくクラスにたどり着いた。

最高の施設が揃っているのは良いのだがその数もかなり多いため、必然的に学園自体が巨大なものになっていた。端から端まで歩くのに一時間以上はかかるんじゃないだろうか。

まるで一つの街のようだった。



教室に入る。

確か僕の席は最前列の右から二番目だったはずだ。


「げ」

「げって何よ。」


ラピスだ。

クラス分けを聞いていなかったので知らなかったが、同じクラス、その上隣の席だったようだ。

まぁインヘリットでは基本的にクラスに集まることは無いので関わることもないだろう。

というのも旅の途中で意見が合わないことが多すぎて、苦手意識を持ってしまったという理由があった。


「いや喉に昼食のパンが突っかかっていて、僕はもちろんうれしいよ。よろしくお願いします。」


席に着く。

まだ教師はクラスに来ていないようで、クラスは一定の喧騒に包まれていた。

クラスの人数は四十人程だろう。フェイスの説明通り多種多様な民族が集まっている。そのなかには特徴的な金髪───ロイヤル王国の貴族も何人か集まっていた。



「マガセント共が魔術学校に何の用だ。」

背後から声をかけられる。

振り返ると不機嫌そうな金髪の男が此方を見下ろしていた。

彼の両側には取り巻きと見られる二人が、ニヤニヤと笑みを浮かべている。

呆れた。

まだロイヤル王国にでもいるつもりなのだろうか。


それにしても『共』とはどういう意味だろう?

このクラスに僕以外のマガセントが居るような口振りだ。


このクラスに魔力をもっていない人間は居ない。と言うことは属性魔術を使えない者がいるということだが、魔力視を使っても属性魔術が使えるかどうかまでは分からない。



一体どうやって僕以外のマガセントの存在を知ったのか。

その答えはすぐに分かることとなった。




「なぁ、ラピス・ストレリチア。名門に生まれた落ちこぼれのお嬢様。」




もう一人のマガセントはラピスだったのだ

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