ブサ猫令嬢物語 大阪のオバチャン(ウチ)が悪役令嬢やって? なんでやねん!

神無月りく

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第七部 革命編

シリアスクラッシャー・パック(下)

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「今朝ハムを食べて閃いた」
「芸術家の思考って全然理解できない……あと、やたらと筋肉の名称を連ねる意味も、全然分からない……」

 突っ込み疲れてガックリとうなだれるハワードに、パックはポンポンと励ますように肩を叩きつつ「で、脱ぐの? 脱がないの?」と追い打ちをかけてくるので「脱・ぎ・ま・せ・ん!」と返した。
 こうしてポンポン小気味よくボケツッコミが炸裂しているのは、パックが幼少の頃にハワードが剣術指南役を務めていた過去があるからだ。

 今よりももっと奇抜な言動の多かった子供時代のパックの指導は、なんの罰ゲームなんだというくらい過酷だった。
 鍛錬をサボるなど日常茶飯事で、厳しくお説教しても右から左の馬耳東風で、指導中も木剣ではなく紙と鉛筆を常備しているような、生まれついての画家体質だった。

 だが、彼の動体視力はずば抜けており、拳骨を食らわそうとしてもヒョイヒョイ避けられてしまうし、型のお手本を何度か見せるだけで見事なパラパラ漫画にして再現する、才能の無駄遣いをする天才だった。
 結局彼の剣術の腕を磨くことは叶わなかったが、ハワードの問題児に対する忍耐力だけは爆上がりし、それがやがて団長の座に収まる礎になるのだが……それはさておき。

「……この不毛な漫才、まだ続けます?」
「いや、大丈夫。もう監視は消えた。くくく、こういう時、日頃の行いが物を言うよね」

 先ほどまでドミニオンの取り巻きの一人が戸口に張り付き、中の様子をうかがっていたのだ。
ボンクラ王子として有名なパックだが、アーメンガートとは対立する派閥であることには変わりないし、それが旧知の仲であるハワードに接触を図ったとなれば、騎士団を抱き込もうとするのではと警戒するのは当然だろう。
 その真偽は今のハワードは知る由もないが、彼の表向きの顔に騙されていとも簡単に監視を解いてしまうとは。
 軍部の詰めの甘さに、つい失笑が漏れる。

「殿下の本質を見抜けないとは、奴らも大したことはないですね」
「なんのことだか。俺は見たままのボンクラ王子だよ」

 パックはひょいと肩をすくめてるととぼけた表情を引っ込め、執務机の端に腰を下ろして足を組む。
 行儀が悪いと指摘すべきところだが、それすら言い出せない深刻な雰囲気をまとうボンクラ王子に、ハワードは無意識に居住まいを正した。

「長居すると悪いから単刀直入に訊くけど、さっき大叔父様が乗り込んできたんでしょ? なんか言ってた?」
「陛下を狙っていた賊のアジトに摘発に入り、全員捕縛したと」
「へぇ、そりゃご苦労様だね。まあ、自作自演の襲撃事件なんだから、自分で幕引きするに決まってるよね。騎士団にばれたら大変なことになる」

「……は? 自作自演?」
「そう。一連の襲撃事件は全部軍が仕組んだことだ……と優秀な我が弟は睨んでる。戦争の口実を作るためにね」

 軍部が戦争をやりたがっているのは、ハワードだって知っている。
 しかし、一番に守るべき王の命を危険にさらしてまで口実を得ようとするなんて、正気の沙汰とは思えない。

「では、軍が他国の間者を扇動したと……」
「多分間者じゃない。エントールの軍人だ。それも暗殺や潜入工作など隠密のテロ行為に特化した、超精鋭の特殊部隊だと思うよ。そうでなければ、厳重な警備の敷かれた王宮を誰にも勘づかれず侵入できるわけがないし、父上の警護を任されるほどの近衛が、簡単に返り討ちにあるわけもない。ついでに逃げ帰る巣も犯行現場と目と鼻の先……そりゃあいくら探しても見つからないわけだよねぇ」

 ひょいっと肩をすくめるパックが、流暢に展開させる論理に矛盾はない。
 だが、理解も納得もできない。

「馬鹿な……どうしてそこまでして……」
「さあね。人殺しをしたがる奴の気持ちなんて、分かりたくもないけど」
「分からないといえば、殿下もですよ。何故私にこんな情報を? このネタで軍を恐喝しろ、なんて言うんじゃないでしょうね?」
「まさか。ハワードの身を守るためだよ」

 パックは机から降りると、険しい表情でハワードを正面から見据える。
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