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9話、サウエムサンドワーム(7)“料理パート”

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“サウエムサンドワームの燻製”

①サンドワームを燻製にする

「じゃあ残りは燻製にしよっかなぁ」

 リリが焚き火に目を向けると、ラーナはまだサンドワームを焼いている。

「今回はなんの匂いを付けよっかなぁ? 前回と同じオレガノでもいいけど……燻製を本格的にするとなると煙が少ないのよねー」

(サンドワームは豆乳の風味だし、優しい匂いがいいわよねぇ、大豆や豆腐系を燻製にしたことはないし……想像がつかないわね)

「っあ、そうだ!」

 リリは想像が当たっていることを願って、横で座っているイヴァに聞く。

「イヴァのアイテムボックスに、お香とか煙が出る木とか持っていない?」
「持ってるぞ、妾は巫女じゃからの、魔除けにナラ、セージ、ヒイラギ、リンゴ、エルダー辺りは常に入れておるぞ、なにに使うのかや?」
「さっすが巫女様、偉い! それじゃナラを少しだけ貰っても良い?」
「んーしょうがないのぉ、特別じゃぞ?」

 イヴァは真面目に答えた感じだが、顔は緩みきっている。
 褒められるのが、とても嬉しかったのだろう。

「ありがとう! 出来たら、わたしの顔ぐらい細かいのがいいんだけど、ある?」
「あったかのぉ……」

 イヴァが杖を振ると。黒いモヤが現れる。
 鞄からナラの枝がパラパラと落ちてきた。

「細かくはないが、こんなもんで良いかや?」
「っま、いっか」

(わたし達じゃ、どうしようもなさそうだしねぇ)

 ナラの木は燻製用によく使われるチップだ。
 匂いも軽めで、バランスがいいので、よく使われる。
 リリの仕事はアッシュウィンドで燻製にしていくのみだ。

「ありがとう、大事に使うわ」

 リリはお礼を言うと、前回よりもなれた手付きで燻製用の煙玉を作る。

「リリよ、これは何をしてるのかや?」

 イヴァは初めて見る煙のボールを見て、質問をする。

「あぁ、これで燻製にしているの」
「燻製かや? 燻製とは専用の小屋を作るものではないのかや?」
「確かに密閉した部屋とか、燻製液とかを使えるといいんだけど、無いから魔法でやっちゃおうってわけよ」

(楽しみー、燻製チップがあるし前より良くなるわよねぇ)

 暫らく経ち、リリは燻製の出来上がり度合いを確認する。

「……これは、縮んだわね」

 見た感じ、元々のサイズから十分の一ぐらいに縮んでいる。
 リリは縮んだサンドワームを見て、少し失敗したかなと思った。

「味見してみるかー、イヴァも食べる?」

 横でジッとリリを見ているイヴァにも声をかけてみる。

「妾はいい!」
「そぅ、ならわたしは食べてみようかな」

 リリは小さな塊を口に運んだ。

「うんうん、なるほどなるほど」

(これは……見た目も変わったけど、味も食感も大分変わったわね)

「当たり前っちゃ、当たり前か」

“サウエムサンドワームの燻製”

(マイルドなチーズの燻製のような味に、ドライフルーツみたいな食感、お酒のおつまみとしては最高じゃない? お酒欲しいー)

「っあ! リリずるーい、ボク我慢してたのにー!」

 ラーナが焼き終えたサンドワームを持って、やって来ると文句を言う。

「ごめんラーナ、でも味見は大事でしょ? 今回は許してー」

 リリはラーナに向けて手を合わせ謝った。

「……っま、いいよ! 盛り付けて食べよー」
「オッケー! イヴァはお皿並べて、ラーナはソフィア呼んできてー」
「わかった、呼んでくるねー」

 ラーナがソフィアを呼びに行っている間、お皿を並べるイヴァを説得することにしたリリ。

「ねぇイヴァ?」
「なんじゃ?」

 イヴァは手を止めて聞き返す。

「イヴァは野菜しか食べないって、言ってたわよね?」
「ん? あぁそうじゃな」
「今回は我慢してもらってもいい?」
「いやじゃ!」

 力強く答えたイヴァ!
 しかしリリからしたら無い袖は振れない。 

「えー……じゃあご飯抜きで」
「っえ!?」
「けってーい!!」
「ちょ、ちょ、ちょっとまったー」

 リリを慌てて止めるイヴァ。

「なによ?」
「それは困る」
「じゃあ、食べられそうなものだけでもいいから摘まんでみたら? 街に戻ったら野菜を買って作るからそこまでは我慢してよー」
「……わかったのじゃ、少し考える」
「ありがとっ!!」

(とりあえずは前向きに考えてくれるみたいで良かったー)

 料理を盛り付けていると、ソフィアもやって来た。
 四人は石に座り、焚き火を囲むと、手を合わせた。

「「「頂きます」」」

 それぞれが思い思いの品に手を伸ばす。

・・・・
・・・
・・


「美味しぃーーー!」

 ラーナは、バタバタと足を振り、キラキラとした笑顔を振りまく。

「っおお? この燻製は、面白いじゃないかっ」

 ソフィアもリリの料理をかなり気に入ったようだ、直ぐに次に手を伸ばす。

「妾はいい!」

 イヴァは口に入れなかったが、まだ結論がでないらしい。
 しかし少し興味ありげに、周りを見ているので印象は良さそうだ。
 キレイに盛り付けた甲斐があるものだ。

「やっぱ、おいしいじゃない!」

 それぞれが思い思いに食べ始め、思い思いの反応をする。
 レシピを考えたリリも、皆の反応に幸せな気持ちになった。

“サンドワームの串焼き”

「リリ、どーお?」

 ラーナがリリに聞く。

「味が濃くなって美味しいわよ、ちょっと辛いけど……」

 元はゴムのような食感だったが、皮がパリパリに焼けている。

(香ばしい匂いがたまらないわ、身の方は脂の乗った魚のような食感、カリカリ、ザクザクとした音がとっても心地いい)

「唐辛子、少なめにしたんだけどなぁ」
「これぐらいなら大丈夫よ」

(少し豆乳感が強くなって豆腐ハンバーグみたい、そこに唐辛子と胡椒のアクセントが口をピリピリと刺激をして、ローズマリーと皮の焦げた香ばしい風味が鼻を抜けていくのが最高だわ)

 実はサンドワームは物凄く扱いやすい食材なのかもしれない。
 焼いてよし茹でてよし燻製も出来るから保存食にもできる。
 そんなことを考えていたリリに、ラーナがとてつもない質問をする。

「残りはどうするの? 捨てちゃうの?」
「っえ?」

(っあ! それは考えていなかったわー、どうしよ?)

 今回の料理に使ったのは、百分の一にも満たない。
 リリが悩んでいると、ソフィアもラーナに乗る。

「確かにそうだっ! こんなに美味しいのに置いてくのはもったいないなぁー、討伐の証明は私も見ていたから必要ないしねっ、あー勿体ない勿体ない」
「そうだよリリ! ソフィアの言う通り、絶対にもったいないよ」

(そうは言っても、どうやって持っていけば……)

 期待に応えようと、顎に手を置き更に悩むリリ。
 だがイヴァの一言で一気に自体が変わる。

「リリが乾燥をさせれば、小さくなるんじゃないのかや?」

(イヴァ、マジかっ!? なんてことを)

「「それだ!」」
「っえ? っえ? えぇー!?」

(マジで言ってる? こんなに大きなサンドワームを乾燥させるの? ぜーたいに大変じゃん)

 リリは想像するだけで逃げ出したい気分になった。

「リリーおねがーい、ボクも手伝うからー」

(食べ物のことじゃ、ラーナは引かないわよね……)

「わかった……やる、やればいいんでしょ!?」
「やったーー!! ボクはリリが乾燥させやすいように切っとくね?」
「妾もナラの木片は出してやろう」
「じゃあ私は、リリちゃんの応援でもしておこうかな?」

 リリはここまで外堀を埋められるとどうしようもない。
「はぁ……」と小さくため息をついたあと、覚悟を決めて残ったこのディナーを楽しむことにした。
 結局、今回はイヴァが食べることはなかった……。

(実力不足だったあなぁ、っま次に頑張ればいっかー)

 四人は、会話を楽しみながら美味しいご飯に舌鼓を打つ。
 この地に似合わない明るい声が、周りの岩に反射して、微かにこだましていた。

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