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3話 アイナクラ公爵様
しおりを挟む「本物の聖女を追放とは、コトコリス男爵も見る目がないな」
かいつまんでこれまでの私の歴史を説明すると、レイン様は呆れたように言い捨てた。
「いいんです。実は絶縁されるのを望んでいたので、コトコリス男爵の見る目のなさには感謝しています」
「何故自分の方が聖女だと言わなかったんだ?」
「伝えたことはありますよ。でも、信じてもらえませんでした」
自分の力に気付いてから、自分の不思議な力について周りに話したことはある。
だけど皆は、私よりも、貴重な回復の魔法を使える妹を聖女だと信じ、私の話を妄言だと吐き捨て、可愛い妹を陥れようとする最低な姉だと虐げた。
「昔は上手く力を扱えませんでしたし、自分が聖女であると証明が出来なかったんです」
そうしているうちに、妹は聖女としてもっともっと祭り上げられるようになり、本当のことを話せなくなった。
私は、妹が大嫌いだった。でも、たった一人の双子の片割れだから、力になってあげなくちゃと思っていた。私は家族のために、自分の力であることを隠して、生きてきた。ずっとずっと本心を隠して、双子の妹だからと我慢して、妹の影として生きてきた。
今になって思えば、馬鹿みたい。
だから、初めて嫌いだと本心を言えて、スッキリしてる。
私は本当はずっと、エミルが大嫌いだったの。
「ではユウナは今、行く宛がないんだな」
「そうですね。どこかの町で、家でも借りれないかと思っているのですが――」
「アイナクラ公爵家に来ればいい」
「公爵家へ!? それは……」
アイナクラ公爵家にお世話になるということ?
私、コトコリス男爵家を絶縁されて、今やただの平民なのに、そんな私が、高名なアイナクラ公爵家のお世話になるなんて、無理――!
「聖女の力を持つユウナならアイナクラ公爵家は大歓迎だ。もっとも、コトコリス男爵のように、聖女の力を鼻にかけ、好き勝手されたら困るけど」
あー、お父様、聖女の力を自分の力と過信して、色々と偉そうな態度取っていますもんね。
娘の婿とは言え、本来立場が上である次期シャイナクル侯爵家当主と言われているルキ様にも偉そうにしていますし、エミルに縁談を申し込んだ他の上位貴族に対しても、横柄な態度を取っていた気がする。
「父が申し訳ありません……」
「ユウナが謝る必要は無いよ」
今は家族の縁を切っているとはいえ、当時はまだ家族でしたからね。恥ずかしい家族で申し訳ありません。
「実は僕が聖女に会いに来たのは、聖女に頼みごとがあったからなんだ。ユウナがその頼みごとを聞いてくれるなら、その見返りとして、公爵家で君の面倒を見る。これでどう? これなら、遠慮する必要も無いだろう?」
「……そう、ですね」
頼るあても無いし、力のことも理解してくれている。
それなら、お言葉に甘えてアイナクラ公爵家でお世話になるのもいいかも。
「一つ約束して欲しいのですが、私はもう、縛られて生きるのは嫌なんです。自由に生きたい。面倒を見てもらう分の対価は働きますが、それ以外は好きに過ごさせて欲しいんです」
毎日毎日、妹に付き添って聖女の活動のお手伝いをしたり、妹の買い物に付き合ったり、妹がお友達と遊んでいるのを見守ったり、妹の代わりに社交界からの招待状の返信を書いたり、妹のマッサージをしたり、妹が寝付くまで傍にいたり、他にもetc、自分の時間なんて殆ど無かった。
限られた時間の中で勉強して、後は泥のように眠り、朝が来て、妹よりも早く起きて、カーテンを開けて、妹を起こす。その繰り返し。
そんな誰かを中心にした生活はもうまっぴらごめん。
「ユウナの意見は必ず尊重するし、縛る気もない。自由に生きてもらって構わないよ」
「ありがとうございます」
「ユウナの気持ちは分かるよ、自由に生きたいよね。僕もたまーに、公爵家のしがらみから離れて自由に生きたいと思うから」
「――驚きました。レイン様のような方でも、そんな風に思うんですね」
「ここだけの話、毎日思っているのは、兄や父には内緒にして欲しいかな」
中性的な美しい顔をした魔法騎士様は、どこか悪戯をした少年のような表情を浮かべていて、そんなレイン様の瞳は吸い込まれるようにとても綺麗で、目を離せなかった。
思いも寄らずアイナクラ公爵家のお世話になることになったけど、考えてみたら、これって凄く幸運なことですよね。どう考えてもアイナクラ公爵家のお世話になった方が安全ですし、きっと屋敷も豪華だしご飯も美味しいだろうし、優雅な自由生活が味わえる予感!
それに、ただの勘だけど、レイン様は悪い人では無いと思う。
アイナクラ公爵家にいた方が、コトコリス領の様子もよく分かるでしょうしね。
本物の聖女である私がいなくなったコトコリス領がどうなるか、コトコリス男爵夫婦、ルキ様、そしてエミルがどうなるか、今から見物です。
私はもう絶対に助けてあげない。
私はもう十分、家族のために尽くした。そんな私を捨てたのは紛れも無い両親。私の心を傷付けたのは、双子の片割れのエミル。
『ユウナお姉様、大好きです』
そう言って私の心を傷付けるエミルが、昔から大嫌いよ。
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