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1章
32話 出立の日。
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アリアと撫子は丁度、獣人の子等の診察を終えた所だった。
「アリア!撫子!魔石!魔石だよ!えーと、ほらっ!」
興奮して頭が追い付かない。
「兄様、少し深呼吸をしましょう。」
「そうですね御主人様、深呼吸なさって下さい。」
ふーふーと息を吐き頭を整理する、因みにアリアは俺の事を御主人様と呼んで居る。
よし、落ち着いてる落ち着いてる。
「アリア、魔石、サリュ達を元に戻す為の呪文を込める魔石が作れそうだ、なんでこんな簡単な事にここに居る誰もが気が付かなかったんだろうって思うよ!」
「え?ギフトと、魔法を込める方法がある、と言う事ですか?それは、ですが魔石にギフトを込めると砕けてしまうのは通説ですよ?」
俺は掌に収まった洗脳が込められた魔石を2人に見せる。そして、インベントリを開き、魔石を取り出す。ソニアが売らないで取っておいて魔道具でも作った方が良いと言った。赤い魔石、ギフト持ちの魔物からしか出ないであろう赤い魔石だ。
「今まで誰か試した奴って居たのかな?」
「兄様!」
「御主人様!」
2人とも気付いた様だ。其処へ俺を追い治療院にやってきたカザール子爵は、訳が解らないと言った顔で俺達を見つめていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
俺達はサリュの座るベットの前に立って居た。撫子と、俺と、アリアだ、サリュの目はまだ虚ろで辛うじて俺が動くと目で追えるかと言った程度だ。
俺は紅い魔石を手に握って居る。あれから3日程か、魔法術式を完璧なものにし、其処に解呪のギフトと、魔法をアリアが込めた後。赤から、紅へと、色が変化したのだ、そしてサリュに手を当て唱える。
解放!
光がサリュの体を包みその光がサリュの身体に吸い込まれて行く。サリュの瞳に光が差して行く様に見える、今迄、何処に視線が有るか解らないサリュの目が確りと俺の顔を捉えて居る、そして、アリアを、撫子を見る。
「ーーーーあっ・・・わひ と・・ーー」
「ああ、」
「わひと、ワヒト、ワヒトっワヒトっっ!!」
サリュは、俺の名前を、自分がきちんと話せて居るのを確認するかの様に何度も何度も呼ぶ、そしてベッドの横に立った俺に抱き付いてくる。俺はそんなサリュを抱き締め返す。
「ああ・・・おかえりサリュ・・・」
「ずっとっ!モヤの中に居るみたいだったっ・・・ワヒトや皆んなの声が聞こえるのに、声に出なくてっ・・・自分のからだじゃ無いみたいで!声を出したくても出せなくてっ」
「ああ、」
「こわかったよぉ・・・ワヒトぉ・・・」
「もう、大丈夫だから、心配要らないからな?」
俺は目一杯優しく、サリュの髪を撫でてやる。サリュは俺の胸の中でスンッと匂いを嗅ぐ、胸の中で、くぐもった声で、わひとだぁ、とそう呟く、俺はサリュが無性に愛おしく感じ、強く抱き締めた・・・
「んうぅ、くる しいよ?わひと、」
「あぁ、悪い・・」
サリュは落ち着いた様で、胸から顔を出し俺を上目遣いに見上げた、彼女はベッドに座り、俺は立ったままの状態だから、顔の位置はサリュの方が低かった、俺はサリュを抱きしめる手を緩め少し距離を取った、サリュの顔を近くで見るのが急に恥ずかしくなったんだ。
それに、1年以上経って、あの後すぐ俺の年が8歳になった、どうやら、年を取るタイミングが地球に居た頃の誕生日、1月が誕生日だ、そして、この前9歳になった。俺の身体も獣人の血が混じって居るからか、成長が少し早い様で、おそらく12歳程の見た目だろう、背もサリュと同じ程だ。
「サリュ、元に戻って本当に、嬉しいわ。私達は治療院の仕事があるからもう行くけど、
夕飯の時にまた、沢山話しましょう?それまで兄様とゆっくりしててね?」
「うん、2人ともありがとう・・・」
撫子は、そう言うと、アリアとともに交互にサリュを軽く抱き締め部屋を出て行った。2人に気を使わせてしまった様だ。
サリュはベッドから足を下ろし、立ち上がろうとする。この一年マトモに立つ事はなく、幾ら身体値が高いとは言えふらつくサリュを少し支えてやる。
「わぁっ、ワヒトなんだか、大きくなったね、もうサリュより少し大きいくらいだぁ、」
「あー、アレから1年経ったからな。身長も伸びるさ。」
サリュはずっと身体を動かす事が無かったからなのか、この身長が、元々のサリュの伸び代の限界なのかは解らないが、1年前とさほど変わっては居なかった。
「そっか、1年も経ったんだね・・・あ、ワヒト、学園は・・・?」
「サリュをこのままにして此処を離れる事はしたく無かったんだ、まあ、何歳になっても行けるみたいだしな。」
サリュは俺にまた、飛び掛かってくる。今度はお互いに立っているから目線が同じ位、つまり目の前にサリュの顔があった。
「ゴメンね?ワヒト、ありがとう、ワヒト。」
「それは、あー別に良いけど、ちょっと近すぎやしないか?もう少しだな、なんと言うか・・・」
「良いのっ、久しぶりのマーキングなんだから!」
「マーキング・・ね・・・」
俺は9歳、サリュは8歳 。
大凡、まだ俺達がする様な会話では無い。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
サリュが元に戻った後、俺達はすぐにカザール子爵に連絡を取り他の獣人達にも魔石を使った。子爵は赤い魔石がとても高価である事を知って居た為、使った分の金額を払うと提案して来たが、断った、子爵の御蔭でなんとか出来た様なものだ。金なんて取る訳には行かない。
俺達は洗脳に対抗する方法が出来た事をラルンド卿へと伝えた、ラルンド卿は今回の件を国王にはもう伝え、王都でも注意する様にと御触れを出す様に進言して居たらしく。解決法、魔石にギフトと魔法を詰める方法を早速伝えるとの事だった。洗脳が詰まった魔石は俺の所有物の為、王国でもしも必要な場合は、学園の方に連絡が行く様にしておくがそれで良いかを聞かれた。
意識を戻したサリュや獣人達に聞いた所、獣人達の場合は、森で魔物と戦っている所をラッチェスに助けられて洞窟へ誘導してから洗脳の魔石を使ったり、森で直接襲われる者も居た。サリュは森での狩り中、休憩の時に飲み物を飲んだ後の記憶が曖昧、という事だった。
サリュ達が元に戻ってから半年程過ぎた、体調もほぼ完全に戻り、狩りにも行っているし、レベルも順調に上がっている。其れよりも問題なのが・・・
「なあ、サリュ?やっぱり近過ぎやしないか?」
「いーのっ!サリュの、てい位置はココって決まってるんだから!」
「誰が決めたんだよ・・・」
「サリュに決まってるじゃん!むふー」
サリュは俺の腕に自分の腕を絡ませている、最近は終始こんな感じだ。飯を食う時、散歩に行く時、ギルドでも、家でも、狩りに行く移動ですら、腕を組んで無い時といえば、トイレの時と鍛錬の時、狩りをしている最中、位だろう。そうだ、寝ている時ですら・・・・いや、何も言うま、い・・・・
「サリュはさ、俺が来年学園に行く時、どうするんだよ?」
「えーとね、今度こそBランカーになって王都で冒険者するんだよっ!前の試験落ちた時に思い付いたからさ、とっても凹んじゃったよぉ・・」
成る程、だから前回落ちた時にあんなに凹んで居たのか。そう考えると納得出来る所も多少ある気がする。
其れでだ、今日はサリュのBランクへと上がる為の試験の日、俺達はギルドの試験会場に向かう所だった、目の前を歩いて居るのはアルスだ。今回もアルスが試験官をしてくれるらしい。
アルスとサリュが試験会場の中央で向い合い、立っている。俺は端の方に立ち、サリュを見守る、1年半前と同じ様に両者共に木製短剣の二刀流だった。アルスが指を1つ立てサリュに向かい何かを話している。サリュがコクリと頷くと、木製短剣を構え。
サリュが攻める、トトンッと地を軽く蹴るとアルスの側まで素早く移動する、アルスは先制の一撃に備え短剣を動かす、其処にサリュの短剣が吸い込まれる様に叩き込まれる、カンッと小気味の良い音が響く。
片方の手を返しニ打撃め、其れも防ぐアルス。サリュはすぐさま、身体を捻らせアルスの横腹に向かい右足で中段蹴りを放つ。
身体を引きアルスは其れを避けるが、蹴りの勢いで更に身体を回転させ左足の後ろ回し蹴りでアルスの短剣を蹴り、弾き飛ばす。
着地と同時、地面を蹴り加速、アルスへと距離を詰め懐へ入ると時間差での二刀攻撃を仕掛ける、一打目をアルスは木剣で弾くが、ニ打目は木剣の刃を掌で掴み止める。サリュは更に蹴りを出そうと、身体を捻るが・・・アルスが声をあげた、
「うん良いよ合格だ、コレが木剣じゃなければ、僕の手はズタズタで一撃を入れた以上だよ。」
「え、え?やった!やったよぉー!」
サリュは、ピョンピョンとその場で跳ね、喜んでいる。今日の夕飯は御馳走を用意しないとな。あの日は慰めのパーティは出来ずじまいだったが、今日こそはお祝いの肉パーティだ。
その後、サリュと俺はギルドの窓口に移動し、ギルドカードの更新をする。ギルドカードの色が変化して行く、ブロンズからシルバーへと・・・晴れてサリュはBランク冒険者となった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
朝、早くから俺とサリュは準備をして居た。荷をインベントリに詰める、何日か分の食料や馬車で寝泊まりする為の毛布等、最後に王都のギルドへの紹介状を詰め込む。荷物はこうして全てインベントリに入るので走って学園のある王都へと急いでも良いが、其れも風情がないし。旅を楽しむ意味でも馬車で行く事にした。
馬車は何日か前にもう用意してあった。ケインに王都まで送らせるのは帰りが1人で可哀想だったので、新たに購入し、自分達で御者をして行くことにした。その為の練習も済んでいる。
撫子は王都までは付いて来ない、撫子の事だから何が何でも側に・・・となるかと思ったが・・・
「兄様に着いて行きたい所ですが。サリュが一緒に行くのなら兄様の身の回りの事はサリュに任せましょう、それに治療院を長く離れる訳にも行きませんし……王都に ちょっ ……行き く無 ーーーー」
後半は完全に聞き取れなかった。が、何かボソボソと言っていた。俺達は準備が済み撫子とアリアと、別れの挨拶を済ませると屋敷から外に出る。と、門の方から誰かが物凄いスピードで走って来る。白い髪を靡かせて近づいて来るのはシイロだった。
シイロは俺の手前でジャンプし俺の胸に飛び込んで来た。
「クロトにいっ。もう行くの?もう少しゆっくりして行こうよ、ね?」
シイロは俺に抱かれたまま御願いをして来る、可愛いシイロの頼みだがそう言う訳にも行くまい。どうしようか俺が迷っていると後ろからサリュがシイロを持ち上げ引き剥がそうとする。
「コラコラ、シイロぉ?クロトに抱きつくのは良いけどあんまり引っ付いてるとサリュのマーキングが消えちゃう。」
「むぅぅう!ワタシもマーキングするんだもんっ!」
シイロは俺の胸にグリグリと顔を押し付ける。
「こら、シイロ、クロト君が困ってるだろう?」
後ろから歩いて来た、アルスがシイロに話し掛ける。メルムも一緒だ。
「もう行くのね、なんだか2年間があっという間だったわ、学園には長いお休みもあるんでしょう?その時にまた会えるじゃないシイロ、そうよねクロト君?」
其れは実質休みには帰って来いと言う事だな。シイロがハッとした顔をし、視界の端で撫子が目を瞑り頷いている、なんと言う強制力か。俺はシイロを引き剥がすと、優しく話し掛ける。
「ちゃんとたまには帰って来るし、手紙も書くよ。其れじゃダメか?シイロ。」
「うーん、しょうがないなぁ良いよ、ワタシ我慢するね?」
手を離しトンと地面に降りる、ふわっと俺と同じ色の髪が揺れる。シイロは俺を見上げるとにっこりと笑う、うん、可愛いな妹って、こう言う感じなんだろうな、こうだよなやっぱり、うんうんと頷くと、何か視線を感じる、ジッと俺を見つめる視線を・・・
撫子が無言でこちらを見ていた。怖いよ撫子、悪かったよ撫子・・・・・
俺達は馬車へ乗り込む、最初の御者は俺が務める事にした。サリュは御者台つまりは隣に乗って来た。コレって馬車の意味有ったのだろうか?いや、まあ深く考えたらダメだ、うん。
下から見上げる、撫子、アリア、アルスとメルム、そしてシイロに手を振り、馬車に軽く鞭を入れた。
「じゃあ!行って来るなっ!」
そう言うと馬車は走り出したのだ。
「アリア!撫子!魔石!魔石だよ!えーと、ほらっ!」
興奮して頭が追い付かない。
「兄様、少し深呼吸をしましょう。」
「そうですね御主人様、深呼吸なさって下さい。」
ふーふーと息を吐き頭を整理する、因みにアリアは俺の事を御主人様と呼んで居る。
よし、落ち着いてる落ち着いてる。
「アリア、魔石、サリュ達を元に戻す為の呪文を込める魔石が作れそうだ、なんでこんな簡単な事にここに居る誰もが気が付かなかったんだろうって思うよ!」
「え?ギフトと、魔法を込める方法がある、と言う事ですか?それは、ですが魔石にギフトを込めると砕けてしまうのは通説ですよ?」
俺は掌に収まった洗脳が込められた魔石を2人に見せる。そして、インベントリを開き、魔石を取り出す。ソニアが売らないで取っておいて魔道具でも作った方が良いと言った。赤い魔石、ギフト持ちの魔物からしか出ないであろう赤い魔石だ。
「今まで誰か試した奴って居たのかな?」
「兄様!」
「御主人様!」
2人とも気付いた様だ。其処へ俺を追い治療院にやってきたカザール子爵は、訳が解らないと言った顔で俺達を見つめていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
俺達はサリュの座るベットの前に立って居た。撫子と、俺と、アリアだ、サリュの目はまだ虚ろで辛うじて俺が動くと目で追えるかと言った程度だ。
俺は紅い魔石を手に握って居る。あれから3日程か、魔法術式を完璧なものにし、其処に解呪のギフトと、魔法をアリアが込めた後。赤から、紅へと、色が変化したのだ、そしてサリュに手を当て唱える。
解放!
光がサリュの体を包みその光がサリュの身体に吸い込まれて行く。サリュの瞳に光が差して行く様に見える、今迄、何処に視線が有るか解らないサリュの目が確りと俺の顔を捉えて居る、そして、アリアを、撫子を見る。
「ーーーーあっ・・・わひ と・・ーー」
「ああ、」
「わひと、ワヒト、ワヒトっワヒトっっ!!」
サリュは、俺の名前を、自分がきちんと話せて居るのを確認するかの様に何度も何度も呼ぶ、そしてベッドの横に立った俺に抱き付いてくる。俺はそんなサリュを抱き締め返す。
「ああ・・・おかえりサリュ・・・」
「ずっとっ!モヤの中に居るみたいだったっ・・・ワヒトや皆んなの声が聞こえるのに、声に出なくてっ・・・自分のからだじゃ無いみたいで!声を出したくても出せなくてっ」
「ああ、」
「こわかったよぉ・・・ワヒトぉ・・・」
「もう、大丈夫だから、心配要らないからな?」
俺は目一杯優しく、サリュの髪を撫でてやる。サリュは俺の胸の中でスンッと匂いを嗅ぐ、胸の中で、くぐもった声で、わひとだぁ、とそう呟く、俺はサリュが無性に愛おしく感じ、強く抱き締めた・・・
「んうぅ、くる しいよ?わひと、」
「あぁ、悪い・・」
サリュは落ち着いた様で、胸から顔を出し俺を上目遣いに見上げた、彼女はベッドに座り、俺は立ったままの状態だから、顔の位置はサリュの方が低かった、俺はサリュを抱きしめる手を緩め少し距離を取った、サリュの顔を近くで見るのが急に恥ずかしくなったんだ。
それに、1年以上経って、あの後すぐ俺の年が8歳になった、どうやら、年を取るタイミングが地球に居た頃の誕生日、1月が誕生日だ、そして、この前9歳になった。俺の身体も獣人の血が混じって居るからか、成長が少し早い様で、おそらく12歳程の見た目だろう、背もサリュと同じ程だ。
「サリュ、元に戻って本当に、嬉しいわ。私達は治療院の仕事があるからもう行くけど、
夕飯の時にまた、沢山話しましょう?それまで兄様とゆっくりしててね?」
「うん、2人ともありがとう・・・」
撫子は、そう言うと、アリアとともに交互にサリュを軽く抱き締め部屋を出て行った。2人に気を使わせてしまった様だ。
サリュはベッドから足を下ろし、立ち上がろうとする。この一年マトモに立つ事はなく、幾ら身体値が高いとは言えふらつくサリュを少し支えてやる。
「わぁっ、ワヒトなんだか、大きくなったね、もうサリュより少し大きいくらいだぁ、」
「あー、アレから1年経ったからな。身長も伸びるさ。」
サリュはずっと身体を動かす事が無かったからなのか、この身長が、元々のサリュの伸び代の限界なのかは解らないが、1年前とさほど変わっては居なかった。
「そっか、1年も経ったんだね・・・あ、ワヒト、学園は・・・?」
「サリュをこのままにして此処を離れる事はしたく無かったんだ、まあ、何歳になっても行けるみたいだしな。」
サリュは俺にまた、飛び掛かってくる。今度はお互いに立っているから目線が同じ位、つまり目の前にサリュの顔があった。
「ゴメンね?ワヒト、ありがとう、ワヒト。」
「それは、あー別に良いけど、ちょっと近すぎやしないか?もう少しだな、なんと言うか・・・」
「良いのっ、久しぶりのマーキングなんだから!」
「マーキング・・ね・・・」
俺は9歳、サリュは8歳 。
大凡、まだ俺達がする様な会話では無い。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
サリュが元に戻った後、俺達はすぐにカザール子爵に連絡を取り他の獣人達にも魔石を使った。子爵は赤い魔石がとても高価である事を知って居た為、使った分の金額を払うと提案して来たが、断った、子爵の御蔭でなんとか出来た様なものだ。金なんて取る訳には行かない。
俺達は洗脳に対抗する方法が出来た事をラルンド卿へと伝えた、ラルンド卿は今回の件を国王にはもう伝え、王都でも注意する様にと御触れを出す様に進言して居たらしく。解決法、魔石にギフトと魔法を詰める方法を早速伝えるとの事だった。洗脳が詰まった魔石は俺の所有物の為、王国でもしも必要な場合は、学園の方に連絡が行く様にしておくがそれで良いかを聞かれた。
意識を戻したサリュや獣人達に聞いた所、獣人達の場合は、森で魔物と戦っている所をラッチェスに助けられて洞窟へ誘導してから洗脳の魔石を使ったり、森で直接襲われる者も居た。サリュは森での狩り中、休憩の時に飲み物を飲んだ後の記憶が曖昧、という事だった。
サリュ達が元に戻ってから半年程過ぎた、体調もほぼ完全に戻り、狩りにも行っているし、レベルも順調に上がっている。其れよりも問題なのが・・・
「なあ、サリュ?やっぱり近過ぎやしないか?」
「いーのっ!サリュの、てい位置はココって決まってるんだから!」
「誰が決めたんだよ・・・」
「サリュに決まってるじゃん!むふー」
サリュは俺の腕に自分の腕を絡ませている、最近は終始こんな感じだ。飯を食う時、散歩に行く時、ギルドでも、家でも、狩りに行く移動ですら、腕を組んで無い時といえば、トイレの時と鍛錬の時、狩りをしている最中、位だろう。そうだ、寝ている時ですら・・・・いや、何も言うま、い・・・・
「サリュはさ、俺が来年学園に行く時、どうするんだよ?」
「えーとね、今度こそBランカーになって王都で冒険者するんだよっ!前の試験落ちた時に思い付いたからさ、とっても凹んじゃったよぉ・・」
成る程、だから前回落ちた時にあんなに凹んで居たのか。そう考えると納得出来る所も多少ある気がする。
其れでだ、今日はサリュのBランクへと上がる為の試験の日、俺達はギルドの試験会場に向かう所だった、目の前を歩いて居るのはアルスだ。今回もアルスが試験官をしてくれるらしい。
アルスとサリュが試験会場の中央で向い合い、立っている。俺は端の方に立ち、サリュを見守る、1年半前と同じ様に両者共に木製短剣の二刀流だった。アルスが指を1つ立てサリュに向かい何かを話している。サリュがコクリと頷くと、木製短剣を構え。
サリュが攻める、トトンッと地を軽く蹴るとアルスの側まで素早く移動する、アルスは先制の一撃に備え短剣を動かす、其処にサリュの短剣が吸い込まれる様に叩き込まれる、カンッと小気味の良い音が響く。
片方の手を返しニ打撃め、其れも防ぐアルス。サリュはすぐさま、身体を捻らせアルスの横腹に向かい右足で中段蹴りを放つ。
身体を引きアルスは其れを避けるが、蹴りの勢いで更に身体を回転させ左足の後ろ回し蹴りでアルスの短剣を蹴り、弾き飛ばす。
着地と同時、地面を蹴り加速、アルスへと距離を詰め懐へ入ると時間差での二刀攻撃を仕掛ける、一打目をアルスは木剣で弾くが、ニ打目は木剣の刃を掌で掴み止める。サリュは更に蹴りを出そうと、身体を捻るが・・・アルスが声をあげた、
「うん良いよ合格だ、コレが木剣じゃなければ、僕の手はズタズタで一撃を入れた以上だよ。」
「え、え?やった!やったよぉー!」
サリュは、ピョンピョンとその場で跳ね、喜んでいる。今日の夕飯は御馳走を用意しないとな。あの日は慰めのパーティは出来ずじまいだったが、今日こそはお祝いの肉パーティだ。
その後、サリュと俺はギルドの窓口に移動し、ギルドカードの更新をする。ギルドカードの色が変化して行く、ブロンズからシルバーへと・・・晴れてサリュはBランク冒険者となった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
朝、早くから俺とサリュは準備をして居た。荷をインベントリに詰める、何日か分の食料や馬車で寝泊まりする為の毛布等、最後に王都のギルドへの紹介状を詰め込む。荷物はこうして全てインベントリに入るので走って学園のある王都へと急いでも良いが、其れも風情がないし。旅を楽しむ意味でも馬車で行く事にした。
馬車は何日か前にもう用意してあった。ケインに王都まで送らせるのは帰りが1人で可哀想だったので、新たに購入し、自分達で御者をして行くことにした。その為の練習も済んでいる。
撫子は王都までは付いて来ない、撫子の事だから何が何でも側に・・・となるかと思ったが・・・
「兄様に着いて行きたい所ですが。サリュが一緒に行くのなら兄様の身の回りの事はサリュに任せましょう、それに治療院を長く離れる訳にも行きませんし……王都に ちょっ ……行き く無 ーーーー」
後半は完全に聞き取れなかった。が、何かボソボソと言っていた。俺達は準備が済み撫子とアリアと、別れの挨拶を済ませると屋敷から外に出る。と、門の方から誰かが物凄いスピードで走って来る。白い髪を靡かせて近づいて来るのはシイロだった。
シイロは俺の手前でジャンプし俺の胸に飛び込んで来た。
「クロトにいっ。もう行くの?もう少しゆっくりして行こうよ、ね?」
シイロは俺に抱かれたまま御願いをして来る、可愛いシイロの頼みだがそう言う訳にも行くまい。どうしようか俺が迷っていると後ろからサリュがシイロを持ち上げ引き剥がそうとする。
「コラコラ、シイロぉ?クロトに抱きつくのは良いけどあんまり引っ付いてるとサリュのマーキングが消えちゃう。」
「むぅぅう!ワタシもマーキングするんだもんっ!」
シイロは俺の胸にグリグリと顔を押し付ける。
「こら、シイロ、クロト君が困ってるだろう?」
後ろから歩いて来た、アルスがシイロに話し掛ける。メルムも一緒だ。
「もう行くのね、なんだか2年間があっという間だったわ、学園には長いお休みもあるんでしょう?その時にまた会えるじゃないシイロ、そうよねクロト君?」
其れは実質休みには帰って来いと言う事だな。シイロがハッとした顔をし、視界の端で撫子が目を瞑り頷いている、なんと言う強制力か。俺はシイロを引き剥がすと、優しく話し掛ける。
「ちゃんとたまには帰って来るし、手紙も書くよ。其れじゃダメか?シイロ。」
「うーん、しょうがないなぁ良いよ、ワタシ我慢するね?」
手を離しトンと地面に降りる、ふわっと俺と同じ色の髪が揺れる。シイロは俺を見上げるとにっこりと笑う、うん、可愛いな妹って、こう言う感じなんだろうな、こうだよなやっぱり、うんうんと頷くと、何か視線を感じる、ジッと俺を見つめる視線を・・・
撫子が無言でこちらを見ていた。怖いよ撫子、悪かったよ撫子・・・・・
俺達は馬車へ乗り込む、最初の御者は俺が務める事にした。サリュは御者台つまりは隣に乗って来た。コレって馬車の意味有ったのだろうか?いや、まあ深く考えたらダメだ、うん。
下から見上げる、撫子、アリア、アルスとメルム、そしてシイロに手を振り、馬車に軽く鞭を入れた。
「じゃあ!行って来るなっ!」
そう言うと馬車は走り出したのだ。
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長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
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