死に戻り令嬢は愛ではなく復讐を誓う

光子

文字の大きさ
17 / 37

17話 処罰

しおりを挟む


 少し不安だったアイラも、結婚式で会った相手がケント様だと気付いていないようだし、良かった。まぁ例えケント様だとバレていても、何であんな場所にいた、とか、色々ツッコミどころはあるけど、誰かと逢瀬を交わしていただけで大きな問題はない。 

「あ、ああ! では最近流行りの絵画を買ったので、そちらを――」
「いえ、結構で……」

 玄関先でみっともなく足掻くエルビス様の相手を続けていたケント様と目が合うと、ケント様の目が驚いたように見開いた。
 何? どうしたの?
 エルビス様の体を押し退け私の前まで来たケント様の、少し冷たい指先が頬に触れる。

「――殴られたのか?」

 ああ、頬の怪我のことか。
 嘘をつく必要もないので素直に頷いたら、ケント様の表情は一瞬で怒りに染まった。

「グラスウール伯爵、これはどういうことですか?」

「え!? いや、あの……」

 予想もしないところで怒りを買い、戸惑っているのが分かる。エルビス様だけじゃない、お義母様もお義父様も、アイラも。まぁ、私とケント様が顔見知りだなんて、思いもしなかったでしょうからね。

「グラスウール伯爵は妻を殴るんですか?」

「いや! その、妻の聞き分けが悪くてですね、つい」

「つい? ついでイリアを傷付けたんですね」

「違っ」

「ふざけるなよ」

 ……ケント様が、こんなに怒るなんて。
 普段の優しいケント様との違いに、驚きで心臓が大きく揺れた。

「も、申し訳ありません!」

「謝罪するべきは僕じゃないでしょう?」

「っ! す、すまなかった……イリア」

「貴方は謝罪の仕方一つ知らないんですか?」

「も……申し訳、ありませんでした」

 あのエルビス様が、私に向かい、頭を下げて謝罪の言葉を口にする。この光景に、お義父様もお義母様もアイラも、呆然としていた。

「早く頬を冷やした方がいい」

 分かっていて、こっちを優先したんですけどね。
 ケント様の言葉に、グラスウール伯爵家の執事がいち早く反応し、冷えたタオルを持って来た。
 自分で持って冷やせるのに、ケント様は私の代わりにタオルを頬に当てて……私を甘やかし過ぎではないでしょうか。

「ギルバレド公爵様は……まさか、イリアと顔見知りなんですか?」

 貧乏男爵令嬢であることは知られているし、滅多に社交界に出ない私とケント様が顔見知りだなんて、普通は思わないよね。自分で言うのもなんだけど、どう見ても親密そうな仲だし、どんな関係か気になるんだろう。

「ええ、カスターニア男爵とは最近良いお付き合いをさせて頂いているので、その過程でイリアと出会いました」

「ギルバレド公爵様がカスターニア男爵と!? どうしてあんなうだつの上がらない貧乏男爵なんかと付き合いを!?」

「カスターニア男爵を悪く言わないで頂きましょうか。が彼を悪く言うのは不愉快です」

「そんなっ、それはあんまりです! 俺がカスターニア男爵より劣るみたいな言い方をするなど!」

「事実でしょう。カスターニア男爵はアルサファリア王国の危機に対して、領土にあった貴重な薬草を無償で提供した人格者です。今度、国王陛下からも直々にお褒めの言葉を頂けることでしょう」

「陛下から……だと!? あのカスターニア男爵が!?」

 そんな重大なことになっているんですね……! 
 ケント様がエルビス様よりもお父様を評価し、私の代わりに怒ってくれたから、少し気も晴れた。当の本人は納得していない顔をしているけど、お父様は素晴らしいの、貴方なんかよりもずっとね。

「それで? グラスウール伯爵はいつ本当のことをお話するつもりですか?」

「本当のこと、とは?」

「まだシラを切れるとでも? グラスウール伯爵家にヤツリグサ草の被害なんて無いんでしょう?」

 私がケント様にチクったとでも言いたげに、一斉に家族総出+アイラで私を睨みつけるのは止めて下さる? いや、実際チクったのは私だけど、それは一度目の人生での貴方達のお話です。二度目の人生の貴方達の動きをチクった覚えはありませんよ。

「イリアとはここ一ヶ月会っていませんでしたし、彼女からは何も聞いていません」

 お飾りの伯爵夫人の私では結局、何も調べれませんでしたしね。これらは全て、私の話を元にケント様がお調べになったことで、調べがついたらお知らせしようとは思ってましたけど、結果、今の私は無実です。

「被害にあったと嘘をつき、王室から救済金を着服し、高額な価格で農作物を売りつけ、民の救済を怠ったこと、許されることではありません」

 ん? 救済金の着服は初耳です! エルビス様、そんなことまでしてたのね。

「いや、それは……」

 必死に言い訳を考えているエルビス様に、後ろで青ざめているお義母様にお義父様。アイラは隠れるように、エルビス様の背中に潜んだ。

「私利私欲のために行った悪行の罰はしっかりと受けて頂きますので、そのおつもりで」

「っ、申し訳……ありませんでした!」

 事実を突き付けられ、言い逃れが出来ないと判断したエルビス様は、膝をついてさっきよりも深く頭を下げた。

  国の一大事を利用して金儲けを企んだグラスウール伯爵家。これでグラスウール伯爵家は王家からも貴族からも、平民からの信頼も損なうことでしょう。今後冷めた目で見られるのは明白。いい気味、後ろ指を指されて生きていけばいいわ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【12話完結】私はイジメられた側ですが。国のため、貴方のために王妃修行に努めていたら、婚約破棄を告げられ、友人に裏切られました。

西東友一
恋愛
国のため、貴方のため。 私は厳しい王妃修行に努めてまいりました。 それなのに第一王子である貴方が開いた舞踏会で、「この俺、次期国王である第一王子エドワード・ヴィクトールは伯爵令嬢のメリー・アナラシアと婚約破棄する」 と宣言されるなんて・・・

ねえ、テレジア。君も愛人を囲って構わない。

夏目
恋愛
愛している王子が愛人を連れてきた。私も愛人をつくっていいと言われた。私は、あなたが好きなのに。 (小説家になろう様にも投稿しています)

【完結】今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~

コトミ
恋愛
 結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。  そしてその飛び出した先で出会った人とは? (できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)

誤解されて1年間妻と会うことを禁止された。

しゃーりん
恋愛
3か月前、ようやく愛する人アイリーンと結婚できたジョルジュ。 幸せ真っただ中だったが、ある理由により友人に唆されて高級娼館に行くことになる。 その現場を妻アイリーンに見られていることを知らずに。 実家に帰ったまま戻ってこない妻を迎えに行くと、会わせてもらえない。 やがて、娼館に行ったことがアイリーンにバレていることを知った。 妻の家族には娼館に行った経緯と理由を纏めてこいと言われ、それを見てアイリーンがどう判断するかは1年後に決まると言われた。つまり1年間会えないということ。 絶望しながらも思い出しながら経緯を書き記すと疑問点が浮かぶ。 なんでこんなことになったのかと原因を調べていくうちに自分たち夫婦に対する嫌がらせと離婚させることが目的だったとわかるお話です。

心の傷は癒えるもの?ええ。簡単に。

しゃーりん
恋愛
侯爵令嬢セラヴィは婚約者のトレッドから婚約を解消してほしいと言われた。 理由は他の女性を好きになってしまったから。 10年も婚約してきたのに、セラヴィよりもその女性を選ぶという。 意志の固いトレッドを見て、婚約解消を認めた。 ちょうど長期休暇に入ったことで学園でトレッドと顔を合わせずに済み、休暇明けまでに失恋の傷を癒しておくべきだと考えた友人ミンディーナが領地に誘ってくれた。 セラヴィと同じく婚約を解消した経験があるミンディーナの兄ライガーに話を聞いてもらっているうちに段々と心の傷は癒えていったというお話です。

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑

岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。 もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。 本編終了しました。

何もできない王妃と言うのなら、出て行くことにします

天宮有
恋愛
国王ドスラは、王妃の私エルノアの魔法により国が守られていると信じていなかった。 側妃の発言を聞き「何もできない王妃」と言い出すようになり、私は城の人達から蔑まれてしまう。 それなら国から出て行くことにして――その後ドスラは、後悔するようになっていた。

後悔などありません。あなたのことは愛していないので。

あかぎ
恋愛
「お前とは婚約破棄する」 婚約者の突然の宣言に、レイラは言葉を失った。 理由は見知らぬ女ジェシカへのいじめ。 証拠と称される手紙も差し出されたが、筆跡は明らかに自分のものではない。 初対面の相手に嫉妬して傷つけただなど、理不尽にもほどがある。 だが、トールは疑いを信じ込み、ジェシカと共にレイラを糾弾する。 静かに溜息をついたレイラは、彼の目を見据えて言った。 「私、あなたのことなんて全然好きじゃないの」

処理中です...