双凶の妖鬼 蒼 ~再逢~

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決意 1

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 幾度も身体を震わせ、全ての熱を少しも逃すことなく翡翠ひすいの奥へ放つと、久遠くおんは力の抜けた身体を重く動かし、つながりを解くことのないまま横になった。

 しっとり汗ばんだ翡翠ひすいの身体を強く抱きしめ、久遠くおんは彼女の甘い香りを胸に深く含む。
 まだ息を乱している翡翠ひすいの鼓動は、小鳥のように早鐘を打ったままだった。

 ぐったりとした充足感と幸福感で満たされながら、久遠くおん翡翠ひすいの髪に口づける。
 重なった肌からこのうえない愛おしさが、身体の芯を震わせるほど染み入ってきて、久遠くおんはたまらず翡翠ひすいを一層強く腕に抱いた。

 「翡翠ひすい。」

 「うん。」

 つぶれてしまうほど強く抱きしめられながら、あえて自分の名を確かめるように呼ぶ久遠くおんの声に、翡翠ひすいはついにこの時がきたのだと知った。

 「彼呼迷軌ひよめきに歳を止めてもらおうと思う。・・・私が執護あざねとして・・・海神わだつみ白妙しろたえの友として胸を張れるようになるまで、子のことは待ってくれるか。」

 「久遠くおん・・・・・・気づいていなかったの?私もあなたと同じ気持ちだということに・・・。」

 くすりと小さな笑いを纏いながら腕の中で紡がれた翡翠ひすいの言葉に、久遠くおんは重く息を吐きだした。

 「本音を言えば、私は一日も早く、我が子をこの腕に抱きたいと願っている。・・・・・・お前と私の子に会いたくて、仕方がないのだ。」

 「・・・・・・言わないで。全部、分かっているの。・・・言ったでしょ。同じ気持ちだって。」

 愛する人との子を腕に抱き、慈しみ、共に育て生きていきたい。
 その焼けつくような想いは、むしろ翡翠ひすいの方が一層強く感じているのかもしれなかった。

 胸の内を、赤く熱した鋭い爪でかき乱されるような痛みを覚え、翡翠ひすいは違えることのできない決意に、久遠くおんの腕の中ひっそりと涙を流した・・・・・・。

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 白妙しろたえ海神わだつみの元、二人が日々続ける修練は決して甘いものではなかった。

 ただの人の身である久遠くおん翡翠ひすいが、妖月である彼らに及ぶほどの力を得ようというのだ。

 そもそも人が執護あざねとなった前例すらなく、なにもかもが手探りの状態である。
 彼らの成長には相当の時と努力、そして痛みを要するであろうことは、元より明らかなことだった。

 だが、その苦しみに久遠くおん翡翠ひすいが背を向けることは一度たりとも無かった。

 特に久遠の在りようは凄まじく、翡翠の日々の支えと海神わだつみの指導をよりどころに、文字通り血を吐く鍛錬を自ら続け、気づけば数百の年月を重ねていた。

 ついに歴代最強の執護あざねとして、神妖たちの信頼を得た時、ようやく久遠くおんは、翡翠と共に子を育てる決意を固めることができた・・・・・・。


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