聖女は妹ではありません。本物の聖女は、私の方です

光子

文字の大きさ
5 / 60

4話 コトコリス男爵家の会話

 

 ◇◇◇


「あれ? ユウナお姉様は?」

 ユウナが家を出て行ってから暫くして、エミルはルキと一緒に新婚旅行から戻って来た。

「おお、お帰りエミル! どうだ? 新婚旅行は楽しめたか?」

 エミルとルキが結婚して一年。
 ルキがユウナと偽装婚約を続けていたこともあって、エミルは結婚してからも、ずっと実家であるコトコリス男爵邸で暮らしていた。

「はい、ルキ様はユウナお姉様に傷付けられた私を慰めてくれて、とても優しくて、いっぱい、愛してくれました」

「そうか! エミルが元気になったなら良かった!」

 頬を赤らめながら幸せそうに伝えるエミルに、コトコリス男爵は満足そうに頷いた。

「お義父様」

「おお、ルキ。娘をありがとう。エミルが幸せそうで満足だ」

「当然のことをしたまでです」

 丁寧に頭を下げ、義父に挨拶を交わすルキ。

「それより、アイナクラ公爵令息のレイン様が、エミルに会いに来る予定だったと伺いましたが」

「ああ、あの若造な。うちが縁談を持ち掛けた時は断ったクセに、今になってエミルの力を貸して欲しいなどぬかすから、わざとエミルが新婚旅行に行っている日を約束の日に指定したんだ。そんな無礼な男に、簡単にエミルは会わせられんからな」

 聖女の父親になったコトコリス男爵は、自らの地位が上がっているような錯覚に陥っていた。だから、アイナクラ公爵令息であるレインに対しても、平気で約束を反故にするような真似をする。

「数日待ちぼうけを食らわせた後、魔法騎士としてエミルの専属護衛でもさせてこき使ってやろうかと思っていたが、結局来なかったよ。一度は手紙で、『聖女を拒んだ者の願いを叶えるつもりは無い』と断っているからな。それでも会いに行くと返信が来た時は、エミルに粘着する気かと怖くなったが」

 実際は、レインは本物の聖女であるユウナに出会い、偽物の聖女には会いに行かなかったのだが、そんなことをコトコリス男爵が知るわけもない。

「例え公爵家であろうが、聖女を娘に持つワシを無下には扱えんだろう。何せ、聖女の力さえあれば、不作に苦しむ土地に実りを与え、傷付いた者達を癒すことが出来るのだからな!」

「ええ、お義父様。聖女の魔法は偉大です。この力さえあれば、皇帝陛下から新たに爵位を授かることも可能ですよ」

「はは! そうだな! その通りだ!」

 今までは、エミルに良い縁談を与えることだけに夢中になっていたが、エミルなら、聖女なら、直接、爵位を授かることだって出来るはずだと、ルキからの助言で気付いた。

「このままエミルが聖女として活動を続けていけば、必ずしや、爵位を授けて頂けるはず! その際には、ワシの爵位も上げてもらう! ワシは、聖女の父親なのだからな!」

 ガハハと大きな口を開けて笑うコトコリス男爵。

「お義父様のご活躍をお祈りしております」

 そんなコトコリス男爵を更に調子付けるように、ルキは不敵に微笑みながら、言葉を紡いだ。


「ユウナお姉様、まだ不貞腐れて、部屋に閉じ篭っているのかしら」

 誰も家を出て行ったユウナを気にしない中、エミルだけが、ユウナの存在を気にした。

「ユウナお姉様の心が治るのには、少し時間がかかるんですね……大丈夫です、私、待ちます。ユウナお姉様が、また私の元に戻って来てくれるのを。だって、私達はたった二人だけの、魂の片割れなんだから」

 ユウナが絶縁されたことも知らず、呑気に無邪気に、エミルは姉と仲直りが出来る日が来るのを望んだ。


 ◇◇◇

あなたにおすすめの小説

裏切られた氷の聖女は、その後、幸せな夢を見続ける

しげむろ ゆうき
恋愛
2022年4月27日修正 セシリア・シルフィードは氷の聖女として勇者パーティーに入り仲間と共に魔王と戦い勝利する。 だが、帰ってきたセシリアをパーティーメンバーは残酷な仕打で…… 因果応報ストーリー

偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら

影茸
恋愛
 公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。  あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。  けれど、断罪したもの達は知らない。  彼女は偽物であれ、無力ではなく。  ──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。 (書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です) (少しだけタイトル変えました)

【完結】わたしは大事な人の側に行きます〜この国が不幸になりますように〜

彩華(あやはな)
恋愛
 一つの密約を交わし聖女になったわたし。  わたしは婚約者である王太子殿下に婚約破棄された。  王太子はわたしの大事な人をー。  わたしは、大事な人の側にいきます。  そして、この国不幸になる事を祈ります。  *わたし、王太子殿下、ある方の視点になっています。敢えて表記しておりません。  *ダークな内容になっておりますので、ご注意ください。 ハピエンではありません。ですが、救済はいれました。

堅実に働いてきた私を無能と切り捨てたのはあなた達ではありませんか。

木山楽斗
恋愛
聖女であるクレメリアは、謙虚な性格をしていた。 彼女は、自らの成果を誇示することもなく、淡々と仕事をこなしていたのだ。 そんな彼女を新たに国王となったアズガルトは軽んじていた。 彼女の能力は大したことはなく、何も成し遂げられない。そう判断して、彼はクレメリアをクビにした。 しかし、彼はすぐに実感することになる。クレメリアがどれ程重要だったのかを。彼女がいたからこそ、王国は成り立っていたのだ。 だが、気付いた時には既に遅かった。クレメリアは既に隣国に移っており、アズガルトからの要請など届かなかったのだ。

【完結済】恋の魔法が解けた時 ~ 理不尽な婚約破棄の後には、王太子殿下との幸せな結婚が待っていました ~

鳴宮野々花
恋愛
 侯爵令嬢のクラリッサは、幼少の頃からの婚約者であるダリウスのことが大好きだった。優秀で勤勉なクラリッサはダリウスの苦手な分野をさり気なくフォローし、助けてきた。  しかし当のダリウスはクラリッサの細やかな心遣いや愛を顧みることもなく、フィールズ公爵家の長女アレイナに心を移してしまい、無情にもクラリッサを捨てる。  傷心のクラリッサは長い時間をかけてゆっくりと元の自分を取り戻し、ようやくダリウスへの恋の魔法が解けた。その時彼女のそばにいたのは、クラリッサと同じく婚約者を失ったエリオット王太子だった。  一方様々な困難を乗り越え、多くの人を傷付けてまでも真実の愛を手に入れたと思っていたアレイナ。やがてその浮かれきった恋の魔法から目覚めた時、そばにいたのは公爵令息の肩書きだけを持った無能な男ただ一人だった───── ※※作者独自の架空の世界のお話ですので、その点ご理解の上お読みいただけると嬉しいです。 ※※こちらの作品はカクヨム、小説家になろうにも投稿しています。

妹と寝たんですか?エセ聖女ですよ?~妃の座を奪われかけた令嬢の反撃~

岡暁舟
恋愛
100年に一度の確率で、令嬢に宿るとされる、聖なる魂。これを授かった令嬢は聖女と認定され、無条件で時の皇帝と婚約することになる。そして、その魂を引き当てたのが、この私、エミリー・バレットである。 本来ならば、私が皇帝と婚約することになるのだが、どういうわけだか、偽物の聖女を名乗る不届き者がいるようだ。その名はジューン・バレット。私の妹である。 別にどうしても皇帝と婚約したかったわけではない。でも、妹に裏切られたと思うと、少し癪だった。そして、既に二人は一夜を過ごしてしまったそう!ジューンの笑顔と言ったら……ああ、憎たらしい! そんなこんなで、いよいよ私に名誉挽回のチャンスが回ってきた。ここで私が聖女であることを証明すれば……。

偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて

奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】 ※ヒロインがアンハッピーエンドです。  痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。  爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。  執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。  だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。  ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。  広場を埋め尽くす、人。  ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。  この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。  そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。  わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。  国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。  今日は、二人の婚姻の日だったはず。  婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。  王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。 『ごめんなさい』  歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。  無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。

そんなに聖女になりたいなら、譲ってあげますよ。私は疲れたので、やめさせてもらいます。

木山楽斗
恋愛
聖女であるシャルリナ・ラーファンは、その激務に嫌気が差していた。 朝早く起きて、日中必死に働いして、夜遅くに眠る。そんな大変な生活に、彼女は耐えられくなっていたのだ。 そんな彼女の元に、フェルムーナ・エルキアードという令嬢が訪ねて来た。彼女は、聖女になりたくて仕方ないらしい。 「そんなに聖女になりたいなら、譲ってあげると言っているんです」 「なっ……正気ですか?」 「正気ですよ」 最初は懐疑的だったフェルムーナを何とか説得して、シャルリナは無事に聖女をやめることができた。 こうして、自由の身になったシャルリナは、穏やかな生活を謳歌するのだった。 ※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。 ※下記の関連作品を読むと、より楽しめると思います。