203 / 217
第七部 革命編
それぞれの旅立ち
しおりを挟む
その後、つつがなく和平会談が行われて戦争は完全に終結した。
両国と交易で深い繋がりのあるガンドール帝国と、完全中立のアウルベル王国、二つの国の代表が同席した場で、戦争を吹っ掛けた張本人に代わってテッドが謝罪を示し、密約通りフォーレンに有利な賠償内容でまとめた条約を結んだ。
そして非公式ながら、アンソニーは自国の鎖国を段階的に解除する宣言をし、まずはエントールとフォーレンの二国に限定して国交を開くことを決めた。
ジゼルを王女として円滑に嫁がせるためだけなら、エントールとだけ国交を結べばいいが、開国はしても武装中立は保つ方針は変えるつもりはないという意思表示を兼ね、対立していた二国同時に門戸を開くことになった。
公的な取り決めは後日に持ち越されたが、これで両国の関係は正常に戻ることとなった――とはいえ、すぐに完全に元通りとはいかないだろう。
フォーレン側からすれば、エントールは理不尽な言いがかりをつけて喧嘩を売って来たやくざ者だ。エントール側も操作された情報とはいえ、フォーレンの間者のせいで王が身罷ったと思い込み、憎しみを抱いてきたのだ。
それに、宣戦布告からすでにひと月近く経っており、腹の探り合いのような小規模な衝突が幾度か起きたせいで、両軍に負傷者が出ていた。戦争が本格化になる前に停戦となったため、幸いにも死者は出なかったが、傷跡という見える形で禍根が残り続けることになる。
過去を水に流して仲良くしろと言われても、気持ちが追い付かないに決まっている。
さらに、別の懸念もある。
今回の戦争は戦闘結果によって勝敗が決したわけではないが、エントール側に全面的に非があり、国王自らが謝罪し賠償に応じた形で終わった。つまり世間的には戦勝国はフォーレンであり、エントールは敗戦国となる。
フォーレン側はともかく、エントール側にとっては屈辱的な結末である。
武功を立てて出世したがっていた軍人が多数いたし、逆恨みが行き過ぎてテロリスト化する可能性もある。
アーメンガートと共に戦争を扇動していたドミニオンと、彼の熱狂的な信奉者たちなど旗頭になりそうな連中を更迭し、適切な処分を下せば少しは落ち着くだろうが、完璧な対応とは言い難い。
アンソニーが自国の軍事教官を派遣して将校クラスの再教育を提案してくれたので、上層部から意識改革を行う計画を立てているが、明確な結果が出るまでには時間がかかるので、今後の軍部の扱いは慎重にならざるを得ない。
そんな戦後処理における様々な頭痛の種を抱えつつも、表面上は丸く収まったところで両軍の引き上げ作業が始まった。
フロリアンたちは先発隊と共に、形ばかりの戦勝を伝えるべく王都へ帰還することになった。二人とも王都に婚約者や妻を残しているので、一日でも早く戻るため慌ただしく出発準備をしている。
ゼベルは今回の顛末を広めがてら、この足で外遊へと旅立つという。
特にエントールが言いがかりをつけて宣戦布告をした件について、『軍関係者など一部の人間が暴走した結果であり、国や王家としての総意ではない』ことを強調して伝えることを約束してくれた。
これで失った信頼がすべて回復するわけではないが、風当たりはいくらか弱まるだろう。
アンソニーはジゼルを伴って祖国へ戻ることになった。
もちろん、正式にジゼルを自分の娘として、アウルベルの王女として迎え入れるためだ。
口で言うのは簡単だが、王籍へ入るための手続きやら儀式やらお披露目やら、面倒臭いイベントが盛りだくさんの上、それらと並行して嫁入り道具の手配もするとのことで、ジゼルは半年近くエントールに戻ってこられない日程になっている。
長期間婚約者と離れ離れになるが、ジゼルはこれ幸いとモラトリアムを謳歌する腹積もりだ。スケジュール的にゆっくり羽を伸ばす余裕はなさそうだが、短期留学を兼ねて実の家族と過ごし、楽しい思い出作りをしようと思っている。
残されたテッドはといえば、ジゼルがいない間に細々とした戦後処理と並行して、ミリアルドやアーメンガート、その他ドミニオンを筆頭にした軍上層部の裁判を開くことにしている。
当事者のジゼルも法廷に席を設けるべきではあるが、その間中罪人を拘束している経費がもったいないし、こちらが見つけられなかった協力者がどこかに潜んでいて、脱獄を手伝ったり反逆を起こさないとも限らない。
まあ、本音を言えば、彼女の帰国と同時に結婚式を挙げるつもりなので、それまでにきれいさっぱり片付けて、心置きなく新婚生活を送りたいという野望もある。
こうして、各々がまっとうすべき義務と個人的な思惑を胸に、それぞれ向かうべき土地へと旅立った。
両国と交易で深い繋がりのあるガンドール帝国と、完全中立のアウルベル王国、二つの国の代表が同席した場で、戦争を吹っ掛けた張本人に代わってテッドが謝罪を示し、密約通りフォーレンに有利な賠償内容でまとめた条約を結んだ。
そして非公式ながら、アンソニーは自国の鎖国を段階的に解除する宣言をし、まずはエントールとフォーレンの二国に限定して国交を開くことを決めた。
ジゼルを王女として円滑に嫁がせるためだけなら、エントールとだけ国交を結べばいいが、開国はしても武装中立は保つ方針は変えるつもりはないという意思表示を兼ね、対立していた二国同時に門戸を開くことになった。
公的な取り決めは後日に持ち越されたが、これで両国の関係は正常に戻ることとなった――とはいえ、すぐに完全に元通りとはいかないだろう。
フォーレン側からすれば、エントールは理不尽な言いがかりをつけて喧嘩を売って来たやくざ者だ。エントール側も操作された情報とはいえ、フォーレンの間者のせいで王が身罷ったと思い込み、憎しみを抱いてきたのだ。
それに、宣戦布告からすでにひと月近く経っており、腹の探り合いのような小規模な衝突が幾度か起きたせいで、両軍に負傷者が出ていた。戦争が本格化になる前に停戦となったため、幸いにも死者は出なかったが、傷跡という見える形で禍根が残り続けることになる。
過去を水に流して仲良くしろと言われても、気持ちが追い付かないに決まっている。
さらに、別の懸念もある。
今回の戦争は戦闘結果によって勝敗が決したわけではないが、エントール側に全面的に非があり、国王自らが謝罪し賠償に応じた形で終わった。つまり世間的には戦勝国はフォーレンであり、エントールは敗戦国となる。
フォーレン側はともかく、エントール側にとっては屈辱的な結末である。
武功を立てて出世したがっていた軍人が多数いたし、逆恨みが行き過ぎてテロリスト化する可能性もある。
アーメンガートと共に戦争を扇動していたドミニオンと、彼の熱狂的な信奉者たちなど旗頭になりそうな連中を更迭し、適切な処分を下せば少しは落ち着くだろうが、完璧な対応とは言い難い。
アンソニーが自国の軍事教官を派遣して将校クラスの再教育を提案してくれたので、上層部から意識改革を行う計画を立てているが、明確な結果が出るまでには時間がかかるので、今後の軍部の扱いは慎重にならざるを得ない。
そんな戦後処理における様々な頭痛の種を抱えつつも、表面上は丸く収まったところで両軍の引き上げ作業が始まった。
フロリアンたちは先発隊と共に、形ばかりの戦勝を伝えるべく王都へ帰還することになった。二人とも王都に婚約者や妻を残しているので、一日でも早く戻るため慌ただしく出発準備をしている。
ゼベルは今回の顛末を広めがてら、この足で外遊へと旅立つという。
特にエントールが言いがかりをつけて宣戦布告をした件について、『軍関係者など一部の人間が暴走した結果であり、国や王家としての総意ではない』ことを強調して伝えることを約束してくれた。
これで失った信頼がすべて回復するわけではないが、風当たりはいくらか弱まるだろう。
アンソニーはジゼルを伴って祖国へ戻ることになった。
もちろん、正式にジゼルを自分の娘として、アウルベルの王女として迎え入れるためだ。
口で言うのは簡単だが、王籍へ入るための手続きやら儀式やらお披露目やら、面倒臭いイベントが盛りだくさんの上、それらと並行して嫁入り道具の手配もするとのことで、ジゼルは半年近くエントールに戻ってこられない日程になっている。
長期間婚約者と離れ離れになるが、ジゼルはこれ幸いとモラトリアムを謳歌する腹積もりだ。スケジュール的にゆっくり羽を伸ばす余裕はなさそうだが、短期留学を兼ねて実の家族と過ごし、楽しい思い出作りをしようと思っている。
残されたテッドはといえば、ジゼルがいない間に細々とした戦後処理と並行して、ミリアルドやアーメンガート、その他ドミニオンを筆頭にした軍上層部の裁判を開くことにしている。
当事者のジゼルも法廷に席を設けるべきではあるが、その間中罪人を拘束している経費がもったいないし、こちらが見つけられなかった協力者がどこかに潜んでいて、脱獄を手伝ったり反逆を起こさないとも限らない。
まあ、本音を言えば、彼女の帰国と同時に結婚式を挙げるつもりなので、それまでにきれいさっぱり片付けて、心置きなく新婚生活を送りたいという野望もある。
こうして、各々がまっとうすべき義務と個人的な思惑を胸に、それぞれ向かうべき土地へと旅立った。
11
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつもりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
私に姉など居ませんが?
山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」
「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」
「ありがとう」
私は婚約者スティーブと結婚破棄した。
書類にサインをし、慰謝料も請求した。
「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。