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1話 プロローグ
しおりを挟む今日は、私の二度目の結婚式の日――――
「――夫として愛し敬い、慈しむことを誓いますか?」
「はい、誓います」
神父様からの誓いの言葉に、私の夫になる人が笑顔で頷く。
真っ白な教会で挙げられる結婚式。
参列者には、今まで私を育ててくれた両親と頼りになる兄が、通路を挟んで反対側には、私の結婚相手の親族がいて、皆が、私達の結婚を祝福し、愛の誓いを笑顔で聞き入っていた。
「では《イリア》。貴女は妻として、夫である《エルビス》を愛し敬い、慈しむことを誓いますか?」
「……はい、誓います」
ベールが外され、その手で私の頬に触れるエルビス様と口付けを交わすと、招待客からは大きな拍手が響き渡った。
この瞬間、花嫁である私は、世界で一番幸せに見えるんだろう。実際、一度目の人生の私は、この世界で誰よりも幸せな花嫁だと信じて疑っていなかった。
今すぐに唇を拭いたい気持ちを必死で我慢して、心を殺して、最後まで笑顔を張り付けて結婚式を進行する。
(誓います)
でも私が神に誓ったのは、エルビス様との永遠の愛じゃない。
◇
「やっと俺達夫婦になれたね」
「……そうですね」
結婚初夜、夫婦の部屋でやるべきことは決まっている。特に貴族は、跡継ぎを産むことが重要視されるのだから、当然の流れだった。
「一生イリアを幸せにするよ」
(嘘つき)
「……はい、エルビス様」
手を引かれ、ベッドに優しく押し倒される。
一度目の人生、エルビス様はとても優しく、時には愛を囁きながら私を抱いた。それは私が思い描いた理想の夫婦の形で、幸せな気持ちで胸が一杯だった。疑ってもなかった。愛の言葉も行為も、全てが本物だと思っていた。幸せになれると心から思っていた。
「イリア、愛してるよ」
「……はい、私も……愛しています」
全部、偽りだったけど。
「――ぐぅ」
ネグリジェに手が伸ばされたところで、重たい体重が体にのしかかり、耳元で寝息が聞こえた。
「っ、さっさとどいてよね」
少し乱暴にエルビス様の体を払い除けると、乱れたネグリジェを簡単に整えた。
「流石は天才薬師様の薬。効果は抜群ですね」
ベッドから降り、小さなサイドテーブルに置いてあるワインとワイングラスに目を向ける。エルビス様は行為の前に必ずお酒を嗜むから、薬を仕込ませるのは簡単だった。
「私を抱くのが嫌で毎回お酒を飲んでいたのか知らないけど、馬鹿みたいに夢でも見てなさい」
顔を真っ赤にさせ、寝息を立ててベッドに横たわっているエルビス様を、殺意を持って睨み付けた。
「絶対に許さない」
私は貴方達に復讐するために結婚したの。
私の人生を犠牲にしても、絶対に貴方達を許さない。
(神様、私を裏切り、子供を奪い、毒を盛って殺した人達を全員、地獄に落とすと誓います)
私を裏切った夫も、夫の浮気相手も、お義母様とお義父様も、皆まとめて地獄に落としてやる。
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