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しおりを挟む少年はリーシャの事を知らないようで、完全に警戒していた。
「失礼しました。私はリーシャ=ルド=マルリレーナと申します。先日、こちらに越してまいりました。以後、お見知り置きを」
丁寧に頭を下げ、自己紹介する。
「引っ越して来たの…?あ、えっと、僕はサクヤ。よろしく…お願い、します」
遅れながら、サクヤも頭を下げ、自己紹介をした。
「サクヤ。覚えました。是非、仲良くして下さいね」
「……僕と仲良くなんて、しない方が良いよ」
サクヤは、目を伏せながら、悲しそうにそう答えた。
狭い辺境のこの村では、噂が回るのは早く、リーシャの存在は知れ渡っていて、今回の様に、誰?!と驚かれるのは、初めての事。
サクヤは、誰もが知っていたリーシャの存在を、聞かされていないようだった。
「?何故ですか?はっ!わ、私、そんなに不審者に見えますか?私とは仲良く出来ないという、遠回しのお断りでしょうか…?」
「え?ち、違うよ!そうじゃなくて、お姉ちゃんは、全く関係無くて……」
異臭の放つ鍋を片手に、勝手に敷地内に入って来れば、不審者だと思われても仕方無いが、サクヤは慌てて否定してくれた。
「では、何故ですか?仲良くしてはいけませんか?同じ村の仲間として、是非、お近付きになりたいです」
嘘偽り無く、本当にそう思う。
まだ出会ったばかりだが、可愛くて良い子そうだな。と、直感で感じる。
「ぼ、僕……に、近付いたら、怪我、させちゃうから……」
サクヤはそう言うと、先程まで1人でしていたように、手を伸ばすと、えい!と声を出した。
「ーーー」
暫く待つも、手には何の変化も無いーーー
ーーーが、サクヤの足元から、チリチリと、炎が現れると、バッ!!と、勢い良く炎上した。
「サクヤ!!ーー熱っっ!」
サクヤを救出しようと、瞬間的に、炎に向かって手を伸ばすと、炎が手を襲った。
「お姉ちゃん?!ごめん!怪我させた?!」
直ぐに、サクヤは炎の中から出て来て、火傷したリーシャの手に触れた。
炎は、サクヤが炎から離れると、直ぐに鎮火する。
「ごめんなさいっ!まさか、僕を助けようと、手を伸ばすなんて思わなくて……!」
出会ったばかりの自分を助けようとして、燃え盛る炎の中に手を伸ばすと思わなかったサクヤは、泣きそうな目で、火傷したリーシャの手を見つめた。
「この位、大丈夫ですよ?」
「でもっっ」
少し赤くなっているが、後で多少水脹れが出来る程度。
それよりも、サクヤが無事だった事に、リーシャは安堵していた。
サクヤは、何も無かった場所に、炎を具現化させた。
聖女として、世界を救う為に旅をしていた事のあるリーシャは、その力を知っていた。
「サクヤは、魔法使いなんですね」
魔力を持ち、魔法を扱えるのは、素質のある選ばれた者しかなれない。
リーシャがいた王都でも、その数は少なく、重宝されていた。
しかもこの歳で、炎の魔法を具現化したのだから、とても強い魔力の持ち主なのが伺える。
「凄いですね」
と、リーシャは素直に賛辞の言葉を述べた。
だが、当の本人であるサクヤは、とても悲しそうな表情を浮かべたまま。
「ちっとも凄く無いよ……僕、魔法を上手くコントロール出来なくて……皆を、怪我させちゃうんだ」
魔法を習得するのは、とても難しい。
魔力を持っている事は必須だが、それを飼い慣らすには、実は魔力が強ければ強い程、難しいとされる。
特に、ここ辺境の村ヘーゼルでは、彼の様な魔法使いを師事する教師がいない。
多分、魔法使い自体が、サクヤしかいないだろう。
「では、一緒に特訓しましょう!」
悲しい表情を浮かべたままのサクヤに、リーシャは、名案を思い付いた!とばかりに、明るく声をかけた。
「…え?え?と、特訓?お姉ちゃんも、魔法使いなの?!」
「いいえ。違います」
聖女なので、魔法使いとは異なる。
リーシャは即否定し、サクヤはガックリと肩を落とした。
「え、ええー。じゃあ特訓って、何のーー」
「サクヤは魔法の練習。私は、美味しい野菜のスープを作れるように、特訓します」
ずっと手に持っていた鍋を、リーシャはサクヤに向けた。
「それ、ずっと気になってたけど、何…?何か、凄い焦げ臭い匂いがしてるんだけど……」
恐る恐る、サクヤは鍋の中身を覗いた。
真っ暗になってしまった、黒い塊に、ほんの少しの水。
「何これ?」
「野菜スープです」
「野菜スープ?!」
少し水分が残る程度まで限界ギリギリに焦がした、野菜スープと言い張る、黒焦げの物体。
「どこまで煮込めば良いのか分からず、少し、やり過ぎてしまいまして…」
「す、少しかな?」
最早野菜の原型すら留めていない。
「良かったら味見してくれませんか?」
「え?!僕が?!」
「はい」
唐突に物騒な事を言い出すリーシャだが、怪我をさせてしまった手前、サクヤは無下には出来ない。
(………お腹、痛くならないかな)
意を決して、サクヤは野菜スープ(黒焦げ)を口に入れた。
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