12 / 30
運命の人に会えるお茶会
予想外の告白
しおりを挟む
殿下は高級感溢れるスーツを着こなしたお茶会仕様だが、カーライル様はこの間と同じ軍服姿だ。制服はフォーマル服ではあるけど、ちょっと浮いてる。
ていうか、殿下はともかく、何故カーライル様まで?
彼も招待されてたのかと思ったが、クラリッサも目を丸くしているところからそれがないと判断する。
「あら。皆様へのサプライズゲストとして殿下をご招待していたのですが、まさかカーライル様もお見えになるなんて……こちらが驚かされてしまいましたわ」
「君を驚かすつもりはなかったんだけど、兄上がどうしてもと言うのでね」
「フロリアン!」
「まあ……カーライル様ったら」
恥ずかしそうに目を伏せつつ、カーライル様をチラチラと見るクラリッサ。
あざと可愛い恋する乙女の視線に目を伏せ、制帽を深く被り直すカーライル様。
修羅場は回避できたけど、今度はアウェー感半端ねぇ……そういうのはよそでやってほしいんですが、まったく。
「ふふ、ゲストが二人もいらしたことですし、一度テーブルを片付けさせますわ」
想い人が現れて上機嫌になったクラリッサは、侍女たちに命じてテーブル上のすべてのもの……カトラリーやテーブルクロスまでも全部下げさせ、新しいものに取り換える。
その作業の間にゲストの二人も着席する。
殿下は婚約者であるセシリア様の隣。
カーライル様はクラリッサの隣。
社交界で爪弾きされているカーライル様に、令嬢たちは少し複雑な顔をしているが、この場を仕切る女主人が客としてもてなすと言っている以上口出しはできない。しかも、クラリッサが彼に熱を上げているのは一目瞭然。馬に蹴られて死にたくない、という部分では私と彼女たちは同意見だ。
やがてテーブルの上が一新し、新しいお茶が淹れられ、大きくて丸いパイのようなケーキが運ばれてきた。ガレットデロワだ。この世界で見るのは初めてだが、クラリッサが前世の知識を持ち込んだのだろうか。
「皆様ご存知かと思いますが、こちらはガレットデロワというお菓子です。中に”フェーヴ”と呼ばれる人形が入っており、それに当たった方は“王様”あるいは“女王様”として、一度だけこの場にいる人たちに命令をすることができます。お茶会のお遊びですので、どうぞご容赦くださいませ、殿下」
「ああ、それくらい構わないよ。セシリアで慣れているか、ら……」
その時、私は見てしまった。
テーブルの下で、セシリア様が淑女の微笑みを浮かべながら、殿下の太ももに羽扇を突き立てているのを。
言葉を一瞬詰まらせながらも、王子様スマイルをキープしている殿下もまたすごい。ある意味お似合いのカップルだ。殿下がクラリッサに横恋慕している説は、私の勘違いかもしれない。
そんなことを考えているうちに、ガレットデロワが切り分けられ、ひとピースずつ皿に盛られて各自の元に配られていく。
フェーヴという人形を使った“王様ゲーム”は私も知っている。
記憶では一度だけではなくその日一日だった気がするが、いくらお遊びでも禍根が残るといけないからそうしているのだろう。
では、そのフーヴェは誰の手に渡るのか?
本来はランダムであって然るべきだが、女主人であるクラリッサはお茶会を盛り上げるため、“当たり”を操作するだろう。八百長というヤツだ。
まずクラリッサ本人は除外される。主催者が女王様では場が白けてしまう。
次に除外されるのは殿下。王太子に命令権を与えるとか無意味だ。
セシリア様を含めた他の令嬢たちにも可能性があるが、お茶会を盛り上げるという意味では私かカーライル様が妥当な線だ。
目の前のケーキに恐る恐るフォークを入れると、カツンと固い感触が返ってきた。そこからそっと開くと、断面から天使を模した人形が顔を出している。
「まあ、プリエラさんでしたのね。おめでとうございます」
クラリッサがにこりと微笑み拍手をする。それが確信犯の笑みに見えて仕方ないのだが、私の思い込みだろうか。
「ど、どうも……」
「それで、何をご命令になるのです? 多少羽目を外したところで所詮お遊び、思い切って殿下に何かおっしゃってみればいかが? 一日限りの恋人、なんてロマンがあると思うのですが」
好奇心か邪心か、やけにキラキラ輝く瞳で私と殿下を交互に眺めるクラリッサ。
だから、なんでそんなに私と殿下のフラグを立てたがるのか。横恋慕説は否定されたも同然だから、やっぱり私がセシリア様にザマァされればいいと思ってるの?
チラッとセシリア様を窺うと、一日恋人なんて不穏な単語を聞かされても涼しい顔をしている。未来の王太子妃の余裕か、あるいは獲物を手ぐすね引いて待ってるアリジゴクの気分なのか。
「いえ、その……急に言われても何も思いつかないので、食べながら考えてもよろしいでしょうか?」
「そうですわね。たった一度のことですもの。ゆっくりお考えください」
クラリッサにそう言ってもらえてほっと息を吐き出した。
しかし、一旦答えは先延ばしにしたが、さてどうしよう。
考えるのも面倒だし、殿下に「語尾に『ニャー』をつけてしゃべってください」とか言っちゃう?いやいや、それよりもクラリッサとカーライル様を確実にくっつける方がいいかも。
そもそも、相思相愛っぽく見えるのにまだ婚約者じゃないってことがおかしい。クラリッサは分かりやすいくらい態度に出ているので、カーライル様が自分の過去のせいで煮え切らない態度を取っているんだろう。
ここは“運命の人と会えるお茶会”だ。その対象がクラリッサであってはいけないという理屈はない。
考えをまとめながらケーキを食べ終わり、その場の皆様が私に注目する中、お茶を一口飲んで喉を湿らせてズバリ言う。
「カーライル様。今ここで、あなたの意中のご令嬢をお教えください」
「……は!?」
椅子を蹴飛ばして立ち上がるカーライル様は、制帽を被ったままでも分かるくらい顔が真っ赤になっている。
その横でクラリッサも平静を保つふりをして、「公開告白キター!」みたいな期待に満ちた目でカーライル様を見上げている。
「別に、そのご令嬢に愛をささやけとか求婚しろとかは申し上げません。貴族に自由恋愛はありませんので。ただカーライル様の想い人が知りたいという、私のわがままです。どうしても秘すべき相手であれば、お遊びとはいえ無理強いはいたしませんが」
相手はクラリッサだとは分かっているけど、もしかしたら別の“本命”がいるかもしれないし、一応逃げ道を作っておく。彼の性格的に二股は無理だと思うけど、男は頭と下半身は別の生き物だというのが定説だ。
カーライル様は赤い顔のまま立ちすくみ、あちこち視線をさまよわせたあと、体躯に似合わない小さな声でぽつりとつぶやく。
「……ホワイトリー嬢だけに伝える、というのではダメだろうか?」
そんなに公開告白が嫌なのだろうか。
性差を持ち出すのは趣味ではないが、男らしくないとしか言いようがない。
「では、それを私の口から皆様にお伝えするのは可能ですか?」
「そう、だな。あなたが伝えていいと思うなら、そうしてくれ」
歯切れが悪いな、と思いつつ、カーライル様に手招きされるまま四阿の外に出て――衝撃の事実を耳打ちされた。
「俺が想う人は……プリエラ・ホワイトリー嬢、あなただ」
最初何を言われているのか分からなくてポカンとしたが、それが自分の名前だと認識した瞬間、予想外の回答に頭の中がグチャグチャになった。
前世も含めて生まれて初めて異性に、しかもイケメンに告白されたというのに、照れも感動もときめきなく、あるのはただひたすらに困惑のみ。
この人は、私のことが好き? クラリッサではなく?
どうして? 好かれるようなことなんか何もしてないのに。
ピンチを救ってくれたヒーローだから、私が彼に惚れるなら分かるけど、彼が私に惚れる理由も要素もどこにもない。
「……それは、本心ですか? ご冗談ではなく?」
「もちろん本心だ。俺はあの舞踏会の日に、あなたに心を奪われた」
制帽が脱がれ、短く整えられていた金髪と共に、今まで影になっていて判別できなかった瞳の色があらわになる。
澄み切ったアクアマリン。ざっくり言えば水色とも呼べるその色は、クラリッサが着ていたドレスの色によく似ている。
意中の相手への愛情を示すため、自分の瞳と同じ色の服やアクセサリーを贈るというのは、古くから続く貴族の風習だ。彼女が水色のドレスを愛用していたのは、彼が贈ったからだと気づく。
なら、とっくの昔に相思相愛確定だ。
なのに何故、この人は私に告白などするのだろう。
もしかして、『乙女ゲームのヒロインは無自覚に周囲を魅了状態にさせてる』なんて裏設定がライトノベルでよくあるから、私に出会った時にその効果が発動して、気持ちを歪められてしまったのか。
まさかのチート疑惑だが、心を操る能力なんて嬉しくもなんともない。
こちらを真摯に見つめるその瞳には、曇りひとつないように見えるけど、それもチート能力のなせる業かもしれないと思うと、もっといたたまれない気持ちになる。
自分の意に沿わず二心を抱いてしまったカーライル様を、どうやって解放したらいいのか全然思いつかないが、ここはきっぱりと拒絶するより他はない。
「カーライル様……それは勘違いです」
「え……?」
「あなたの想い人は別にいます。よくよくご自分に問いかけて、その方のことを思い出してあげてください」
茫然とするカーライル様に背を向けて四阿に戻ると、食いつき気味にクラリッサが駆け寄ってきた。
「して、カーライル様はなんと?」
「その……私の口からは申し上げられませんわ。申し訳ございません」
チラッ、とクラリッサを意味深に見てすぐに視線を逸らし、席に戻って冷めてしまったお茶を一気に飲み干した。
彼女が私のアイコンタクトを正しく理解していれば、あれよこれよという間に婚約話が進み、二人は末永く幸せに、私は平穏な生活が手に入る。
まさにウインウインだ。
――これでいい。
ザマァ回避できたはずなのに気分が晴れないのは、不本意な告白であっても袖にことは精神に負担がかかったせいだろう。一時的なものだしすぐに治るに違いない。
それからしばらくして、マクレイン公爵邸のお茶会は幕をお開きとなった。
ていうか、殿下はともかく、何故カーライル様まで?
彼も招待されてたのかと思ったが、クラリッサも目を丸くしているところからそれがないと判断する。
「あら。皆様へのサプライズゲストとして殿下をご招待していたのですが、まさかカーライル様もお見えになるなんて……こちらが驚かされてしまいましたわ」
「君を驚かすつもりはなかったんだけど、兄上がどうしてもと言うのでね」
「フロリアン!」
「まあ……カーライル様ったら」
恥ずかしそうに目を伏せつつ、カーライル様をチラチラと見るクラリッサ。
あざと可愛い恋する乙女の視線に目を伏せ、制帽を深く被り直すカーライル様。
修羅場は回避できたけど、今度はアウェー感半端ねぇ……そういうのはよそでやってほしいんですが、まったく。
「ふふ、ゲストが二人もいらしたことですし、一度テーブルを片付けさせますわ」
想い人が現れて上機嫌になったクラリッサは、侍女たちに命じてテーブル上のすべてのもの……カトラリーやテーブルクロスまでも全部下げさせ、新しいものに取り換える。
その作業の間にゲストの二人も着席する。
殿下は婚約者であるセシリア様の隣。
カーライル様はクラリッサの隣。
社交界で爪弾きされているカーライル様に、令嬢たちは少し複雑な顔をしているが、この場を仕切る女主人が客としてもてなすと言っている以上口出しはできない。しかも、クラリッサが彼に熱を上げているのは一目瞭然。馬に蹴られて死にたくない、という部分では私と彼女たちは同意見だ。
やがてテーブルの上が一新し、新しいお茶が淹れられ、大きくて丸いパイのようなケーキが運ばれてきた。ガレットデロワだ。この世界で見るのは初めてだが、クラリッサが前世の知識を持ち込んだのだろうか。
「皆様ご存知かと思いますが、こちらはガレットデロワというお菓子です。中に”フェーヴ”と呼ばれる人形が入っており、それに当たった方は“王様”あるいは“女王様”として、一度だけこの場にいる人たちに命令をすることができます。お茶会のお遊びですので、どうぞご容赦くださいませ、殿下」
「ああ、それくらい構わないよ。セシリアで慣れているか、ら……」
その時、私は見てしまった。
テーブルの下で、セシリア様が淑女の微笑みを浮かべながら、殿下の太ももに羽扇を突き立てているのを。
言葉を一瞬詰まらせながらも、王子様スマイルをキープしている殿下もまたすごい。ある意味お似合いのカップルだ。殿下がクラリッサに横恋慕している説は、私の勘違いかもしれない。
そんなことを考えているうちに、ガレットデロワが切り分けられ、ひとピースずつ皿に盛られて各自の元に配られていく。
フェーヴという人形を使った“王様ゲーム”は私も知っている。
記憶では一度だけではなくその日一日だった気がするが、いくらお遊びでも禍根が残るといけないからそうしているのだろう。
では、そのフーヴェは誰の手に渡るのか?
本来はランダムであって然るべきだが、女主人であるクラリッサはお茶会を盛り上げるため、“当たり”を操作するだろう。八百長というヤツだ。
まずクラリッサ本人は除外される。主催者が女王様では場が白けてしまう。
次に除外されるのは殿下。王太子に命令権を与えるとか無意味だ。
セシリア様を含めた他の令嬢たちにも可能性があるが、お茶会を盛り上げるという意味では私かカーライル様が妥当な線だ。
目の前のケーキに恐る恐るフォークを入れると、カツンと固い感触が返ってきた。そこからそっと開くと、断面から天使を模した人形が顔を出している。
「まあ、プリエラさんでしたのね。おめでとうございます」
クラリッサがにこりと微笑み拍手をする。それが確信犯の笑みに見えて仕方ないのだが、私の思い込みだろうか。
「ど、どうも……」
「それで、何をご命令になるのです? 多少羽目を外したところで所詮お遊び、思い切って殿下に何かおっしゃってみればいかが? 一日限りの恋人、なんてロマンがあると思うのですが」
好奇心か邪心か、やけにキラキラ輝く瞳で私と殿下を交互に眺めるクラリッサ。
だから、なんでそんなに私と殿下のフラグを立てたがるのか。横恋慕説は否定されたも同然だから、やっぱり私がセシリア様にザマァされればいいと思ってるの?
チラッとセシリア様を窺うと、一日恋人なんて不穏な単語を聞かされても涼しい顔をしている。未来の王太子妃の余裕か、あるいは獲物を手ぐすね引いて待ってるアリジゴクの気分なのか。
「いえ、その……急に言われても何も思いつかないので、食べながら考えてもよろしいでしょうか?」
「そうですわね。たった一度のことですもの。ゆっくりお考えください」
クラリッサにそう言ってもらえてほっと息を吐き出した。
しかし、一旦答えは先延ばしにしたが、さてどうしよう。
考えるのも面倒だし、殿下に「語尾に『ニャー』をつけてしゃべってください」とか言っちゃう?いやいや、それよりもクラリッサとカーライル様を確実にくっつける方がいいかも。
そもそも、相思相愛っぽく見えるのにまだ婚約者じゃないってことがおかしい。クラリッサは分かりやすいくらい態度に出ているので、カーライル様が自分の過去のせいで煮え切らない態度を取っているんだろう。
ここは“運命の人と会えるお茶会”だ。その対象がクラリッサであってはいけないという理屈はない。
考えをまとめながらケーキを食べ終わり、その場の皆様が私に注目する中、お茶を一口飲んで喉を湿らせてズバリ言う。
「カーライル様。今ここで、あなたの意中のご令嬢をお教えください」
「……は!?」
椅子を蹴飛ばして立ち上がるカーライル様は、制帽を被ったままでも分かるくらい顔が真っ赤になっている。
その横でクラリッサも平静を保つふりをして、「公開告白キター!」みたいな期待に満ちた目でカーライル様を見上げている。
「別に、そのご令嬢に愛をささやけとか求婚しろとかは申し上げません。貴族に自由恋愛はありませんので。ただカーライル様の想い人が知りたいという、私のわがままです。どうしても秘すべき相手であれば、お遊びとはいえ無理強いはいたしませんが」
相手はクラリッサだとは分かっているけど、もしかしたら別の“本命”がいるかもしれないし、一応逃げ道を作っておく。彼の性格的に二股は無理だと思うけど、男は頭と下半身は別の生き物だというのが定説だ。
カーライル様は赤い顔のまま立ちすくみ、あちこち視線をさまよわせたあと、体躯に似合わない小さな声でぽつりとつぶやく。
「……ホワイトリー嬢だけに伝える、というのではダメだろうか?」
そんなに公開告白が嫌なのだろうか。
性差を持ち出すのは趣味ではないが、男らしくないとしか言いようがない。
「では、それを私の口から皆様にお伝えするのは可能ですか?」
「そう、だな。あなたが伝えていいと思うなら、そうしてくれ」
歯切れが悪いな、と思いつつ、カーライル様に手招きされるまま四阿の外に出て――衝撃の事実を耳打ちされた。
「俺が想う人は……プリエラ・ホワイトリー嬢、あなただ」
最初何を言われているのか分からなくてポカンとしたが、それが自分の名前だと認識した瞬間、予想外の回答に頭の中がグチャグチャになった。
前世も含めて生まれて初めて異性に、しかもイケメンに告白されたというのに、照れも感動もときめきなく、あるのはただひたすらに困惑のみ。
この人は、私のことが好き? クラリッサではなく?
どうして? 好かれるようなことなんか何もしてないのに。
ピンチを救ってくれたヒーローだから、私が彼に惚れるなら分かるけど、彼が私に惚れる理由も要素もどこにもない。
「……それは、本心ですか? ご冗談ではなく?」
「もちろん本心だ。俺はあの舞踏会の日に、あなたに心を奪われた」
制帽が脱がれ、短く整えられていた金髪と共に、今まで影になっていて判別できなかった瞳の色があらわになる。
澄み切ったアクアマリン。ざっくり言えば水色とも呼べるその色は、クラリッサが着ていたドレスの色によく似ている。
意中の相手への愛情を示すため、自分の瞳と同じ色の服やアクセサリーを贈るというのは、古くから続く貴族の風習だ。彼女が水色のドレスを愛用していたのは、彼が贈ったからだと気づく。
なら、とっくの昔に相思相愛確定だ。
なのに何故、この人は私に告白などするのだろう。
もしかして、『乙女ゲームのヒロインは無自覚に周囲を魅了状態にさせてる』なんて裏設定がライトノベルでよくあるから、私に出会った時にその効果が発動して、気持ちを歪められてしまったのか。
まさかのチート疑惑だが、心を操る能力なんて嬉しくもなんともない。
こちらを真摯に見つめるその瞳には、曇りひとつないように見えるけど、それもチート能力のなせる業かもしれないと思うと、もっといたたまれない気持ちになる。
自分の意に沿わず二心を抱いてしまったカーライル様を、どうやって解放したらいいのか全然思いつかないが、ここはきっぱりと拒絶するより他はない。
「カーライル様……それは勘違いです」
「え……?」
「あなたの想い人は別にいます。よくよくご自分に問いかけて、その方のことを思い出してあげてください」
茫然とするカーライル様に背を向けて四阿に戻ると、食いつき気味にクラリッサが駆け寄ってきた。
「して、カーライル様はなんと?」
「その……私の口からは申し上げられませんわ。申し訳ございません」
チラッ、とクラリッサを意味深に見てすぐに視線を逸らし、席に戻って冷めてしまったお茶を一気に飲み干した。
彼女が私のアイコンタクトを正しく理解していれば、あれよこれよという間に婚約話が進み、二人は末永く幸せに、私は平穏な生活が手に入る。
まさにウインウインだ。
――これでいい。
ザマァ回避できたはずなのに気分が晴れないのは、不本意な告白であっても袖にことは精神に負担がかかったせいだろう。一時的なものだしすぐに治るに違いない。
それからしばらくして、マクレイン公爵邸のお茶会は幕をお開きとなった。
10
あなたにおすすめの小説
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します
みゅー
恋愛
乙女ゲームに、転生してしまった瑛子は自分の前世を思い出し、前世で培った処世術をフル活用しながら過ごしているうちに何故か、全く興味のない攻略対象に好かれてしまい、全力で逃げようとするが……
余談ですが、小説家になろうの方で題名が既に国語力無さすぎて読むきにもなれない、教師相手だと淫行と言う意見あり。
皆さんも、作者の国語力のなさや教師と生徒カップル無理な人はプラウザバック宜しくです。
作者に国語力ないのは周知の事実ですので、指摘なくても大丈夫です✨
あと『追われてしまった』と言う言葉がおかしいとの指摘も既にいただいております。
やらかしちゃったと言うニュアンスで使用していますので、ご了承下さいませ。
この説明書いていて、海外の商品は訴えられるから、説明書が長くなるって話を思いだしました。
竜帝に捨てられ病気で死んで転生したのに、生まれ変わっても竜帝に気に入られそうです
みゅー
恋愛
シーディは前世の記憶を持っていた。前世では奉公に出された家で竜帝に気に入られ寵姫となるが、竜帝は豪族と婚約すると噂され同時にシーディの部屋へ通うことが減っていった。そんな時に病気になり、シーディは後宮を出ると一人寂しく息を引き取った。
時は流れ、シーディはある村外れの貧しいながらも優しい両親の元に生まれ変わっていた。そんなある日村に竜帝が訪れ、竜帝に見つかるがシーディの生まれ変わりだと気づかれずにすむ。
数日後、運命の乙女を探すためにの同じ年、同じ日に生まれた数人の乙女たちが後宮に召集され、シーディも後宮に呼ばれてしまう。
自分が運命の乙女ではないとわかっているシーディは、とにかく何事もなく村へ帰ることだけを目標に過ごすが……。
はたして本当にシーディは運命の乙女ではないのか、今度の人生で幸せをつかむことができるのか。
短編:竜帝の花嫁 誰にも愛されずに死んだと思ってたのに、生まれ変わったら溺愛されてました
を長編にしたものです。
異世界で王城生活~陛下の隣で~
遥
恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。
グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます!
※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。
※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。
ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく
犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。
「絶対駄目ーー」
と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。
何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。
募集 婿入り希望者
対象外は、嫡男、後継者、王族
目指せハッピーエンド(?)!!
全23話で完結です。
この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。
死に戻りの元王妃なので婚約破棄して穏やかな生活を――って、なぜか帝国の第二王子に求愛されています!?
神崎 ルナ
恋愛
アレクシアはこの一国の王妃である。だが伴侶であるはずの王には執務を全て押し付けられ、王妃としてのパーティ参加もほとんど側妃のオリビアに任されていた。
(私って一体何なの)
朝から食事を摂っていないアレクシアが厨房へ向かおうとした昼下がり、その日の内に起きた革命に巻き込まれ、『王政を傾けた怠け者の王妃』として処刑されてしまう。
そして――
「ここにいたのか」
目の前には記憶より若い伴侶の姿。
(……もしかして巻き戻った?)
今度こそ間違えません!! 私は王妃にはなりませんからっ!!
だが二度目の生では不可思議なことばかりが起きる。
学生時代に戻ったが、そこにはまだ会うはずのないオリビアが生徒として在籍していた。
そして居るはずのない人物がもう一人。
……帝国の第二王子殿下?
彼とは外交で数回顔を会わせたくらいなのになぜか親し気に話しかけて来る。
一体何が起こっているの!?
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
勘違いで嫁ぎましたが、相手が理想の筋肉でした!
エス
恋愛
「男性の魅力は筋肉ですわっ!!」
華奢な男がもてはやされるこの国で、そう豪語する侯爵令嬢テレーゼ。
縁談はことごとく破談し、兄アルベルトも王太子ユリウスも頭を抱えていた。
そんな折、騎士団長ヴォルフがユリウスの元に「若い女性を紹介してほしい」と相談に現れる。
よく見ればこの男──家柄よし、部下からの信頼厚し、そして何より、圧巻の筋肉!!
「この男しかいない!」とユリウスは即断し、テレーゼとの結婚話を進める。
ところがテレーゼが嫁いだ先で、当のヴォルフは、
「俺は……メイドを紹介してほしかったんだが!?」
と何やら焦っていて。
……まあ細かいことはいいでしょう。
なにせ、その腕、その太もも、その背中。
最高の筋肉ですもの! この結婚、全力で続行させていただきますわ!!
女性不慣れな不器用騎士団長 × 筋肉フェチ令嬢。
誤解から始まる、すれ違いだらけの新婚生活、いざスタート!
※他サイトに投稿したものを、改稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる