ブサ猫令嬢物語 大阪のオバチャン(ウチ)が悪役令嬢やって? なんでやねん!

神無月りく

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番外編

魔王陛下のとある一日⑥

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 隣国の王妃となったセシリアと結託して『コルセット撲滅委員会』を設立したジゼルは、長年お世話になっている仕立屋レビナス・クロースの協力の元、数年かけてこのドレスを開発した。
 内側から締め上げて細くするのではなく、衣装の上からボディスを着用してウエストを絞り、同時に胸元を押し上げて強調することでスタイルをよく見せるらしい。他にも「コルセットなしでいかに美しいボディラインを作るか」といううんちくを聞かされたが、興味がないので覚えていない。

 女性のファッションはよく分からないし、ジゼルは何を着てもまん丸なのでよし悪しのコメントできないが、コルセットが女性の体に悪影響をもたらしているというのはよく聞くし、国民の健康増進に一役買うなら好きにすればいいと思う。
 今日は大臣の夫人たちとの昼食会だと聞いていたし、宣伝のために着ていたのだろう。時間的にちょうどその昼食会がお開きになったところで、終わるなりその足でこちらに来た、といったところか。

 だが、ジゼルが短い休息時間の合間を縫ってまで、テッドに会いに来るとは考えにくい。昼食会で何かトラブルがあったのだろうか。
 二年前に宰相を含めた大臣職の総入れ替えを行ったため、以前から懇意にしていたグロリアたちではない夫人らと交流することになり、話が合わないとか押しが強いとかで気苦労が多いと、ぼやいていたのを思い出す。

「どうした。夫人たちにいじめられたのか?」
「アホか。ウチがいじめられて泣きつくようなタマやないことは、テッドが一番よう知っとるやろうに。そうやのうて、釣り書の話や!」
「釣り書? 今朝届いたのを見たが……」
「それ、早う言うてぇな! 『うちの親戚に大変よい子がおりまして、失礼ながら釣り書を送らせていただきました。ご検討していただけましたか?』とか急に話振られて、ウチめっちゃ焦ったやん! ごまかすのに必死やったわ!」

 まったく乗り気ではないが、さすがに大臣クラスの子女であれば無碍には扱わないし、直近で会う関係者だったら絶対に知らせている。
 妻をおちょくるのは趣味だが、恥をかかせて喜ぶほど悪趣味ではない。

「いや、なんで夫人たちがその話題に出すんだ? いずれもあの家の縁者ではなかったぞ」
どこから情報が漏れたのかと訝しむが、
「なんや知らんけど、いとこの子供やとか、甥の子供の異母きょうだいやとか、はとこの孫の子供やとか……そういう子らの後見人に立候補したみたいで」
「馬鹿か。それはもう親戚じゃなく他人の子だろう」
「ウチもそう思うで。脳内でオバチャンらの頭を、『アホかぁぁぁ!』ってパッシーンって張り倒したしな」

 当事者でも家系図を紐解かなければ分からないような、他人同然の続柄まで把握できるか。記憶力はいいほうだと自負しているが、意味のないことまで覚えるほど暇ではない。
 いくら年の合う子供がいないからと言って、そんな他人同然の子供を引っ張ってくるなど非常識だ。
 これから予算会議で大臣らと顔を合わせるので、グサリと特大の釘を刺しておかねば。

(ああでも、これで奴らの無駄口を封じることができそうだな。当分はおとなしくなるだろう)

 ジゼルにとってはいい迷惑だっただろうが、これぞ怪我の功名というヤツだ。
 ご褒美と罪滅ぼしを兼ねて、夕食後のデザートは多めに盛らせるよう手配することにした。

「とにかく、またこないなことになったら心臓に悪いから、関係なさそうでも教えてな」
「分かった。俺も気をつけるが、この手の情報は共有するようにニックにも伝えておく」
「はいよ。ちなみに、よさそうな子はおった?」

「会ってもないのに、いいも悪いも分かるか。それに、どの子供もせいぜい五歳や六歳だぞ。顔も性格も成長過程でどうとでも変わるし、あなたも子供の頃から随分現実と違う噂が流れていたから、現時点の情報はあてにならないのは、よく分かるだろう」
「そらまあ、確かに」

 醜い外見で品性も知性もなく、親の権力で傍若無人に振る舞う傲慢な少女。
 それが社交界におけるジゼルの前評判だった。
 出所は今もって謎に包まれているが、ジゼルが当時王太子の婚約者に内々定していたことを知っている誰かが、周囲に悪印象を与えて、あわよくば失脚させようと目論んで広げたのだろう。
 しかし、現物を知れば真っ赤な嘘だと分かる的外れは噂を流すとは、愚かなことをしたものだ。噂と現物のギャップが大きいほど、人の好感度は著しく変化するというのに。

 ジゼルの場合、それがいい意味で裏切られた形となり、ミリアルドに庇護され寵愛されるアーメンガートと同等に、社交界で幅を利かせることになる。
 出る杭は打たれる方式で断罪の憂き目にあったが、結果的には返り咲き、今や人気者の王妃としての地位を確立した。

「けど、ウチだけ知らんのも癪やし、あとでじっくり見せてもらうわ。ほんならお邪魔しました。またあとでな」

 ヒラヒラと手を振って執務室を出ていくジゼルを見送ると、予算会議を有利に進めるべく、釣り書の子供とどこの大臣が縁戚なのか調べることにした。
 ジゼルの並べた続柄をヒントに、書庫から貴族名鑑や家系図を引っ張り出し、側近らだけではなく手の空いている官僚らも呼び出して、人海戦術で調べ上げた。

 そのせいで会議には遅刻してしまったが、どうせいつもの茶番が繰り広げられていただけだろうから聞くだけ無駄だし、大臣一人一人に謝罪する振りをして釣り書の話を持ち出し、「そんな姑息な手段で俺に取り入ろうとは、覚悟はできているんだろうな?」と耳打ちして回ったあとは、驚くほどスムーズに進行した。
 もちろん、テッドが描いた通りの展開で、だ。
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