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しおりを挟む村娘生活20日目ーーー。
リーシャの1日は、カーテンを開け、朝日を浴びる所から始まる。
「良い天気ですね」
お城では、自分で起きる事も、カーテンを開ける事も、した事が無かった。
そのまま、顔を洗い、歯を磨き、朝食の準備に取り掛かる。
朝食の準備と言っても、リーシャは料理を産まれてこの方した事が無く、お世辞にも、才能があるとは言えない。
「ふふ。パンを買ってきました」
一生懸命貯めたお金で、リーシャは遂に食パンを購入した。
パンは万能だ。
トースターで焼かなくても、そのまま、ちぎれば食べる事が出来る。
何もつけずに、そのまま生で頂く。
「んーー!とっても美味しいです!パンを作れる人は天才ですね!」
リーシャは満足気に、パンを頬張った。
そこから、不慣れな洗濯を行い、簡易な掃除をして、ここからは、その日によって、やる事が変わる。
ゲン達と山菜採りに出掛ける日もあれば、肉屋のマルシェのお手伝いに行ったり、畑の世話をしてみたり、大掃除をしてみたり、買い物に行ってみたりーーー
自分で予定を立て、自分のする事を決める。
これも、リーシャにとっては初めての事。
「さて、今日はーー」
リーシャは、自分の家のキッチンの前に立つと、並べられた山菜や調味料を見渡した。
「頑張って、野菜たっぷりスープを作ってみます!」
壊滅的に下手で、今の所、包丁も満足に使えない状況を打破しようと、料理に取り組む事に決めた。
「ーーよし」
包丁を持つ手を、野菜に向けると、リーシャは、そのまま、反対の手で野菜を抑える事もせず、振り下ろした。
「あれ?中々切れませんね」
料理をする際、手を切るなよ!と、イマルに忠告されていたので、それを忠実に守ろうとした結果、添える事自体を止めた。
ザクザクと、めちゃくちゃに乱雑に、切れたり、切れなかったりと、ボロボロになる野菜達。
「ーーー出来ました」
嘘やんなぁ?!
と、イマルがいればツッコミをいれてくれるが、今は誰もいないので、そのまま進む。
鍋に全ての野菜をぶち込み、水をタプタプに入れ、火にかける。
「よし!後は煮込めば完成ですね!」
味付けはどうすんの?!せーへんの?!
と、イマルがいればツッコミを入れてくれるが、いないので、このまま進む。
・・・・・・・・・
じっと鍋の前で待つこと数分後ーーー
「……これって何時完成するのでしょうか……?」
どこまで煮込む事が正解なのか分からず、リーシャは首を傾げた。
「……これは……何でしょう」
リーシャは、自分で作ったはずの野菜スープを前に、疑問を口にした。
たっぷり入れた水がほんの少し残る程になるまで煮込んだ、ドロドロの黒焦げ野菜スープ?が完成。
「ーー誰かに食べて貰って、感想を聞きましょう」
自分一人では、何が間違っているのかすら理解出来ない事に気付いたリーシャは、恐ろしい提案を述べた事には気付かず、鍋を持って家を出た。
「誰に食べて貰いましょうか…」
家の場所を知っているのは肉屋のマルシェと酒場のカリンとジェラードの所だが、マルシェは今日は定休日にすると言っていたし、酒場はまだ空いていない。
イマルの家は知らないし、彼は戦えるので、狩りにも山菜採りにも一人でふらっと行けてしまうので、そもそも、所在が不明。
村娘になって20日。
顔見知りが増えて来たとは言え、まだ挨拶を交わしていない人も多い。
「……挨拶のついでに召し上がって頂く事は……おかしいでしょうか?」
狭い村で、余所者のリーシャの存在は知れ渡っているとは言え、そんな得体の知れない物を初対面で食べさせようとする奴がいたら、完全に不審者扱いされる事に、リーシャは気付かなかった。
答えの出ないまま、行き当たりばったりで家を出たリーシャは、鍋を持ったまま、ウロウロと途方に暮れた。
「……えい、やぁ!」
「?」
ウロウロし過ぎて、普段通らない道に迷い込んだ所で、何やら声が聞こえ、リーシャは立ち止まった。
「子供の声…」
声のする方に足を進めると、誰かの家の庭先で、8歳位の男の子が、何やら一生懸命、木に向かって手を翳し、声を発していた。
「ーーー何しているんですか?」
「わぁ!?!」
急に背後から声をかけられ、驚きのあまり尻餅を着く少年。
「ご、ごめんなさい。声が聞こえて、つい、入って来てしまいました」
リーシャは慌てて、少年に向かい手を差し伸べた。
「……!だ、大丈夫。自分で立てるから…」
差し伸ばされた手に、少し驚いた表情を浮かべた後、少年は手を借りずに、自力で立ち上がった。
黒い短髪に、黄色い瞳。
黒いフード付きのローブを着た、幼い少年は、リーシャを見て、どこか戸惑っているように見えた。
「あの……お姉ちゃん、誰?この村の人じゃないよね?」
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