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第一部
突然の求婚
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その途中、大通りに面したオープンカフェで、見目も身なりもいい男性と向かい合い、楽しそうに談笑する魔女の姿を見つけて足を止めた。
マリアンナだ。自分と同じ金髪だが、肩より少し長いくらいで揃えているだけのオフィーリアと違い、腰あたりまで伸ばしてゆるく巻き、リボンのついたカチューシャをはめている。
アーモンド型の緑の瞳も、オフィーリアは腫れぼったい一重まぶたなのに対し、くっきりとした二重まぶたに長いつけまつ毛をつけていて華やかだ。
なるほど。マリナンアが忙しい理由は、仕事ではなくデートか。
この国の女性は、大体二十歳前後で結婚する。魔女は人生のほとんどを里で過ごすので、なかなか出会いがなく、知り合いや親族のコネでお見合いをして結婚することが多い。
マリアンナの作る薬は大変人気で、大店の薬問屋とも取引があるから、相手はそこの若旦那か番頭クラスの出世頭だろう。遠目から見ても親密そうなので、ただのお見合い相手というより恋人に近い関係なのかもしれない。
オフィーリアもそろそろお見合いの時期だが、落ちこぼれの魔女と結婚しようなんて殊勝な男性はいない。母からそういう話を持ち込まれたこともなければ、町へ降りてもナンパされたことだって一度もない。
薬草園さえあれば暮らしには困らない。だから別に結婚なんてしなくても……とは思うが、楽しそうにデートしている姉を見ていると、つい羨ましいとか妬ましいとかいう感情が湧き上がる。
そんな浅ましい自分をいさめるように首をブンブン振り、気持ちを切り替えて薬草園へ駆け出した。
******
母からもらったマナテリアルは、オフィーリアの薬より断然よく効いた。
人間なら塗ったところから傷口が塞がり、炎症による熱や腫れが引いていくが、ドラゴンではその効果は半分以下のようだ。
それでも、簡単に傷口が開くことはなさそうだし、出かける前より呼吸も落ち着いた。予断を許さない状態は脱したと言えるだろう。
ほっとしながら包帯を巻きなおし、毛布をかけてあげようとした時、ドラゴンが身じろぎをした。
まぶたが開き、瞳孔の裂けた金色の瞳がオフィーリアを捉えると、もぞもぞと毛布から出て立ち上がる。
「……ああ、よかった。無事だったんだな」
オフィーリアが何か言う前に、ドラゴンが目を細めてそう言葉を発した。
少し高いが、間違いなく男性の声だった。
ドラゴンが人間と同等の知性を持つらしいことは知っていたが、人間の言葉をしゃべれるなんて思わなかったので面食らってしまい、思わず半歩後ずさってしまった。
「え、あ、その、お蔭様で……ありがとうございました」
「いや、迷惑をかけたのはこちらだし、礼を言うべきは手当てをしてもらった俺の方だ。俺はディルク。君の名前を聞いてもいいだろうか?」
「……オフィーリア、です」
「オフィーリアか。美しい君にぴったりの名前だな」
「へあ?」
臆面なく美しいなどと言われ、オフィーリアは真っ赤になった。
お世辞で可愛いと言われたことくらいはあるが、美しいなんて誉め言葉は生まれてこの方聞いたことがない。しかも、美醜にうるさいというドラゴンに。
ドラゴンと人間の感覚は違うのか、それともディルクと名乗る彼だけが独特なのか……ドキドキする胸を押さえつつ「社交辞令、社交辞令」と心の中で繰り返し念じて気持ちを落ち着かせる。
「あ、ありがとうございます。お世辞でもうれしいです」
「俺はそんなつまらない嘘は言わない。ましてや、愛しい相手に嘘をつく理由がない」
「は、はい?」
耳慣れない言葉が連続で飛んできて、どんどん混乱していく。
人間的には愛しいって好きって意味だけど、ドラゴン的には別の意味があるに違いない。そう思い込もうとするが――
「一目で君に心奪われた。俺と結婚してくれ」
超ストレートなプロポーズに、頭の中が真っ白になった。
確かに、さっきカフェで男性と仲睦まじくしているマリアンナを見て、心から羨ましいと感じた。
恋人なんかいらないとか結婚したくないとか、そんなの強がりでしかない。
でも、初対面の相手、しかもドラゴンからプロポーズされても、正直戸惑いしか感じない。異種族婚なんておとぎ話の世界だ。
おまけにぬいぐるみにしか見えない大きさだから、格好いいというより可愛いので、まるで幼い子供のおままごとに付き合っているような気分すらする。
幸か不幸か失神しなかったが、完全に思考停止してしまう。
ピシリと固まったままのオフィーリアを見上げ、ドラゴンは悲しそうにうなだれた。
「そ、そうだよな。君と俺じゃ釣り合いは取れないよな。ボロボロだし負け犬だしチビだし魔力はすっからかんだし……」
どうせ俺なんて、とネガティブな言葉をつぶやくたび頭がどんどん下がっていき、しまいには床にペタンと倒れ込んでしまった。
それを見てはたと我に返り、オロオロ言い訳しながらディルクを抱き起す。
マリアンナだ。自分と同じ金髪だが、肩より少し長いくらいで揃えているだけのオフィーリアと違い、腰あたりまで伸ばしてゆるく巻き、リボンのついたカチューシャをはめている。
アーモンド型の緑の瞳も、オフィーリアは腫れぼったい一重まぶたなのに対し、くっきりとした二重まぶたに長いつけまつ毛をつけていて華やかだ。
なるほど。マリナンアが忙しい理由は、仕事ではなくデートか。
この国の女性は、大体二十歳前後で結婚する。魔女は人生のほとんどを里で過ごすので、なかなか出会いがなく、知り合いや親族のコネでお見合いをして結婚することが多い。
マリアンナの作る薬は大変人気で、大店の薬問屋とも取引があるから、相手はそこの若旦那か番頭クラスの出世頭だろう。遠目から見ても親密そうなので、ただのお見合い相手というより恋人に近い関係なのかもしれない。
オフィーリアもそろそろお見合いの時期だが、落ちこぼれの魔女と結婚しようなんて殊勝な男性はいない。母からそういう話を持ち込まれたこともなければ、町へ降りてもナンパされたことだって一度もない。
薬草園さえあれば暮らしには困らない。だから別に結婚なんてしなくても……とは思うが、楽しそうにデートしている姉を見ていると、つい羨ましいとか妬ましいとかいう感情が湧き上がる。
そんな浅ましい自分をいさめるように首をブンブン振り、気持ちを切り替えて薬草園へ駆け出した。
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母からもらったマナテリアルは、オフィーリアの薬より断然よく効いた。
人間なら塗ったところから傷口が塞がり、炎症による熱や腫れが引いていくが、ドラゴンではその効果は半分以下のようだ。
それでも、簡単に傷口が開くことはなさそうだし、出かける前より呼吸も落ち着いた。予断を許さない状態は脱したと言えるだろう。
ほっとしながら包帯を巻きなおし、毛布をかけてあげようとした時、ドラゴンが身じろぎをした。
まぶたが開き、瞳孔の裂けた金色の瞳がオフィーリアを捉えると、もぞもぞと毛布から出て立ち上がる。
「……ああ、よかった。無事だったんだな」
オフィーリアが何か言う前に、ドラゴンが目を細めてそう言葉を発した。
少し高いが、間違いなく男性の声だった。
ドラゴンが人間と同等の知性を持つらしいことは知っていたが、人間の言葉をしゃべれるなんて思わなかったので面食らってしまい、思わず半歩後ずさってしまった。
「え、あ、その、お蔭様で……ありがとうございました」
「いや、迷惑をかけたのはこちらだし、礼を言うべきは手当てをしてもらった俺の方だ。俺はディルク。君の名前を聞いてもいいだろうか?」
「……オフィーリア、です」
「オフィーリアか。美しい君にぴったりの名前だな」
「へあ?」
臆面なく美しいなどと言われ、オフィーリアは真っ赤になった。
お世辞で可愛いと言われたことくらいはあるが、美しいなんて誉め言葉は生まれてこの方聞いたことがない。しかも、美醜にうるさいというドラゴンに。
ドラゴンと人間の感覚は違うのか、それともディルクと名乗る彼だけが独特なのか……ドキドキする胸を押さえつつ「社交辞令、社交辞令」と心の中で繰り返し念じて気持ちを落ち着かせる。
「あ、ありがとうございます。お世辞でもうれしいです」
「俺はそんなつまらない嘘は言わない。ましてや、愛しい相手に嘘をつく理由がない」
「は、はい?」
耳慣れない言葉が連続で飛んできて、どんどん混乱していく。
人間的には愛しいって好きって意味だけど、ドラゴン的には別の意味があるに違いない。そう思い込もうとするが――
「一目で君に心奪われた。俺と結婚してくれ」
超ストレートなプロポーズに、頭の中が真っ白になった。
確かに、さっきカフェで男性と仲睦まじくしているマリアンナを見て、心から羨ましいと感じた。
恋人なんかいらないとか結婚したくないとか、そんなの強がりでしかない。
でも、初対面の相手、しかもドラゴンからプロポーズされても、正直戸惑いしか感じない。異種族婚なんておとぎ話の世界だ。
おまけにぬいぐるみにしか見えない大きさだから、格好いいというより可愛いので、まるで幼い子供のおままごとに付き合っているような気分すらする。
幸か不幸か失神しなかったが、完全に思考停止してしまう。
ピシリと固まったままのオフィーリアを見上げ、ドラゴンは悲しそうにうなだれた。
「そ、そうだよな。君と俺じゃ釣り合いは取れないよな。ボロボロだし負け犬だしチビだし魔力はすっからかんだし……」
どうせ俺なんて、とネガティブな言葉をつぶやくたび頭がどんどん下がっていき、しまいには床にペタンと倒れ込んでしまった。
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