妹の身代わりの花嫁は公爵様に溺愛される。

光子

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25話 ノヴァ様

 

 練習通りにちゃんとお辞儀出来たし、お祝いの言葉も入れて、きちんと挨拶出来た――と、思うのに、何故かノヴァ様からは返答が無く、沈黙が続いた。

「…………」

 あれ? 私、何か間違えた? まさかの人違い!? そんなはずはないんだけど……!

 そう思って不安になっていると、フッと、小さな笑い声が聞こえた。

「ご丁寧にありがとうございます。わざわざ私のことをお調べになったんですか?」

「え……と、一応、今日ここに参加している方の顔とお名前と近況情報は覚えてきました」

 スムーズに挨拶出来るよう、アクトの婚約者として少しでも好意的に受け止めてもらえるようにと、それはそれはもう必死に頭に叩き込んだ。

「素晴らしい、礼儀作法も完璧でした。社交嫌いの引きこもり令嬢だと聞いていたのでどんなものやらと思っていましたが、予想外で驚きました」
「あははは」

 私を社交界に出させなかったのはお父様達のくせに、社交嫌いの引きこもり令嬢っていう余計な印象がついてるんですけど!? あーもー! 鬱陶しいことばかりしてくれますね、あの家族は!

「ノヴァ、俺の婚約者に無礼なことをしたら、どうなるか分かっているな?」
「分かっていますよ、一々脅さないで下さい」

 気軽に会話を交わす二人を見て、冗談を言い合うくらい仲が良いんだな、と、素直に思った。

「セルフィ嬢なら問題なく社交界に馴染めると思います、頑張って下さいね」

「ありがとうございます」

 一礼し、その場を去るノヴァ様。

 ノヴァ様と会うのは初めてだけど、私は、ノヴァ様のことを名簿を調べる前から知っていた。
 ノヴァ=レパスト。レパスト伯爵の長男であり、次期当主。そして――リシャルの婚約者であるゼロの、お兄様だ。

「これはこれはインテレクト公爵様と婚約者様、お会い出来て光栄です。《ルイカートン=ジェームズ》と申します、ご挨拶をさせて下さい」
「とても美しいですローズリカ子爵令嬢、そのドレスはインテレクト公爵様からのプレゼントですか?」

 ノヴァ様との挨拶を皮切りに、遠巻きに見ていた貴族達も、インテレクト公爵にお近付きになりたいと、ここぞとばかりに挨拶に詰め寄った。

「初めまして、セルフィ=ローズリカと申します。こちらこそ、会い出来て光栄ですジェームズ侯爵様、侯爵夫人様」

 そのまま、インテレクト公爵様の婚約者として、貴族の皆様と挨拶を交わした。


 ***

「ねぇねぇ、どうやってインテレクト公爵様とお知りに会いになったんですか!?」
「冷酷非情な血の公爵様と聞いていたのに、印象が全く違って驚いたのですが、どういうことなんですか!? セルフィ様は知っていたんですか!?」
「敵対する相手には非情だと聞いていましたけど、まさかあんなに格好良い方だなんて、セルフィ様が羨ましいです」

「…………私とアクトは、家同士が決めた婚約者なんです。冷酷非情な血の公爵の噂は私も聞いていましたが、実際お会いしたらそんなことはなくて、とても優しくて頼りになって、寄り添って私の力になってくれるような、とても素敵な方でした」

「まぁ、素敵!」
「良いお話ですわぁ」

 挨拶を一通り終え、今はアクトと離れ、歳の近い貴族令嬢の皆様と談笑中。
 私とアクトの馴れ初めが気になるようで、食い入るように話を聞かれるが、意外と、好意的に受け止められている。

「私にも父が決めた婚約者がいるのですけど、セルフィ様とインテレクト公爵様のように、素敵な関係になりたいですわ」

「きっとなれますよ、《ニーナ》様の婚約者様は誠実で、とてもお優しい方だと聞いております」

「セルフィ様……ありがとうございます! 是非、結婚式にお越し下さいませんか? 招待状をお送りしますわ!」
「まぁ、私もお茶会の招待状を出しますので、是非お越し下さい」
「私の所にも遊びに来て下さいませ、セルフィ様」

 インテレクト公爵夫人になる私と仲良くなるためなのか、グイグイ距離を詰めて来られて戸惑う気持ちもあるが、一先ず、アクトの婚約者として認めてもらえたようで安心する。
 そのまま令嬢達と会話を楽しんでいると、割り込むように間に入ってくる人影が見えた。

 パーティに来ているのは知っていたけど、ここでも、ちょっかいを出してくるのね。

「ねぇねぇ、私も会話に入れてよ」

 おっ察しの通り、会話に割って入ってきたのは、異母姉妹のリシャルだ。
 『絶対に嫌』と言いたいところだが、他の令嬢達の手前、断りづらいと思って様子を伺っていたら、先程まで笑顔で会話をしていた令嬢達からは、一人残らず笑顔が消えていた。

「お断りしますわリシャル様、貴女、以前のパーティで、『令嬢同士で集まってくだらない話をするのって楽しい?』と小馬鹿にしたじゃありませんか」

「嘘ですよね?」

「本当ですわ、セルフィ様」

 信じられなくて思わず声に出たのを、ニーナ様が肯定した。そんな失礼なことを言ったの!?

「だって、貴族令嬢って人の悪口とか人を貶めることしか話さないでしょ? 前も、私の可愛さを妬んで、皆で寄って集って私に悪口を言ってきたじゃない」

「何を言っているんですか! 喧嘩を売ってきたのはそちらでしょう!? 政略結婚の話をしたら、『えー、愛のない結婚をしなきゃいけないなんて、可哀想』なんて言って、馬鹿にしたじゃありませんか! 私達は、それを嗜めただけです!」

「だって事実じゃない。私は可哀想だと思ったから、同情してあげただけよ」

 貴族の中で政略結婚はよくあることなんだけど、まさか私だけじゃなくて他の令嬢達にもそんなこと言っていたなんて……

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