聖女は妹ではありません。本物の聖女は、私の方です

光子

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7話 ファイナブル帝国の聖女

 


 コトコリス男爵家から絶縁されて、早数か月が過ぎた――


 聖女として、土地の再生を行ったり、災害で傷付いた人がいる地域に出向き、レイン様に力を与えて、傷付いた人々を癒す日々。

「ありがとうございますレイン様」

「いや、この回復魔法は聖女の力あってのものなので、僕ではなく、聖女にお礼を伝えてくれ」

「まぁ、そうなんですか。ありがとうございます、聖女様」

 レイン様はお礼を伝える人々に、私の力でもあると、一回一回、説明をした。別にいいのに……レイン様は律儀な人ですね。

「聖女様、こちらをお召し上がり下さい。今日、庭で採れた野菜なんです。聖女様が大地に実りを与えて下さってからというもの、作物が元気に育つようになりました」

「わぁ、美味しそうなトマト! ありがとうございます、頂きますね」

 土地に活力や実りを与える魔法も、私の力であると正式に認識され、感謝されるようになった。
 誰と話をしていても、物を頂いても、誰かを助けても、妹に『私以外の誰とお話したの?』や、『こんな物貰っても、ユウナお姉様には必要ないですよね?』や、『ユウナお姉様は私の傍にいるだけでいいから、何もしないでね』なんて邪魔されない生活はとても快適で、自由だなぁってしみじみ思う。

「うん、美味しい」

 早速、ガブリとかぶりつくと、採れたての野菜は新鮮でみずみずしくて、とても美味だった。

「ユウナ、美味しそうなもの食べてるね」
「レイン様も食べますか? いっぱい頂いたので、どうぞ」
「ありがとう」

 受け取ると、レイン様は私の隣に腰掛けた。
 今いるここは、帝都から大分離れた辺境の町で、最初に足を踏み入れた時は、草木は枯れ果て、水は枯渇し、大地は乾燥してヒビが入っていた。

「自由に過ごしたいって言ってたのに、こんな遠い場所まで来させてごめんな」

「いいえ、無事に大地が回復して良かったです」

 最初にここに来た時とは違い、今、目の前に広がる景色は、緑の生い茂った草原に、田畑に芽吹く農作物。足をつけている川には、綺麗な水が流れ、魚が自由に泳ぎ回っていた。

「それに、私は今、自由ですよ。妹の目を気にせず、自由に生きています」

 誰かと話すだけで執拗に執着する妹は、その相手を私から引き離そうとした。
 そんな事ばかりされていたから、私は誰とも話すことを止めてしまった。まぁ、元から嫌われていたので、私と話してくれる人はそんなにいなかったけど。

「ユウナの妹の件だが、あちらが偽物の聖女だと証明するのは難しく、難航している。実際、聖女として活動している姿を見ている人達は山ほどいるからな」

 私が妹の影として生きていた間、妹は少なからず、聖女として活動していた。
 土地の回復は、本当の聖女でない妹には出来ないので、その活動さえすれば綻びは出てくるのでしょうが、妹は今、活動を停止していますからね。

「コトコリス領まで聖女の力を求めて来た者達の怪我の治癒は行っているようだよ。ただ、コトコリス男爵は聖女の奇跡の対価として、膨大な報酬金を請求したり、金が払えないなら召使いにする息子や娘を寄越せとか言っているようだけどな」

 ……お父様、これ以上私を失望させないで欲しいわ。
 コトコリス男爵家にいた頃、お父様が横柄に振舞っているとは知っていたけど、ここまで好き勝手にされているとは知らなかった。
 外に出て、情報を知って、元家族の愚行に頭を抱えるばかりよ。

「無理に妹が偽物だと証明しなくて大丈夫ですよ。どうせ、私の力が失われたら、奇跡と呼ばれるほどの回復魔法は使えなくなりますから」

 ずっと長く一緒にいたからか、双子の片割れだからか、妹に私の力が残る期間は長かった。もう数か月経過したのに、今もまだ、エミルには私の力が残っているらしい。
 でもそれも、時間の問題。どうせいつかは、化けの皮が剥がれる運命。

「そうなんだが、彼女達の被害者が増えるのも困り者だからな」

「あ……そうですよね」

 聖女の力を求める者達に、過度な要求を求めるコトコリス男爵。

「まぁ、今は新しい聖女の噂が広まっているから、今後、被害者の数は減ると思う」

「それって、私のことですよね?」

「勿論」

 ここ数ヶ月、聖女として活動してきたことで、私の存在がファイナブル帝国に浸透してきたらしい。

「ユウナは人々から《ファイナブル帝国の聖女》と呼ばれているみたいだよ」

「ファイナブル帝国の聖女?」

 エミルはコトコリスの聖女なのに、私だけ規模が大きい気がするのですが。

「誰に対しても平等に接し、優しく、その地を歩くだけで大地を蘇らせるその姿は、まさにファイナブル帝国の聖女だと賞賛されている」

「わ、私はそんな大それた人間では無いのですが……」

 アイナクラ公爵家や皇室の皆さんに手伝ってもらっていますし、私一人の力じゃない。

「ユウナは謙虚だな。その気持ちが、少しでもコトコリスの聖女にもあれば良かったのに」

 いやー無いんじゃないかな? エミルは自分大好きで、皆に褒められて当然、愛されて当然! って思うタイプですからね。

「明日にはここを発って帝都に戻ろうと思う。暫くはゆっくり出来ると思うから、その間は自由に暮らして欲しい」

「はい、ありがとうございます」

 レイン様は私の専属魔法騎士としてずっと付き添い、私に心から尽くしてくれた。私を、とても大切に扱ってくれた。今まで誰かに大切にされることも、褒められることも、認められることも、感謝されることも、守ってくれることも無かった。

 人とこんな風に触れ合うことが出来るようになって、私はとても幸せ。
 ああ、あの家族と縁を切れて、コトコリス領を出ることが出来て、本当に良かった。


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