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30話 アイネット②
しおりを挟む「……診療所って……今、どうなってるんだろ?」
自分がイレギュラーな存在になった自覚はある。
私が物語通りに悪事を働いていないから悪いことは起きない、って勝手に思い込んでいたけど、実際はどうなんだろう? しかも、旦那様に捕まるはずだった悪党が、私が悪事を働かない所為で逆に捕まらずにのばらしになるのは良くないよね!
「様子を見に行ってみようかな」
何もなければそれで良し! 今度、旦那様には、悪党の名前と罪の詳細を書いた紙を渡しておこう! そしたら旦那様は優秀だから、何とかしてくれるよね! 『何でこんなことが分かるんだ?』と問われたら何も答えられないけど、笑顔で誤魔化そうっと!
◇
――――とまぁここまでが、私がアイネットと出会う前のお話。
小説のアイネットは、ファルファナが悪事を働いている証拠を集めようと診療所にいた。だけど今の私は悪事を働いてないし、いない可能性も十分にあると思っていたから、アイネットが診療所にいるかは、正直、分からなかった。半分半分の可能性だったから、別にアイネットが診療所にいても驚きはしなかったけど、いきなりのヒロインの暴言には驚いたかな。
「何で小説通りにしないの? 悪妻の所為で、スエイル様との運命的な出会いを逃しちゃったじゃない! どうせ死ぬ運命の悪妻のくせに……酷い!」
診療所に入る扉の前。
診療所に入ろうとする私の姿を発見したアイネットは、泣きながら私を呼び止め、高ぶった感情のまま言いたいことをぶちまけた。
「最低よ、引き立て役の悪妻のクセに……! この世界ではヒロインの私が幸せになるべきなのに……邪魔しないでよ!」
ポロポロと涙を流しながら私を責めるアイネット。
あらら、初対面なのに酷い言い草だなぁ。しかも言ってる内容からして、同じ転生者かな? 出来ればヒロインとは仲良くなりたかったのに、この調子じゃ仲良くなるのは無理そう。
「お願い……早く死んでよ……! どうせ誰にも愛されない、悪妻なんだから!」
――アイネットも、私の敵だね。
私は私を信じてる。自分の直感を。私は自分が敵だと思った相手には、容赦してあげないよ?
「ねぇ悪妻のファルファナ、聞いてるの?」
「聞いてるよ。初対面なのに刺激的な台詞が多くて色々驚いちゃった! それに、前世では貴族制度が無かったとはいえ、今の私達は貴族で、私は公爵夫人、アイネットは男爵令嬢なんだから、少しは礼儀を弁えた方がいいと思うよ!」
「……前世って……まさか、ファルファナも転生者なの!?」
「そうだよ」
と言うか、よく私が転生者かどうかも分からない状態なのに、言いたいことぶちまけたね! 普通の人だったら、意味が分からない小説の話が出て来て困惑しちゃったと思うよ!
「悪妻に転生とか、可哀想……! ヒロインの引き立て役として惨めに死ぬしかないなんて……どうやっても幸せになれないね」
「私、不幸になるつもりはないよ?」
「ヒロインが幸せになるなら、断罪されても幸せってこと? 凄ーい! 小説の悪妻の鏡だね! 私の幸せのために犠牲にさせて……ごめんね?」
話が通じないし、ちっとも悪いと思っていない顔で言われても、説得力がないなぁ。外見はヒロインにふさわしい可愛い顔をしてるのに、その口から出て来る言葉は、私にとって辛辣で、不幸を望むもの。
「これからちゃんと悪妻として振る舞ってくれるなら、私は優しいし、同じ転生者のよしみとしてパーティーでのことは許してあげるから、安心してね」
別に許して欲しくもないし、優しいとも思えない。
「ファルファナが断罪されるまでは、私が友達になってあげるよ」
なりたくない。
「ああ、でも! ヒロインが悪妻と仲が良いって目撃されたら変だから、表面上は、私をちゃんと虐めて悪妻の役目を果たしてね! あ、でも本当に危険なことはしないでよ! 私が怪我しちゃったら大変でしょ?」
んー、自分の都合の良いように話を進められてるけど、困るなぁ。私は、アイネットの思い通りに生きるつもりは、これっぽっちもない。勝手に一人で盛り上がってお喋りを続けるアイネットに、笑顔で、今までの会話の内容を根本的に否定した。
「私はアイネットを幸せにしないよ」
「え?」
機嫌良くお喋りをしていたアイネットは、私の言葉に、驚いたように目を丸くさせた。
「幸せにしない? 何で? ヒロインを幸せにするのは、悪妻の役目でしょう?」
「私はファルファナを幸せにするの。だから幸せは他力本願じゃなくて、自分の力でどうぞ!」
「は……はぁ!? 私を幸せに導くのが、悪妻の役目でしょ!? 私はヒロインなんだから応援してよ! 助けてよ! 私達、同じ転生者じゃない? 仲良くして助け合うものでしょ!?」
「『ファルファナがどれだけ不幸になろうとも、アイネットの幸せのために犠牲になれ』なんていう人と仲良くは出来ないよ。絶対に応援しないし、助けてあげない」
ファルファナを不幸にして、アイネットを幸せには、私がさせない。
「何それ……酷い! 折角、この私が友達になってあげるとまで言ったのに、失礼でしょ! 私と友達になれなくてもいいワケ!?」
「友達になって欲しいと頼んだ覚えはないので、お気になさらず!」
「最低……! あり得ない! あんたみたいな女、悪妻に転生して当然よ! 早くスエイル様に断罪されて、処刑されちゃえばいい!」
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