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3話、革鎧(3)
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リリは興味津々でラーナが鞄から調味料を出すのを眺める。
「良いよ! まずはオリーブオイルでしょー、ペペロンチーノ(唐辛子)にポワブルノワール(黒胡椒)もあるよ!」
(テンション高いわね、楽しそうで何よりだわ)
「あとはオレガノにローズマリー、ローリエ、トリュフにファイヤーリーフ、オークペッパー、これぐらいかなぁ?」
「結構、持ってるのね」
「液体は腐るから持ってないし、お腹にたまるものは殆ど食べちゃったけど、他にもいろいろとあるよ?」
更にラーナは、嬉々として鞄から香辛料を出す。
「いっぱいあるとワクワクするわね」
「毎日同じもの食べるなら味が違ったほうが良い、って“書いて”あったから集めたの」
「なるほどねー」
(旅人の知恵ってやつかしら? それよりも、わたしには気になることがあるのよねー)
リリはラーナの出した物の中から、白い塊を持ち上げて聞く。
「トリュフは高くないんですか?」
「なんで? ただのキノコだよ?」
「あーそういうことねー」
(この世界ではトリュフってお手頃なんだ、ざーんねん、売ったら一儲け出来ると思ったのになぁ)
「なら、倒れる前に食べても、よかったんじゃないの?」
「流石に乾燥し過ぎて、口の水分持っていかれるからさぁ」
「確かにそれは……困るわね」
ここが、異世界だという事を改めて認識したリリ。
更に本命の気になるものについて聞く事にした。
「あと、もう一個聞いていい?」
「なぁに?」
「ファイヤーリーフとオークペッパーってなに? わたし聞いたことがないわ!」
リリからしたら、見当のつかない二つの方が気になっていたのか、先程よりもすこし声のトーンが高い。
「ボクの故郷でよく使う香辛料だよ?」
「へぇ、ラーナさんの故郷にはそんなものがあるのね」
「火山の近くに咲く花なんだけど、葉っぱはファイヤーリーフ、種はオークペッパーになるんだよ、ピリピリして美味しいの!」
「ふぇー、火山! わたしの知らない物事って沢山あるんだなぁ」
リリは未知の香辛料に目を輝かせる、そして一つの疑問が頭をよぎった。
「あれっ? 塩は? 持ってないの?」
「あぁ、ここのカルラ砂漠には岩塩があるから、現地調達でいいかなって」
「塩が取れるの?」
「ん? それぐらいならそこら中にあるよ?」
「えっ! じゃあ食べ物と一緒にその岩塩を探しましょ、塩は大切よ!」
「あったよ? ほらっ、あそこ!」
(速い! しかもデカッ!)
ラーナの指差したのは砂漠のど真ん中、人の身の丈半分ほどの薄いピンク色をした岩があった。
「天然の岩塩ねぇ、ここって昔は海だったのかぁ」
「そんなわけないじゃん、フフフッ、砂漠だよー?」
リリの言葉が面白かったのか、ラーナは短い犬歯を覗かせながら笑いをこらえる。
(あっちゃー。大陸移動説って無かったのか! 下手に話してどこかで異端者扱いされても困るわよね、ラーナさんのノリにわたしも合わせよっと)
「そんなー冗談ですよー」
「リリは冗談が下手だねぇ」
「えー、ラーナさん笑ってるじゃん!」
「フフッ、確かに荒唐無稽で面白かったよ」
「ならよかったわ! っま、とりあえず塩を取りに行こっ」
「うん! そうだね」
(あっぶなー、疑われてはなさそうね)
ラーナに不審に思われず安心したリリ。
悩まし気な態度が違ったものに見えたのか、ラーナは膝をつき手のひらをリリの前へと出して来た。
「飛べないんでしょ? 乗る?」
「っえ!? ありがとう」
片膝をつき手を差し出すラーナ。
全身ローブでトーンが軽い言い方が、物語にありがちな、ちょっと悪めの騎士みたいで、リリは少しだけキュンとした。
しかしバレないように冷静を装い、リリは手のひらに乗った。
(ラーナさんの手、傷だらけね……相当、頑張ってきたのね)
ラーナの手には細かい傷、剣ダコが何度も潰れて硬くなった皮膚。
更にマントの裾から見えた腕には、消えかけて見にくくなってはいるが、大きなやけどの痕、何十針も縫ったであろう痕まであった。
(どうしてこんなに…………んー、聞かないほうが良いっか)
リリは見なかったことにして、進行方向の岩塩に目を向けた。
すると何か人工物らしき物が見える。
「あそこになにかあるわ!」
リリが声を上げ指差す。
遥か先、砂に埋もれている上に砂が保護色になっているが確かにある。
「んー、どれー?」
生返事を返すラーナ、彼女には全く見えていないらしい。
「あそこです。この指の先のほう」
「砂と塩以外、なんにも見えないよー」
「茶色い物体があるじゃない」
「全部、茶色いじゃん!」
ラーナはリリを乗せていない方の手をおでこに当てると、目を凝らし覗き込むように見る。
やはりラーナには見えないらしい。
「わたしにはハッキリと見えるわよ? そこにあるじゃない! そーこー!」
「えー、わっかんないよー、リリって凄く目がいいんだねぇ」
(目が良いって、前世じゃ眼鏡をかけてたわたしが? ピクシーだからかしら? ……っま、考えてもわかんないし、いっか)
「あれが食べられる物なら良いわね」
「期待出来ないけどねー」
「もしかして、まだ信じてないわね?」
「うん!」
(うん! って、正直にもほどがあるわよ!)
「まぁ行ってみればわかるわ」
「よし、行ってみよー!」
ラーナはオーと手を上げる。
岩塩を通り過ぎ、リリの指差した先には確かに人工物が埋まっていた。
種族的な物なのか、個人的な物なのかは分からないが、リリの目は確かに良いらしい。
「これはなに?」
「さぁ? なんだろうね?」
(表面にでている部分だけじゃ、良くわからないわね)
ラーナがおもむろに、埋まった茶色い物体をつまみ上げる
ザパァーー。 コロコロ……
「っこ、これは!?」
「革鎧だねぇ」
「……」
「サイズ的に人族? いやっ、大きいから獣人族かなぁ?」
「いやいやいやいや! そっちよりも、白骨死体!」
(キャー、初めて見ちゃった、キャー)
初めて見る白骨死体。
リリは焦りながら声をかけるが、ラーナは何の気なしに答える。
「まぁこんな砂漠だしね」
「っえ? 冷静過ぎない?」
「だって食べられないもん」
「そういう問題じゃないでしょ!?」
「そういう問題だよー。せめて鞄だったら、中に何かあったかもしれないのになぁ」
本当に見慣れているようで、ラーナからは一切の感情が感じられない。
(この子、サラッと怖いこと言うわね。どんな生き方をしてきたら、死人に対してこんな対応出来るのよ?)
「死にかけてたんだし、しょうがないのかなぁ」
思わず口をついて出てしまった、リリの声がラーナに聞こえていたのかは分からない。
ただ、全く反応はなかった。
いろいろと思う所もあったが、リリは全てを奥に仕舞い込み、当面の問題に目を向ける。
(他人の価値観、どうこう言ってもしょうがないからなぁ)
「良いよ! まずはオリーブオイルでしょー、ペペロンチーノ(唐辛子)にポワブルノワール(黒胡椒)もあるよ!」
(テンション高いわね、楽しそうで何よりだわ)
「あとはオレガノにローズマリー、ローリエ、トリュフにファイヤーリーフ、オークペッパー、これぐらいかなぁ?」
「結構、持ってるのね」
「液体は腐るから持ってないし、お腹にたまるものは殆ど食べちゃったけど、他にもいろいろとあるよ?」
更にラーナは、嬉々として鞄から香辛料を出す。
「いっぱいあるとワクワクするわね」
「毎日同じもの食べるなら味が違ったほうが良い、って“書いて”あったから集めたの」
「なるほどねー」
(旅人の知恵ってやつかしら? それよりも、わたしには気になることがあるのよねー)
リリはラーナの出した物の中から、白い塊を持ち上げて聞く。
「トリュフは高くないんですか?」
「なんで? ただのキノコだよ?」
「あーそういうことねー」
(この世界ではトリュフってお手頃なんだ、ざーんねん、売ったら一儲け出来ると思ったのになぁ)
「なら、倒れる前に食べても、よかったんじゃないの?」
「流石に乾燥し過ぎて、口の水分持っていかれるからさぁ」
「確かにそれは……困るわね」
ここが、異世界だという事を改めて認識したリリ。
更に本命の気になるものについて聞く事にした。
「あと、もう一個聞いていい?」
「なぁに?」
「ファイヤーリーフとオークペッパーってなに? わたし聞いたことがないわ!」
リリからしたら、見当のつかない二つの方が気になっていたのか、先程よりもすこし声のトーンが高い。
「ボクの故郷でよく使う香辛料だよ?」
「へぇ、ラーナさんの故郷にはそんなものがあるのね」
「火山の近くに咲く花なんだけど、葉っぱはファイヤーリーフ、種はオークペッパーになるんだよ、ピリピリして美味しいの!」
「ふぇー、火山! わたしの知らない物事って沢山あるんだなぁ」
リリは未知の香辛料に目を輝かせる、そして一つの疑問が頭をよぎった。
「あれっ? 塩は? 持ってないの?」
「あぁ、ここのカルラ砂漠には岩塩があるから、現地調達でいいかなって」
「塩が取れるの?」
「ん? それぐらいならそこら中にあるよ?」
「えっ! じゃあ食べ物と一緒にその岩塩を探しましょ、塩は大切よ!」
「あったよ? ほらっ、あそこ!」
(速い! しかもデカッ!)
ラーナの指差したのは砂漠のど真ん中、人の身の丈半分ほどの薄いピンク色をした岩があった。
「天然の岩塩ねぇ、ここって昔は海だったのかぁ」
「そんなわけないじゃん、フフフッ、砂漠だよー?」
リリの言葉が面白かったのか、ラーナは短い犬歯を覗かせながら笑いをこらえる。
(あっちゃー。大陸移動説って無かったのか! 下手に話してどこかで異端者扱いされても困るわよね、ラーナさんのノリにわたしも合わせよっと)
「そんなー冗談ですよー」
「リリは冗談が下手だねぇ」
「えー、ラーナさん笑ってるじゃん!」
「フフッ、確かに荒唐無稽で面白かったよ」
「ならよかったわ! っま、とりあえず塩を取りに行こっ」
「うん! そうだね」
(あっぶなー、疑われてはなさそうね)
ラーナに不審に思われず安心したリリ。
悩まし気な態度が違ったものに見えたのか、ラーナは膝をつき手のひらをリリの前へと出して来た。
「飛べないんでしょ? 乗る?」
「っえ!? ありがとう」
片膝をつき手を差し出すラーナ。
全身ローブでトーンが軽い言い方が、物語にありがちな、ちょっと悪めの騎士みたいで、リリは少しだけキュンとした。
しかしバレないように冷静を装い、リリは手のひらに乗った。
(ラーナさんの手、傷だらけね……相当、頑張ってきたのね)
ラーナの手には細かい傷、剣ダコが何度も潰れて硬くなった皮膚。
更にマントの裾から見えた腕には、消えかけて見にくくなってはいるが、大きなやけどの痕、何十針も縫ったであろう痕まであった。
(どうしてこんなに…………んー、聞かないほうが良いっか)
リリは見なかったことにして、進行方向の岩塩に目を向けた。
すると何か人工物らしき物が見える。
「あそこになにかあるわ!」
リリが声を上げ指差す。
遥か先、砂に埋もれている上に砂が保護色になっているが確かにある。
「んー、どれー?」
生返事を返すラーナ、彼女には全く見えていないらしい。
「あそこです。この指の先のほう」
「砂と塩以外、なんにも見えないよー」
「茶色い物体があるじゃない」
「全部、茶色いじゃん!」
ラーナはリリを乗せていない方の手をおでこに当てると、目を凝らし覗き込むように見る。
やはりラーナには見えないらしい。
「わたしにはハッキリと見えるわよ? そこにあるじゃない! そーこー!」
「えー、わっかんないよー、リリって凄く目がいいんだねぇ」
(目が良いって、前世じゃ眼鏡をかけてたわたしが? ピクシーだからかしら? ……っま、考えてもわかんないし、いっか)
「あれが食べられる物なら良いわね」
「期待出来ないけどねー」
「もしかして、まだ信じてないわね?」
「うん!」
(うん! って、正直にもほどがあるわよ!)
「まぁ行ってみればわかるわ」
「よし、行ってみよー!」
ラーナはオーと手を上げる。
岩塩を通り過ぎ、リリの指差した先には確かに人工物が埋まっていた。
種族的な物なのか、個人的な物なのかは分からないが、リリの目は確かに良いらしい。
「これはなに?」
「さぁ? なんだろうね?」
(表面にでている部分だけじゃ、良くわからないわね)
ラーナがおもむろに、埋まった茶色い物体をつまみ上げる
ザパァーー。 コロコロ……
「っこ、これは!?」
「革鎧だねぇ」
「……」
「サイズ的に人族? いやっ、大きいから獣人族かなぁ?」
「いやいやいやいや! そっちよりも、白骨死体!」
(キャー、初めて見ちゃった、キャー)
初めて見る白骨死体。
リリは焦りながら声をかけるが、ラーナは何の気なしに答える。
「まぁこんな砂漠だしね」
「っえ? 冷静過ぎない?」
「だって食べられないもん」
「そういう問題じゃないでしょ!?」
「そういう問題だよー。せめて鞄だったら、中に何かあったかもしれないのになぁ」
本当に見慣れているようで、ラーナからは一切の感情が感じられない。
(この子、サラッと怖いこと言うわね。どんな生き方をしてきたら、死人に対してこんな対応出来るのよ?)
「死にかけてたんだし、しょうがないのかなぁ」
思わず口をついて出てしまった、リリの声がラーナに聞こえていたのかは分からない。
ただ、全く反応はなかった。
いろいろと思う所もあったが、リリは全てを奥に仕舞い込み、当面の問題に目を向ける。
(他人の価値観、どうこう言ってもしょうがないからなぁ)
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