ブサ猫令嬢物語 大阪のオバチャン(ウチ)が悪役令嬢やって? なんでやねん!

神無月りく

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幕間 女子修道院編

ジジの正体(下)

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 それもまだ幼い頃なら今世での経験値が低く、自己の確立も進んでいないので、慣れるのも時間がかからなかっただろうが、すでに十数年分の確固たる“ジジ”が出来上がったあととなれば、どう折り合いをつけるべきか分からなくなるのもうなずける。
 天真爛漫で空気の読めない子だとばかり思っていたが、それも内に秘めた不安や混乱を払しょくしようと、努めて明るく振舞っていたのかもしれない。

「……そら大変やったな。こんなん誰にも相談でけへんことやし、つらかったと思うわ。ウチは十歳の頃からこんな感じやし、アイデンティティで悩んだこともないから、ジジが望む答えをあげられへんかもしれんけど、気持ちの整理するためのおしゃべりくらいなら付き合えるで」

 ジジの横へ移動して励ますように背中をポンポンと叩くと、受け入れてもらえた安堵か潤んだ瞳でジゼルを見上げて小さく微笑んだ。

「ありがとう。デリケートな話題だからどうしようか悩んだけど、思い切って訊いてみてよかったわ。頑張って消化しようとはしてるんだけど、余計に袋小路に追い込まれてる感じがして……」
「そうやろうなぁ。こういうのは、一人で悶々とするより、誰かに話した方が案外楽になるもんや。せやけど、名前とか特徴だけやのうて、転生者っていう共通点もあるなんてなぁ。世間は狭いっちゅーかなんちゅーか」
「あー……それなんだけど、白状しちゃうとここに来たのは確信犯なのよね」

 バツ悪そうに視線をそらしつつ、ジジはテヘペロの表情を取る。

「前世云々に関係なく実家でいろいろあって出家することになったんだけど、その時に思い出したの。ジゼル・ハイマンがラングドン女子修道院にいるって」
「え? ウチのこと知っとったん?」
「一応私、貴族令嬢なの。庶子だから認知はされてても社交界には出てないし、普段は母親と一緒に領地に引きこもってるんだけど、ジゼル・ハイマンの噂はよく聞いてたの。公爵令嬢なのに珍妙な訛りがあるやり手の商人だって。以前はただの変な人だとしか思わなかったけど、転生者だってピンと来たの」

 ズバッと変人扱いされたが、これまでの行いから鑑みて文句は言えないし、遠回しにゴニョゴニョ言葉を濁されるよりは気持ちがいい。

「せやけど、噂やったらウチは稀代の悪女みたいに語られとるやろ? 相談に乗ってくれると思ってたん?」
「転生者なんて早々見つかるものじゃないし、ダメ元よ、ダメ元。でも、実際ジゼルさんはとってもいい人だし、修道院の中だけじゃなくご近所からも好かれてるし、いかにもなラノベのヒロインって感じで安心したわ。ここに来て本当に正解」
「ははは……褒めてもなんも出ぇへんで」

 ライトノベルでは転生悪役令嬢といえばヒロインポジションではあるが、チートがあるわけでもなくモテるわけでもなく、挙句転生ヒロインにざまぁされて島流しの憂き目にあっている。
 だいたいこのブサ猫顔で、しかも中身が大阪のオバチャンとか、ヒロインにはふさわしくない要素てんこ盛りだ。
 ジジは見え透いたおべっかを使うタイプではないので、思ったままを口にしているのだろうが、だからこそ手放しにヒロイン扱いされると尻がむずがゆい。

「ひ、ひとまず、この話はここまでにしよか。早くこれを片付けて夕飯の支度に合流せなアカンし」
「そうね。前世じゃ一人暮らし経験長いから家事なんか楽勝って思ってたけど、あんなに面倒だとは思わなかったわ」
「家電とか便利グッズのありがたみが身に染みるよなぁ」
「うんうん。ああ、食事と言えば、日本人の自覚が出てきてから無性にお米食べたくて……」

「それ、めっちゃ分かるわ。米は米でもジャポニカ米な。こっちのお米はパサパサのインディカ米っぽいヤツで、食べた気がせぇへんねん」
「分かるー! あと、生卵が食べられないとかホント最悪だよね。卵かけご飯が恋しい」
「仮に生食可の卵があったとしても、醤油も出汁もないとなると意味あらへんしな」
「日本って恵まれてたわよねぇ……」
「せやなぁ……」

 突然の転生者カミングアウトにどうなることかと思ったが、二人のジゼルは日本人あるあるで盛り上がりながら今まで以上に打ち解けた。
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