11 / 60
10話 ファイナブル帝国の聖女の収穫祭
しおりを挟む「残念だが、ユウナの妹にとっては、土で薄汚れた野菜は、奇跡の力の対価にはならないらしい」
野菜を渡そうとした市民に対して、『こんな汚いものいりません』と突っ返したそうだ。
いや、普通にエミルも野菜食べますよね? なんでそんな失礼なこと言うかな。
「それでも唯一の聖女だからと今まで我慢してきたものが、もう一人の聖女の出現で我慢する必要がなくなり、不満不平が表に出てきた感じだな」
「エミルって評判悪いんですね、知りませんでした」
コトコリス領では評判が良かったのに。
「コトコリスの領民は恩恵を強く受けているのもあるだろうが、幼い頃から彼女を知っていて、ある程度の接し方を知っているのだろう。彼女の望む言葉をかけ、彼女の望む接し方をする」
エミルの機嫌を損ねないように、彼女に同調し、彼女が機嫌良く過ごせるよう、住民全員でフォローした。
「お可哀想に」
それしか感想は無い。
エミルが私を悪く言えば、エミルに同調して、私を悪だと決めつけた。
エミルは偽物の聖女なのに、皆して崇め奉って、本物の聖女を邪険に扱った。結果、本物の聖女はコトコリス領に何の愛情も持たなくなったとさ。めでたしめでたし。
「そうだ、陛下が一度ユウナに直接礼を伝えたいと仰っていたのだが、いつがいい?」
「……それって、私が決めるんですか? 私は陛下の手が空いている日で良いのですが……」
私、今特に何もしていませんし。本当に自由を満喫しているだけで、ある意味無職ですよ。
「陛下はユウナに合わせると言っていたよ」
「何でですか!?」
「聖女の活動中はユウナ望む自由を奪ってしまっているからな。陛下の呼び出しくらい、ユウナの望む通りに――」
「お願いですから、普通にして下さい! 陛下のご都合に合わせますから!」
聖女だからって皇帝陛下に気を使わせてしまうなんて、こっちの胃がストレスで破壊されます!
「……はは、本当に、ユウナはユウナだな」
「どういう意味ですか?」
「いや? ユウナが初めから聖女だったら――婚約を拒まなかったのにと思っただけだ」
「っ! な、何を!?」
「陛下は丁度今日、予定が空いていたと思うから、今から皇宮に行こうか」
何も無かったように平然と次のお言葉を発するレイン様。
な、何!? 人をこんなに惑わせておいて、自分は平然とした顔しちゃって、何なの!?
「ユウナ、折角だから帝都の広場を歩いて行かないか? 今日は広場で収穫祭をしているらしい」
「そうなんですか? 行きます!」
収穫祭なんて素敵な響き! きっと新鮮な野菜や果物で作った美味しいご飯がいっぱい並んでるに違いない! 楽しみー!
レイン様にはドキドキさせられちゃったけど、収穫祭の魅力に掻き消された。
「では参りましょう。ファイナブル帝国の聖女、ユウナ様」
まだまだ慣れない通り名。
気付いたら、多くの人達からそう呼ばれるようになった。ご好意で呼ばれているので受け入れているけど、大分気恥しい。エミルと違って目立つのは苦手だし、出来るだけ注目されずに、大人しく、目立たずに生活していきたいのが本音。
そう、思ってはいるのですが――――
《ファイナブル帝国の聖女様の収穫祭! ユウナ様! 帝都に来てくれてありがとう収穫祭!》
収穫祭が行われている広場の入り口、アーチのど真ん中に大きく書かれた文字に、絶句する。
私、めちゃめちゃ目立ってますね……
「あ、聖女様! 来て下さったんですね!」
私の姿を見るなり、一気に人が押し寄せ、人集りが出来た。
「聖女様、これ、今日の収穫祭のために発案したレシピで作った料理です! 是非食べてみて下さい!」
「聖女様、これ、聖女様の力で育った花で作った花冠です! 良かったら受け取って下さい!」
「聖女様、以前、レイン様と共に傷を治して頂きありがとうございます! どうぞ、新鮮な野菜です、受け取って下さい!」
「あ、ありがとうございます」
一瞬で私の両手は、食べ物やお花、野菜達で一杯になった。
「人気者だね、ユウナ」
「そ、そんなことは……」
無い。とは言えない。
これだけ慕ってくれているのが、嬉しいような、こしょばゆいような、でも、やっぱり嬉しい。
私に向けられる沢山の笑顔に沢山の感謝の言葉。妹の影として生きていた頃には、一つも手に入らなかったもの。
……嬉しい……
私はそう、喜びを胸の中で噛み締めた。
「おい! これは一体何の騒ぎだ!?」
楽しいお祭りの雰囲気の中、空気をぶち壊すように怒号を上げ広場に入って来た人物は、ファイナブル帝国の聖女と書かれたアーチを乱暴に蹴りつけた。
ああ、聞いたことのある声だわ……
嫌だけど耳覚えのある声は、昔、家族として過ごしていた人の声で、私は嫌々、その人物に顔を向けた。
「お父様」
はぁ、出来れば二度とお会いしたくなかったのに。
まぁでも、お会いしたのなら仕方ない。何やら私に言いたいこともあるようなので、話くらいは聞いてあげよう。昔の家族のよしみでね。
2,346
あなたにおすすめの小説
妹と寝たんですか?エセ聖女ですよ?~妃の座を奪われかけた令嬢の反撃~
岡暁舟
恋愛
100年に一度の確率で、令嬢に宿るとされる、聖なる魂。これを授かった令嬢は聖女と認定され、無条件で時の皇帝と婚約することになる。そして、その魂を引き当てたのが、この私、エミリー・バレットである。
本来ならば、私が皇帝と婚約することになるのだが、どういうわけだか、偽物の聖女を名乗る不届き者がいるようだ。その名はジューン・バレット。私の妹である。
別にどうしても皇帝と婚約したかったわけではない。でも、妹に裏切られたと思うと、少し癪だった。そして、既に二人は一夜を過ごしてしまったそう!ジューンの笑顔と言ったら……ああ、憎たらしい!
そんなこんなで、いよいよ私に名誉挽回のチャンスが回ってきた。ここで私が聖女であることを証明すれば……。
偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら
影茸
恋愛
公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。
あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。
けれど、断罪したもの達は知らない。
彼女は偽物であれ、無力ではなく。
──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。
(書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です)
(少しだけタイトル変えました)
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?
ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。
だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。
これからは好き勝手やらせてもらいますわ。
【完結】偽物の王女だけど私が本物です〜生贄の聖女はよみがえる〜
白崎りか
恋愛
私の婚約者は、妹に夢中だ。
二人は、恋人同士だった賢者と聖女の生まれ変わりだと言われている。
「俺たちは真実の愛で結ばれている。おまえのような偽物の王女とは結婚しない! 婚約を破棄する!」
お好きにどうぞ。
だって私は、偽物の王女だけど、本物だから。
賢者の婚約者だった聖女は、この私なのだから。
【完結】次期聖女として育てられてきましたが、異父妹の出現で全てが終わりました。史上最高の聖女を追放した代償は高くつきます!
林 真帆
恋愛
マリアは聖女の血を受け継ぐ家系に生まれ、次期聖女として大切に育てられてきた。
マリア自身も、自分が聖女になり、全てを国と民に捧げるものと信じて疑わなかった。
そんなマリアの前に、異父妹のカタリナが突然現れる。
そして、カタリナが現れたことで、マリアの生活は一変する。
どうやら現聖女である母親のエリザベートが、マリアを追い出し、カタリナを次期聖女にしようと企んでいるようで……。
2022.6.22 第一章完結しました。
2022.7.5 第二章完結しました。
第一章は、主人公が理不尽な目に遭い、追放されるまでのお話です。
第二章は、主人公が国を追放された後の生活。まだまだ不幸は続きます。
第三章から徐々に主人公が報われる展開となる予定です。
聖女の妹、『灰色女』の私
ルーシャオ
恋愛
オールヴァン公爵家令嬢かつ聖女アリシアを妹に持つ『私』は、魔力を持たない『灰色女(グレイッシュ)』として蔑まれていた。醜聞を避けるため仕方なく出席した妹の就任式から早々に帰宅しようとしたところ、道に座り込む老婆を見つける。その老婆は同じ『灰色女』であり、『私』の運命を変える呪文をつぶやいた。
『私』は次第にマナの流れが見えるようになり、知らなかったことをどんどんと知っていく。そして、聖女へ、オールヴァン公爵家へ、この国へ、差別する人々へ——復讐を決意した。
一方で、なぜか縁談の来なかった『私』と結婚したいという王城騎士団副団長アイメルが現れる。拒否できない結婚だと思っていたが、妙にアイメルは親身になってくれる。一体なぜ?
殿下、幼馴染の令嬢を大事にしたい貴方の恋愛ごっこにはもう愛想が尽きました。
和泉鷹央
恋愛
雪国の祖国を冬の猛威から守るために、聖女カトリーナは病床にふせっていた。
女神様の結界を張り、国を温暖な気候にするためには何か犠牲がいる。
聖女の健康が、その犠牲となっていた。
そんな生活をして十年近く。
カトリーナの許嫁にして幼馴染の王太子ルディは婚約破棄をしたいと言い出した。
その理由はカトリーナを救うためだという。
だが本当はもう一人の幼馴染、フレンヌを王妃に迎えるために、彼らが仕組んだ計略だった――。
他の投稿サイトでも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる