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決意 2
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「執護の任を一度離れたいと思う。どうか許して欲しい。」
風が運ぶ、甘く清しい春の香りがたゆたう中・・・・・・。
久遠と翡翠の口から紡がれた言葉に、この日を待ちわびていた白妙は、あふれる涙を隠そうとしなかった。
翡翠《ひすい》の名を幾度も呼びながら、細い身体をきつく抱きしめる。
久遠にむかい深くうなずいている海神の細められた瞳は、あふれ出しそうな瑞々しさに満ち、ゆらゆらと揺れていた。
「2人の友として胸を張れる存在でありたいのだ」と久遠と翡翠が執護としての修練を求め言い募ってきたあの時。
彼らの強すぎる想いを、「そんなことは必要ない」と無下に遮ることはできなかった。
ましてや先のよめない険しい道を勧めることなど、天地がひっくり返ってもありえない。
白妙と海神は、なにが正しい選択なのか分からず、言葉に詰まってしまった。
愛おしい者が苦しむ姿など見たいわけがない。
だが、自分が同じ立場であったならばと考えてみれば、二人の気持ちが痛いほど理解できてしまうのだ。
久遠と翡翠が二人を大切に想っているように、二人も久遠と翡翠をかけがえのない存在と思っている。
白妙と海神に寄せてくる、久遠と翡翠の偽りのないどこまでも真っすぐな優しさは、二人を柔らかく温かな気持ちで包みこみ、このうえない幸福感で満たしてくれた。
だが同時に、彼らの誠実さは、二人にとってはあまりにも辛すぎるものでもあったのだ。
白妙と海神の妖力がどれほど高くとも、どんなに彼らを愛おしく想っていてもどうしてやることもできない。
歯がゆさと、目の前でぼろぼろになっている彼らの姿に耐えながら、心を鬼とし必要とする修練を与え続けた。
二人の傍らにいてやることだけが、白妙と海神に許される唯一のことだったのだ・・・・・・。
数百年の時を経て、ようやく人としてのささやかな幸せを求める決心のついた二人に、白妙と海神は心からの祝福を贈った・・・・・・。
執護の役を外れ彼呼迷軌の加護を解かれた久遠と翡翠は、東屋で睦まじく過ごした。
翡翠がその身に子を宿すまで、それほどの時は必要としなかった。
腹に子を抱いた彼女を気遣う久遠の様子は、見ていて全く飽きない。
「子が中から腹を蹴っている」と翡翠が微笑めば、そっとそこに頬を寄せ、「腹が張って痛む」と言えば、すかさず彼女を抱き上げ東屋へ連れ帰り腰や腹をさすってやる。
数百の時を渡る最強の執護の姿など、そこには欠片もなかった。
ついにこの世に生まれ落ちた、玉のような愛おしい我が子に、二人は都古と名づけ、こよなく愛し慈しんだ。
こうして数年というごく短い間ではあったが、ただの人として穏やかで満たされた時の流れを三人で心行くまで過ごした久遠と翡翠は、再び時の流れをはずれ、執護の任へと戻っていったのである・・・・・・。
風が運ぶ、甘く清しい春の香りがたゆたう中・・・・・・。
久遠と翡翠の口から紡がれた言葉に、この日を待ちわびていた白妙は、あふれる涙を隠そうとしなかった。
翡翠《ひすい》の名を幾度も呼びながら、細い身体をきつく抱きしめる。
久遠にむかい深くうなずいている海神の細められた瞳は、あふれ出しそうな瑞々しさに満ち、ゆらゆらと揺れていた。
「2人の友として胸を張れる存在でありたいのだ」と久遠と翡翠が執護としての修練を求め言い募ってきたあの時。
彼らの強すぎる想いを、「そんなことは必要ない」と無下に遮ることはできなかった。
ましてや先のよめない険しい道を勧めることなど、天地がひっくり返ってもありえない。
白妙と海神は、なにが正しい選択なのか分からず、言葉に詰まってしまった。
愛おしい者が苦しむ姿など見たいわけがない。
だが、自分が同じ立場であったならばと考えてみれば、二人の気持ちが痛いほど理解できてしまうのだ。
久遠と翡翠が二人を大切に想っているように、二人も久遠と翡翠をかけがえのない存在と思っている。
白妙と海神に寄せてくる、久遠と翡翠の偽りのないどこまでも真っすぐな優しさは、二人を柔らかく温かな気持ちで包みこみ、このうえない幸福感で満たしてくれた。
だが同時に、彼らの誠実さは、二人にとってはあまりにも辛すぎるものでもあったのだ。
白妙と海神の妖力がどれほど高くとも、どんなに彼らを愛おしく想っていてもどうしてやることもできない。
歯がゆさと、目の前でぼろぼろになっている彼らの姿に耐えながら、心を鬼とし必要とする修練を与え続けた。
二人の傍らにいてやることだけが、白妙と海神に許される唯一のことだったのだ・・・・・・。
数百年の時を経て、ようやく人としてのささやかな幸せを求める決心のついた二人に、白妙と海神は心からの祝福を贈った・・・・・・。
執護の役を外れ彼呼迷軌の加護を解かれた久遠と翡翠は、東屋で睦まじく過ごした。
翡翠がその身に子を宿すまで、それほどの時は必要としなかった。
腹に子を抱いた彼女を気遣う久遠の様子は、見ていて全く飽きない。
「子が中から腹を蹴っている」と翡翠が微笑めば、そっとそこに頬を寄せ、「腹が張って痛む」と言えば、すかさず彼女を抱き上げ東屋へ連れ帰り腰や腹をさすってやる。
数百の時を渡る最強の執護の姿など、そこには欠片もなかった。
ついにこの世に生まれ落ちた、玉のような愛おしい我が子に、二人は都古と名づけ、こよなく愛し慈しんだ。
こうして数年というごく短い間ではあったが、ただの人として穏やかで満たされた時の流れを三人で心行くまで過ごした久遠と翡翠は、再び時の流れをはずれ、執護の任へと戻っていったのである・・・・・・。
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