死に戻り令嬢は愛ではなく復讐を誓う

光子

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27話 大切にしてね

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「エルビス様、カスターニア子爵家は一切、グラスウール伯爵家に援助はしません」

「何だと!?」

 そりゃあそうでしょ、そんな不遜な態度で援助が受けれるはずがない。
 言っておくけど、グレイブ兄様、言葉や態度には出してないけど、妹の私に対する数々の暴言に、隣にいるこっちが怖いくらい、滅茶苦茶怒ってるからね?

「イリアがどうなってもいいのか!? グラスウール伯爵家に何かあれば、困るのはイリアなんだぞ!」

 ここで私を持ち出すなんて、本当に最低。
 どうせ援助を受けたとしても、私に使う気は無いくせに。財政が圧迫して一番最初にエルビス達がしたことは、私に使うお金を減らしたことだ。今までも必要以上にお金を使ってもらったことはなかったけど、食事も服も侍女も付かなくなって、私だけが質素になった。

「イリアも道連れにしてやるからな!」

 どうぞ、好きに道連れにすればいい。
 貴方達を地獄に落とせるなら、一緒に地獄に落ちる覚悟はとっくにしてる。私はね、それくらい貴方達のことが嫌いで、殺したいくらい、憎んでいるの。

 グレイブ兄様はこのまま一切の手助けを断ると思っていた。だけど予想と反して、グレイブ兄様は違う言葉を口にした。

「援助はしませんが、融資はしましょう」

「! 融……資?」

 聞こえてきた言葉に、私が耳を疑う。融資って、お金を貸すってこと? グラスウール伯爵家に? どうしてそんな無駄なことを……!

「エルビス様にとっては充分有り難い申し出でしょう。今はどこからも融資を断られているようですし」

「それは……」

 まさにその通り、今のグラスウール伯爵家に救いの手を差し伸べてくれる人はいない。
 駆けずり回ってそのことを実感しているエルビスは、改めて言葉に出され、グッと拳を握り締め痛感しているようだった。

「但し、ことが条件です。イリアがエルビス様の元からいなくなった瞬間、融資を打ち切ります」

「っ」

 グレイブ兄様の言葉に、息を飲む。
 私と結婚している間……と言うことは、融資を受け続けるためには、私と離婚出来なくなったということ? 私を……殺せなくなったと、いうこと?
 この自分に都合の良い展開に、思わず、前に座るケント様を見た。

「当然ですが、イリアがエルビス様との離婚を望むなら、カスターニア子爵家は全力でイリアを取り戻します」

「それにはガルドルシア公爵家も協力を惜しみません、どうやら、グラスウール伯爵には離婚に応じざる得ない用件が幾つもあるようですし」

「な、何のことでしょうか」

 グレイブ兄様とケント様の両名に畳みかけられ、心当たりの多すぎるエルビスは、しどろもどろになりながら視線を逸らした。

「最後に一つ失礼します――いいか!? イリアにさっきのような横暴な態度を続けてみろっ! 愛想を尽かして離婚されたら困るのは、お前の方だからな! っと……失礼しました」

 内に秘めていた怒りを表したグレイブ兄様は、すぐに大きく息を吸い、吐き、深呼吸を繰り返して心を落ち着かせていた。

「そんな、こんなこと、あり得ない……!」

 全ての意味を理解し、真っ青に染まるエルビスの表情。
 今まで簡単に排除出来ると思っていた私が、簡単に排除出来ない存在になった。それどころか、離婚を避けるために、今までのようなぞんざいな扱いも出来なくなったのだ。

「イ、イリアは俺が好きなんだから、離婚なんて考えていないよな?」

 久しぶりに見たわ、その余所行きの笑顔。離婚? 毎日考えてるに決まってるでしょ! 復讐のことがなければ、秒で離婚してるわ。

「…………さぁ、どうでしょう?」

 含みを持たせた笑顔でそう告げると、エルビスの表情は血の気が引いたように、もっと真っ青になった。
 私はただ、グレイブ兄様に冷たく追い払われ、グラスウール伯爵家が衰退の道を辿るしかないと絶望するエルビス様を見たかっただけなんだけど、これはこれで面白い。今の私は、グラスウール伯爵家の誰よりも優位な立場になった。

「これからは私を大切にしてね、エルビス」

 今まで私がされてきたように、物みたいに乱暴に頬を掴み、笑顔で呪いの言葉を吐く。愛していない私を、精一杯大切にして下さい。貴方が愛しているアイラよりも、ね。

「あ……ああ、勿論だよ……」

 初めて見たエルビス様の引き攣った笑顔に、胸の奥がゾクゾクして、強い快感を覚えた。

 ――結局、エルビスは融資の話を受けるしかないと判断し、グレイブ兄様の提案を受けた。
 『諸々の書類を用意するからまた明日来るように』と、申しつけたのは、エルビスをカスターニア子爵邸に泊める気がないからだろう。グレイブ兄様は私を残し、エルビスを家から追い出した。
 悔しそうに歯を食いしばっていたけど、今のエルビスはグレイブ兄様に従うしかないので、大人しく指示に従った。ここカスターニア領でうちよりも良い宿屋は無いし、エルビスは人生で初めて汚れの染み付いた布団で眠ることになるだろう。

「ケント様、このような家のごたごたに巻き込んでしまい、大変申し訳ありません!」

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