ブサ猫令嬢物語 大阪のオバチャン(ウチ)が悪役令嬢やって? なんでやねん!

神無月りく

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第六部 ざまぁ編

ブサ猫令嬢はただの悪役令嬢ではない③

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「……これよりジゼル・ハイマンの罪状を読み上げる。一つ、王太子宮の下女五名を金品により買収し、アーメンガート・ルクウォーツ嬢を害そうとしたこと」
「はあ……」

 いきなり悪役令嬢がやりそうな罪状のテンプレが来た。

「不慮の事故を装った傷害事件や毒殺未遂など、細かいものを合わせれば三十件以上もの犯行が発生。いずれも未然に防がれ大事には至らなかったが、悲劇に見舞われたアーメンガート嬢の心労は多大であることから告発に至った」

 はっきり言って身に覚えがないし、王太子の宮に知り合いなんて一人もいない。
 完全なるでっち上げだ。

 というか、権力者が命を狙われるのはある意味日常茶飯事のことであり、それが元男爵令嬢の成り上がり娘では、後釜を狙って暗殺を企てる輩が出ても仕方のないことだ。
 現にあからさまに目の敵にしている貴族はいくらでもいて、物理的に距離を置いているジゼルを疑うより、そちらを最初に疑ってしかるべきなのに、どうあっても元の役柄である悪役令嬢に仕立てたいらしい。

 しかし、アウェーでの出来事だから己の潔白を証明することは難しく、向こうの主張が一方的にまかり通ってしまう状態でもある。
 どう言い訳しても事態は好転しないが、一応無実は訴えておくべきだろう。

「まずはアーメンガート嬢が大変な目に遭われたことに関して、心からお見舞い申し上げます。ホンマに大事に至らんでなによりですわ。せやけど、ウチにはなんも心当たりのないことですし、殿下にあれだけ寵愛されとるアーメンガート嬢に嫉妬や憎悪を向けるお人は、ウチ以外にもナンボでもおりますやろ? ウチだけを疑い罰するんは筋違いやないですか?」

「無論、アーメンガートに降りかかった不幸のすべてが、お前の差し金ではないことは判明しているし、特定できた相手には相応の処罰を加えている。だが、なにぶんお前のしでかしたことは他と比べて数も多ければ程度もひどい。また、自らの手を汚さず他者を操る卑劣さも加えれば、公の場で裁きを下すに値する罪状だ――証人をここへ」

 自ら率先して突飛ばしたり毒を盛ったりする方が罪が軽い、なんて理屈があるわけがない。同じことをしたとしても、誰かにやらせたという点で教唆の罪にしか問えないわけだし、法律上では直接罪を犯す方が重いに決まってる。
 しかし、こういうのは堂々と言い切った者勝ちであり、それが権力者の言うことであればなおのこと真実味を帯びるというもの。

 なんだかなぁ……と遠い目をしているうちに、ニックの呼びかけに応じ、フルフェイスの仮面をつけ給仕係の制服を着た女性が五人やってきて、檀上の前に並べられる。

「個々人の名誉を守るため顔を隠してでの証言となりますが、王家承認の上でのことですのでどうぞご容赦ください」

 プライバシー保護のためモザイクを入れています、みたいな感じか。
 大勢の前で素顔を晒せば後々報復されたり、不要な誹謗中傷を受けたりする可能性もあるので、身元を隠すのは致し方ないことかもしれないが……身に覚えのないジゼルからすれば、でっち上げの証拠を隠しているようにしか見えない。

「こちらの方々は、先ほど述べた通り王太子宮に努める下女たちです。ジゼル・ハイマンは彼女らの役割を知っていて近づき、悪辣な手段で己の駒に仕立てて数々の悪事に加担させました。そうですね、皆様?」

「は、はい……ジゼル嬢はわたくしたちの家庭事情が芳しくないのを知り、金貨の袋をちらつかせてこれが欲しければ自分に手を貸せと、お、脅してきたのです!」
「我々のように平民の身では公爵令嬢の命令は絶対で、逆らうことができず……ああ、なんと愚かなことをしでかしてしまったのか……!」
「あの時は家族を守ることに頭がいっぱいで……今思い返せば、敬愛するアーメンガート様をわずかでも傷つける前に自害するべきだったと、深く後悔しております……!」
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