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第一部
温かな出迎え
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こうして冷たくあしらわれ、代金を踏み倒されることは承知の上だった。
でも、頑張りが報われないのは何度味わっても慣れない。
「バーカ! バーカ! カカカ!」
どこからかカラスの嘲笑も聞こえてきて、悔しいやら悲しいやらで涙が滲んでくるが、それを手の甲でゴシゴシ拭って帰路につく。
どうして自分だけこんな目に遭うのかと悲嘆に暮れるたびに、落ちこぼれだから仕方ないとか、マナのある所で暮らせるだけマシとか、繰り返し自分に言い聞かせているのだが、ささくれてボロボロになっていく心は癒されたことはない。
「ただい――」
「おかえり! どこかでつまずかなかったか? 風邪は引いてないか? 部屋を暖かくしておいたが、寒くないか? つらかったらすぐに言うんだぞ。すぐに医者を呼んでやるからな」
挨拶をする間もなくディルクが駆け寄り、矢継ぎ早に声をかけてくる。
心配をかけて申し訳ないと思うのに、それ以上に優しい言葉をかけられて嬉しくなったオフィーリアは、違う意味で泣きそうになるのを堪えて微笑んだ。
「……そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。というか、ディルクさん。どこにお医者さんがいるのかご存知なんですか?」
「し、知らない……だが、誰かに訊けば分かる、と思う」
小さい姿とはいえドラゴンに道を訊かれた場合、驚いて何も言えなくなるか逃げ出してしまうかのどちらかだと思うのだが、それは言わないことにした。
合羽を脱ぎ、乱れた髪を直して、体を温めるハーブティーを淹れることにした。マナテリアルではないが、風邪予防に効く薬草を組み合わせ、それでいて飲みやすいように独自に改良したものだ。
沸かした湯をティーバッグの入ったポットに注ぐと、心が安らぐ香りが広がった。
「いいにおいがするな」
「ディルクさんも飲みますか? 苦くないですよ」
「苦くないならもらう」
トレイにポットとティーカップを二脚乗せ、ディルクと暖炉の前に並んで座る。
よほど冷えが心配なのか、自分の毛布を膝にかけてくれるドラゴンに礼を言い、湯気立つ薄緑色の液体をカップに注いだ。
ディルクは器用に両前足でカップを取り、ちびり、と一口飲んだ。
「うん、苦くないし草っぽくない。ハーブティーは不味いと思ってたが、違うんだな」
「適度に甘みを感じる薬草とか花を混ぜてるんです。あと、薬草ごとに苦みが強い部位とそうでない部位があるので、それをより分けるだけでも違いますよ」
「なるほど。手間がかかってるから美味いんだな」
しみじみとつぶやきながら、ディルクはちびちびとハーブティーを飲む。
その仕草に癒されながらオフィーリアもカップを取る。
雨はまだ降りやまないが、こんな穏やかな時間が過ごせるなら、誰かが傍にいるだけで心安らかになるなら、雨も悪くない。ディルクがいなかったら、きっと鬱々とした気分のままふて寝していた。
でも、数日もすれば傷も完治して、マリアンナの使い魔になってしまう。
今は一目惚れだなんだと言って純粋な好意を向けてくれるが、使い魔になればすぐにマリアンナの虜になるだろう。双子だけに目鼻立ちこそそっくりだが、お金と手間をかけて磨かれた美貌は、貧乏なオフィーリアにはないものだ。
それに、性格だって別に悪くない。落ちこぼれの妹に対し蔑んだ態度を隠さないが、それは仕方のないことだし、それ以外の人の前では模範的な魔女であり淑女だ。使い魔にも愛情をもって接しているから、ディルクにも優しくしてくれるだろう。
だからせめて、マリアンナに引き渡すまではこの時間を堪能していたい。
ずっと雨が降り続けばいいのに――胸に湧き上がった身勝手な願いを、少し冷めたハーブティーと一緒に飲み込んだ。
「ところで、さっきちらっと見えたんだが、君の首の後ろには痣があるんだな」
「ああ、星型っぽい青い痣ですよね。生まれつきあるみたいです。自分からは見えないから気にしてないんですけど、みっともないから隠してなさいって母によく言われてました。もう消えてると思ったんですが、まだ残ってたんですか」
首の後ろを撫でると、小さい頃、髪の毛を束ねたり切ろうとするたびに、母にこっぴどく叱られた記憶が蘇る。それゆえに、髪は首がきれいに隠れるくらいの長さで、なおかつ結うことなく下ろしっぱなしにする癖がついていた。
「そういえば、母と姉にも同じところに星形の痣があるんです。小さい頃見たきりなんですけど、ちょっと赤みがかった痣だったのを覚えてます」
「赤……そうか……」
何故かディルクはしばし思案する素振りを示したが、すぐに首を振って「なんでもない」と言って話題を変えた。
それからいろいろ取り留めなく話しているうちに、ディルクの故郷の話になった。
でも、頑張りが報われないのは何度味わっても慣れない。
「バーカ! バーカ! カカカ!」
どこからかカラスの嘲笑も聞こえてきて、悔しいやら悲しいやらで涙が滲んでくるが、それを手の甲でゴシゴシ拭って帰路につく。
どうして自分だけこんな目に遭うのかと悲嘆に暮れるたびに、落ちこぼれだから仕方ないとか、マナのある所で暮らせるだけマシとか、繰り返し自分に言い聞かせているのだが、ささくれてボロボロになっていく心は癒されたことはない。
「ただい――」
「おかえり! どこかでつまずかなかったか? 風邪は引いてないか? 部屋を暖かくしておいたが、寒くないか? つらかったらすぐに言うんだぞ。すぐに医者を呼んでやるからな」
挨拶をする間もなくディルクが駆け寄り、矢継ぎ早に声をかけてくる。
心配をかけて申し訳ないと思うのに、それ以上に優しい言葉をかけられて嬉しくなったオフィーリアは、違う意味で泣きそうになるのを堪えて微笑んだ。
「……そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。というか、ディルクさん。どこにお医者さんがいるのかご存知なんですか?」
「し、知らない……だが、誰かに訊けば分かる、と思う」
小さい姿とはいえドラゴンに道を訊かれた場合、驚いて何も言えなくなるか逃げ出してしまうかのどちらかだと思うのだが、それは言わないことにした。
合羽を脱ぎ、乱れた髪を直して、体を温めるハーブティーを淹れることにした。マナテリアルではないが、風邪予防に効く薬草を組み合わせ、それでいて飲みやすいように独自に改良したものだ。
沸かした湯をティーバッグの入ったポットに注ぐと、心が安らぐ香りが広がった。
「いいにおいがするな」
「ディルクさんも飲みますか? 苦くないですよ」
「苦くないならもらう」
トレイにポットとティーカップを二脚乗せ、ディルクと暖炉の前に並んで座る。
よほど冷えが心配なのか、自分の毛布を膝にかけてくれるドラゴンに礼を言い、湯気立つ薄緑色の液体をカップに注いだ。
ディルクは器用に両前足でカップを取り、ちびり、と一口飲んだ。
「うん、苦くないし草っぽくない。ハーブティーは不味いと思ってたが、違うんだな」
「適度に甘みを感じる薬草とか花を混ぜてるんです。あと、薬草ごとに苦みが強い部位とそうでない部位があるので、それをより分けるだけでも違いますよ」
「なるほど。手間がかかってるから美味いんだな」
しみじみとつぶやきながら、ディルクはちびちびとハーブティーを飲む。
その仕草に癒されながらオフィーリアもカップを取る。
雨はまだ降りやまないが、こんな穏やかな時間が過ごせるなら、誰かが傍にいるだけで心安らかになるなら、雨も悪くない。ディルクがいなかったら、きっと鬱々とした気分のままふて寝していた。
でも、数日もすれば傷も完治して、マリアンナの使い魔になってしまう。
今は一目惚れだなんだと言って純粋な好意を向けてくれるが、使い魔になればすぐにマリアンナの虜になるだろう。双子だけに目鼻立ちこそそっくりだが、お金と手間をかけて磨かれた美貌は、貧乏なオフィーリアにはないものだ。
それに、性格だって別に悪くない。落ちこぼれの妹に対し蔑んだ態度を隠さないが、それは仕方のないことだし、それ以外の人の前では模範的な魔女であり淑女だ。使い魔にも愛情をもって接しているから、ディルクにも優しくしてくれるだろう。
だからせめて、マリアンナに引き渡すまではこの時間を堪能していたい。
ずっと雨が降り続けばいいのに――胸に湧き上がった身勝手な願いを、少し冷めたハーブティーと一緒に飲み込んだ。
「ところで、さっきちらっと見えたんだが、君の首の後ろには痣があるんだな」
「ああ、星型っぽい青い痣ですよね。生まれつきあるみたいです。自分からは見えないから気にしてないんですけど、みっともないから隠してなさいって母によく言われてました。もう消えてると思ったんですが、まだ残ってたんですか」
首の後ろを撫でると、小さい頃、髪の毛を束ねたり切ろうとするたびに、母にこっぴどく叱られた記憶が蘇る。それゆえに、髪は首がきれいに隠れるくらいの長さで、なおかつ結うことなく下ろしっぱなしにする癖がついていた。
「そういえば、母と姉にも同じところに星形の痣があるんです。小さい頃見たきりなんですけど、ちょっと赤みがかった痣だったのを覚えてます」
「赤……そうか……」
何故かディルクはしばし思案する素振りを示したが、すぐに首を振って「なんでもない」と言って話題を変えた。
それからいろいろ取り留めなく話しているうちに、ディルクの故郷の話になった。
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