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第七部 革命編
仕返し第一弾(上)
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王宮内は様々な思惑が渦巻き随分とゴタついているが、市民の暮らしにまでは波及しておらず、平年通りの安定した天候も相まって平和そのものだった。
そんなある日。 “ブサネコ・カンパニー”が運営する乗合馬車の開通式が盛大に行われていた。
盛夏のまばゆい日差しの下、噂の乗合馬車を一目見ようと王都民が中心街だけではなく下町からも集まり、沿道には祭りのような人手でごった返していた。
彼らの視線の先にあるのは、大きく細長い二頭立ての馬車だ。
ワインレッドにも似た品のあるマルーンカラーの車体に、社名とブサ猫ロゴが銀色に輝いている。マルーンカラーは近畿圏で有名な私鉄のイメージカラーで、目を引く派手さはないが王都の景観に溶け込む高級感のある色合いだ。
ベイルードで走るものと基本的な外見は色以外同じだが、腕のいい大工工房の手で改良を加えて乗り心地もよくなり、少しだけ長くして座席数も十人から十二人にまで増やした。
こんな巨大な車体を目の当たりにすること自体初めてだし、これが通りを走るなんて信じられないと思う人々たちが、人生の価値観を変える瞬間を今か今かと待ち構えている。
その様を始発停留所がある広場で眺めながら、暫定的な社長夫妻――別名次期ハイマン公爵夫妻ハンスとロゼッタが感嘆の声を上げた。
「うわ、すごい人だ。さすが王都、ベイルードでやった時より盛り上がってるね」
「本当に大勢の人が集まっていますわね……ジゼル様にもお見せしたかったですわ」
「そうだね。できるならあの子が帰ってからやりたかったけど、相手がこちらの反撃にまごつている間にお披露目しないと意味がない」
「ええ、分かっています。先手必勝、というヤツですわね」
馬鹿な役人が窓口役に当たったのをこれ幸いと、ジェイコブが機転を利かせて人材とノウハウを根こそぎ持ち逃げしたのち、彼は公爵家に一つの取引を持ち掛けた。
「ジゼル様の築き上げた物を守るため、我々の手で新生ブサネコ・カンパニーを立ち上げたいと思います。つきましては公爵家からの援助をいただきたくお願いに参りました」
クラウドファンディングの返金分をそのまま資金に充てるのは、事前に商人たちの承諾を得ていたし追加の出資も快諾してくれたとはいえ、経営方針に沿って従業員を養っていくには全然足りない。
いくらかジェイコブも個人的に出資したとはいえ焼け石に水で、ハイマン家の後ろ盾を求めてきたのだ。
長い付き合いなので野心家の思惑は透けて見えていたが、会社の買収に伴い領地内の交通網を押さえられれば税収も減るし、王家から監視される状態に陥る危険性もあり、断る理由はなく二つ返事で承諾した。
まとまった資金を出すため、ロゼッタの声掛けでビショップ家の出資もお願いした上で、代々所有してきた不動産やコレクション類の一部を手放すことになったが、これもジゼルを断罪したことを後悔させるためだと思えば小さな犠牲だった。
王家の独断専行に腹を立てているのは家族だけではなく、重役や従業員たちも同じで、社員が一致団結して急ピッチで新会社を立ち上げた。
経営方針も顔ぶれも何一つ変わっていないし、面倒な書類手続きもテッドを通じてレーリアに手を回してもらっていろいろと省略して、以前のままのブサネコ・カンパニーの名を使わせてもらい、数か月でこの日を迎えることとなった。
そんなある日。 “ブサネコ・カンパニー”が運営する乗合馬車の開通式が盛大に行われていた。
盛夏のまばゆい日差しの下、噂の乗合馬車を一目見ようと王都民が中心街だけではなく下町からも集まり、沿道には祭りのような人手でごった返していた。
彼らの視線の先にあるのは、大きく細長い二頭立ての馬車だ。
ワインレッドにも似た品のあるマルーンカラーの車体に、社名とブサ猫ロゴが銀色に輝いている。マルーンカラーは近畿圏で有名な私鉄のイメージカラーで、目を引く派手さはないが王都の景観に溶け込む高級感のある色合いだ。
ベイルードで走るものと基本的な外見は色以外同じだが、腕のいい大工工房の手で改良を加えて乗り心地もよくなり、少しだけ長くして座席数も十人から十二人にまで増やした。
こんな巨大な車体を目の当たりにすること自体初めてだし、これが通りを走るなんて信じられないと思う人々たちが、人生の価値観を変える瞬間を今か今かと待ち構えている。
その様を始発停留所がある広場で眺めながら、暫定的な社長夫妻――別名次期ハイマン公爵夫妻ハンスとロゼッタが感嘆の声を上げた。
「うわ、すごい人だ。さすが王都、ベイルードでやった時より盛り上がってるね」
「本当に大勢の人が集まっていますわね……ジゼル様にもお見せしたかったですわ」
「そうだね。できるならあの子が帰ってからやりたかったけど、相手がこちらの反撃にまごつている間にお披露目しないと意味がない」
「ええ、分かっています。先手必勝、というヤツですわね」
馬鹿な役人が窓口役に当たったのをこれ幸いと、ジェイコブが機転を利かせて人材とノウハウを根こそぎ持ち逃げしたのち、彼は公爵家に一つの取引を持ち掛けた。
「ジゼル様の築き上げた物を守るため、我々の手で新生ブサネコ・カンパニーを立ち上げたいと思います。つきましては公爵家からの援助をいただきたくお願いに参りました」
クラウドファンディングの返金分をそのまま資金に充てるのは、事前に商人たちの承諾を得ていたし追加の出資も快諾してくれたとはいえ、経営方針に沿って従業員を養っていくには全然足りない。
いくらかジェイコブも個人的に出資したとはいえ焼け石に水で、ハイマン家の後ろ盾を求めてきたのだ。
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まとまった資金を出すため、ロゼッタの声掛けでビショップ家の出資もお願いした上で、代々所有してきた不動産やコレクション類の一部を手放すことになったが、これもジゼルを断罪したことを後悔させるためだと思えば小さな犠牲だった。
王家の独断専行に腹を立てているのは家族だけではなく、重役や従業員たちも同じで、社員が一致団結して急ピッチで新会社を立ち上げた。
経営方針も顔ぶれも何一つ変わっていないし、面倒な書類手続きもテッドを通じてレーリアに手を回してもらっていろいろと省略して、以前のままのブサネコ・カンパニーの名を使わせてもらい、数か月でこの日を迎えることとなった。
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