聖女は妹ではありません。本物の聖女は、私の方です

光子

文字の大きさ
3 / 60

2話 幸運の出会い

しおりを挟む
 

 コトコリス男爵邸を出た後、少ない荷物を手に、私は長年住み続けたコトコリス領を出た。コトコリス男爵に出て行けと言われた以上、コトコリス領に留まることは出来ない。

「これからどうしようかな」

 勢いで家から出て来たものの、行くあては無い。

 私には頼れる親族も、仲の良い友人もいない。
 もとより、コトコリス領での私の扱いは、妹の影響もあってか、酷いものだった。いつも私と妹を比較して、優秀な妹と比べて出来損ないの姉だと陰口を叩き、私を空気のように扱った。親族は全て無条件に聖女であるエミルの味方だし、幼い頃の数少ない友人もエミルに奪われてきたから、誰にも頼れず、行く場所も無い。

「お金は少しだけどあるから、これでどこかで家を借りて、働く場所も見付けて……」

 貴族令嬢として生きてはきたが、両親に冷遇されていた私は、家の使用人達にも舐めた態度を取られていた。誰も私の世話に来ないことは当たり前で、洗濯、食事、掃除など、一通りの家事は自分で出来るようになった。
 働く場所も、学校には妹が『私は聖女の役割があって学校に通わないから、ユウナお姉様も通う必要無いですよね』なんて言って通わせてもらえなかったけど、ずっと独学で勉強は続けて来た。計算も出来るし、字も綺麗に書けるから、何かしらの仕事は見つかると思う。
 自分のことは自分で出来るし、働く場所さえ見つかれば、生活は出来るはず。

「うん、きっと大丈夫」

 これからどうなるんだろうって不安は勿論あるけど、気持ちは晴れ晴れしてる。
 私を邪険に扱う両親も、私に執着する妹も、もういない。完全に家族の縁が切れ、私達は赤の他人になった。家族がいなくなってもちっとも悲しくないのは、もう、私の心が限界だったんだと思う。
 私はこれから自由。妹に縛られることなく、好きに生きて行ける。もう、気持ちを押し殺して、家族のために生きなくていい。

「気分爽快!」

 私は自由を求めて、顔を上げ、足を進めた。

「ん?」

 どこか近くの町にでも行こうかなと考えていたら、前方に地図を片手、どう見ても道に迷っていると思わしき風貌の男性を見つけた。

(綺麗な顔……こんなに綺麗な顔をした男の人、初めて見た)

 目の前に現れた男性は、端正な顔立ちをした不思議な空気を纏う男性で、こちらの視線に気付くと、どこか鋭く射貫くような綺麗な瞳で、私を見返した。

「ねぇ」

「は、はい。私ですか?」

 急に声をかけられ、ビックリする。

「聖女がどうして、こんなところで一人でいるの?」

「――え?」

 ドキッとした。

(どうして、私が聖女だと……)

 今まで誰にも聖女だと気付かれたことないのに、一目見ただけで、気付かれた。

「あの、何か勘違いされていませんか? 聖女は私ではなく、妹の方で――」

「君から不思議な匂いがする。間違いなく君が、僕が会いに来たコトコリスの聖女だ」

「!」

 こんなに的確に、私の力を見極めた人は初めて。

「……あの、貴方は?」

「レイン。《レイン=アイナクラ》」

「アイナクラって……まさか、アイナクラ公爵様のご令息……ですか!?」

「そう、アイナクラ公爵の次男に当たる」

 嘘でしょう!? どうしてこんなところに、アイナクラ公爵家の次男が!? 確かに、平民にしては高価な服を着られているなとは思いましたけど……
 アイナクラ公爵家と言えば、代々皇帝陛下に仕える由緒正しき家。しかもアイナクラ公爵家のレイン様と言えば、まだ若いにも関わらず、歴代最高と言われる魔法騎士だと聞いたことがある。

「聖女に会いにコトコリス領に来たんだが、まさか途中で出くわすとは思わなかった」

「ア、アイナクラ公爵家のレイン様だとは気付かず、ご挨拶が遅れ申し訳ありませんでした」

「別にいい。それで、どうして聖女がここにいる? 確かコトコリス男爵は娘である聖女を過保護過ぎるくらい過保護にしていると聞いていたけど」

「……」

 歴代最高の魔法騎士ともなると、人を見ただけで特別な力を見極められるんですね。

 自分が聖女だったことは、別に隠すつもりはない。聞かれたら答えようとは思っていたし、新しい土地で力が必要なら、遠慮なく使おうとも思っていた。

「コトコリス男爵は、もう私の父ではありません。私は、コトコリス男爵家から絶縁され、領を追放されました」

「追放? 聖女をか?」

「父――コトコリス男爵は、私では無く、妹を特別な力を持つ聖女だと信じています」

 コトコリスの聖女は、大地に活力を与え、実りを与える特別な魔法を持つとされている。でも実際は、少し意味合いが違う。私の力は本来、《他者に力を与える魔法》

「私はその力を使って、大地や草木に力を与えていただけです」

 正確には人以外にも作用する魔法は、私が産まれた時から、勝手に発動された。
 今はもう力を制御出来るけど、私はずっと、家族の為に、妹にも力を与えてきた。エミルは他の魔法に比べて使える人間が少ない回復魔法を使えるが、その奇跡とも呼ばれる驚異的な回復魔法の威力を上げていたのは、私。

 妹の驚異的な回復魔法も、大地に活力や実りを与えてきたのも、全て私。

「聖女は妹ではありません、本物の聖女は、私の方です」

 妹は、聖女でもなんでもない。それなのに皆、妹を聖女だと崇めて、ほんと馬鹿みたい。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹と寝たんですか?エセ聖女ですよ?~妃の座を奪われかけた令嬢の反撃~

岡暁舟
恋愛
100年に一度の確率で、令嬢に宿るとされる、聖なる魂。これを授かった令嬢は聖女と認定され、無条件で時の皇帝と婚約することになる。そして、その魂を引き当てたのが、この私、エミリー・バレットである。 本来ならば、私が皇帝と婚約することになるのだが、どういうわけだか、偽物の聖女を名乗る不届き者がいるようだ。その名はジューン・バレット。私の妹である。 別にどうしても皇帝と婚約したかったわけではない。でも、妹に裏切られたと思うと、少し癪だった。そして、既に二人は一夜を過ごしてしまったそう!ジューンの笑顔と言ったら……ああ、憎たらしい! そんなこんなで、いよいよ私に名誉挽回のチャンスが回ってきた。ここで私が聖女であることを証明すれば……。

偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら

影茸
恋愛
 公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。  あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。  けれど、断罪したもの達は知らない。  彼女は偽物であれ、無力ではなく。  ──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。 (書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です) (少しだけタイトル変えました)

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?

ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。 だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。 これからは好き勝手やらせてもらいますわ。

【完結】偽物の王女だけど私が本物です〜生贄の聖女はよみがえる〜

白崎りか
恋愛
私の婚約者は、妹に夢中だ。 二人は、恋人同士だった賢者と聖女の生まれ変わりだと言われている。 「俺たちは真実の愛で結ばれている。おまえのような偽物の王女とは結婚しない! 婚約を破棄する!」 お好きにどうぞ。 だって私は、偽物の王女だけど、本物だから。 賢者の婚約者だった聖女は、この私なのだから。

【完結】次期聖女として育てられてきましたが、異父妹の出現で全てが終わりました。史上最高の聖女を追放した代償は高くつきます!

林 真帆
恋愛
マリアは聖女の血を受け継ぐ家系に生まれ、次期聖女として大切に育てられてきた。  マリア自身も、自分が聖女になり、全てを国と民に捧げるものと信じて疑わなかった。  そんなマリアの前に、異父妹のカタリナが突然現れる。  そして、カタリナが現れたことで、マリアの生活は一変する。  どうやら現聖女である母親のエリザベートが、マリアを追い出し、カタリナを次期聖女にしようと企んでいるようで……。 2022.6.22 第一章完結しました。 2022.7.5 第二章完結しました。 第一章は、主人公が理不尽な目に遭い、追放されるまでのお話です。 第二章は、主人公が国を追放された後の生活。まだまだ不幸は続きます。 第三章から徐々に主人公が報われる展開となる予定です。

聖女の妹、『灰色女』の私

ルーシャオ
恋愛
オールヴァン公爵家令嬢かつ聖女アリシアを妹に持つ『私』は、魔力を持たない『灰色女(グレイッシュ)』として蔑まれていた。醜聞を避けるため仕方なく出席した妹の就任式から早々に帰宅しようとしたところ、道に座り込む老婆を見つける。その老婆は同じ『灰色女』であり、『私』の運命を変える呪文をつぶやいた。 『私』は次第にマナの流れが見えるようになり、知らなかったことをどんどんと知っていく。そして、聖女へ、オールヴァン公爵家へ、この国へ、差別する人々へ——復讐を決意した。 一方で、なぜか縁談の来なかった『私』と結婚したいという王城騎士団副団長アイメルが現れる。拒否できない結婚だと思っていたが、妙にアイメルは親身になってくれる。一体なぜ?

殿下、幼馴染の令嬢を大事にしたい貴方の恋愛ごっこにはもう愛想が尽きました。

和泉鷹央
恋愛
 雪国の祖国を冬の猛威から守るために、聖女カトリーナは病床にふせっていた。  女神様の結界を張り、国を温暖な気候にするためには何か犠牲がいる。  聖女の健康が、その犠牲となっていた。    そんな生活をして十年近く。  カトリーナの許嫁にして幼馴染の王太子ルディは婚約破棄をしたいと言い出した。  その理由はカトリーナを救うためだという。  だが本当はもう一人の幼馴染、フレンヌを王妃に迎えるために、彼らが仕組んだ計略だった――。  他の投稿サイトでも投稿しています。

処理中です...