ブサ猫令嬢物語 大阪のオバチャン(ウチ)が悪役令嬢やって? なんでやねん!

神無月りく

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第七部 革命編

ルッキズムに支配された愚者ども

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 テッドが足場を固めつつ、脱走した女狐の包囲網を築いていた一方。
 先発していたアンソニーは、いち早くジゼルを保護するため、護衛として従っていた自国の騎士二名と案内役のエントールの騎士二名に似顔絵を持たせて、ラングドンへ急行させていた。

「……なぁ、コレが本当にユーリア様の御子だと思うか? やっぱり陛下が亡命中に、ねんごろになった女が産んだ隠し子だろ」
「納得できないのは俺も同じだけど、どっちにしろ王女殿下であることには変わりないし、ここで愚痴ったって仕方ないだろ。ていうか、陛下のご尊顔そっくりなのに、コレとか言うな」

「けどさ、この不細工な顔で、ブタみたいに丸々肥えていて、おまけに妙な訛りもついてくるらしいじゃないか。おぼこい田舎娘の方がよっぽど可愛げあるだろ。コレに対して俺は、敬意をビタ一文も払いたくない」
「俺も心から忠誠を誓えるかは微妙だが、そこは大人としても騎士としてもちゃんと取り繕え。ついでに、陛下のご尊顔を不細工とかいうな。マジで首が飛ぶぞ」

「ははは。まあ、気持ちは分かるけどな。高貴な女性といえば美人なのが定番だし、それがアレじゃ信じろっていっても無理だよなぁ。俺だってあの人が王妃になるなんて、正直テンションだだ下がりだよ。どんな悪女だとしても、俺はアーメンガート様にお仕えしたかったなぁ……美人だしチチでかいし」

 ラングドンに通じる街道の脇道。
 馬を休ませるついでに木陰で休憩する三人は、懐から出したジゼルの似顔絵を囲みながら、ボソボソと物議を醸していた。
 パック謹製の似顔絵は、スケッチ画ながらジゼルの特徴をよく描いており、これを持って街を回ればすぐに見つかるだろう。

 しかし、彼らはこの絵の人物を連れ帰るという使命に、非常に後ろ向きだった。
 三人ともまだ若い男とあって、外見の美しさで女の価値を判断しがちな年頃で、このブサ猫が王女だの王妃だのと言われても、反感を覚えてしまう。
 エントールの騎士はその最たる例で、根っからのアーメンガート派……というより、とにかく美女しか勝たんタイプなので、ジゼルに鞍替えなんて考えたくもない。
 
 アウルベルの騎士らにも似たような気持ちはあるだろうが、それ以上に他の王子王女とかけ離れた容貌のジゼルを、新たな主君として受け入れることを拒んでいる。
 現国王と同じ顔なら血縁は疑いようがないわけだし、別にいいじゃないかと思われそうだが、これこそがテッドの懸念していた『ひとりだけ容姿が違うことによる差別や偏見』の端的な例だ。

 テッドも自分の知らないところで早々に表面化するとは思いもしなかっただろうし、アンソニーだって信頼する騎士が知らないところで娘をこき下ろし拒絶しているなんて、夢にも思わないだろう。

「……あのさ、俺思うんだけど、髪と瞳の色が同じの女って、探せばどっかにいるよな?」
「この国じゃ珍しくない色だし、ありえなくはないけど、両方同じってのは難しいな。ついでに年齢も十七、八っていう縛りもあるし」
「けど、確率はゼロじゃないし、年齢なら多少ごまかせるだろ、ほら、戒律が厳しい修道院生活でやつれて、ちょっと老けて見えるとか」

「ラングドンの女子修道院は、やらかした令嬢の更生施設も兼ねてるから、貴族的な教養を持った女は何人もいる。血筋も問題ないし、その中から特徴が似てる奴を選べばいい」
「仮にそんな都合のいい女いたとしたら……実物より美人なのは確実だな」
「娘だろうが嫁だろうが、不細工より美人の方がいいもんな。俺たち、いい仕事したって褒美を賜るかも」
「ダメ元で探してみるか」

 三人寄れば文殊の知恵とよく言うが、これはただの後先考えない悪ガキの発想でしかなく、成功する確率など万に一つもない――はずだったなのだが。
 事実は小説より奇なり。
 袖振り合うも他生の縁。
 そんな古人の残した格言のなせる業なのか、彼らは幸か不幸か巡り合ってしまったのだ。
 もう一人のジゼルに。


 それは、彼らがラングドンの街中に着いてすぐのこと。
 純朴そうな村娘たちに混じって、ひときわ美しい顔立ちの少女を見つけた。

 アウルベルの騎士たちから見てユーリアの面影はないが、ジゼルどころか並みの貴族令嬢と並べても群を抜いて美しい。
 艶のある長い金茶の髪を寒風になびかせ、琥珀色の瞳はぱっちりとした二重と長いまつ毛に縁どられている。色彩の特徴は完璧だ。
 歳も二十を超えているようには見えないし、年齢的にも問題ない。
 さらに、遠目にも分かるきめ細かな白い肌といい、禁欲的な修道服の上からでもうかがい知れる女性らしい膨らみといい、男心を掴んで離さない魅力の持ち主である。

「あ、あれこそが俺たちの王女様だ!」
「アーメンガートもいいが、あの子も断然アリだ!」
「お、俺たちはついてるぞー!」
「絶対に逃がすなー!」

 いろいろな意味で鼻血が出そうなくらい興奮しつつ、三人の騎士は美しすぎるシスターに突撃していったのだった。
 ルッキズムに突き動かされた果てにあるものが、身の破滅だとは知らずに。
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