聖女は妹ではありません。本物の聖女は、私の方です

光子

文字の大きさ
10 / 60

9話 アイナクラ公爵家での休息

 

「そう言えば最近、ファイナブル帝国にエミル以外の聖女が現れたそうですよ」

「何だと?」

 ルキの発言に、コトコリス男爵は眉間に皺を寄せて反応した。

「詳しくは知りませんが、以前お義父様が断った土地の再生をしたり、災害で傷付いた人々を癒したりと、エミルの真似事をしている者がいるそうです」

「くだらん、所詮エミルの偽物だろう。何せ聖女は数百年に一度現れるかどうかの奇跡の存在だ! エミル以外に現れるなど有り得ん!」

「そうは思いますが、その偽物の聖女は、人々からファイナブル帝国の聖女と呼ばれているようです」

「何だと?」

 ルキの話に、コトコリス男爵は眉をつり上げた。
 自分の可愛い娘は、この辺境の地をなぞったコトコリスの聖女と呼ばれているのに、新しい聖女は、帝国の名前をなぞらえている。

「エミルを差し置いて、偽物をファイナブル帝国の聖女と呼ぶなど!」

 コトコリス男爵には、到底許せることでは無かった。

「お怒りはご最もですお義父様。ああ、そうだ、皇室から聖女への依頼が来なくなったと聞きましたが、それは本当ですか?」

「む、そう言えばそうだな」

 以前までは断っても断っても聖女へ奇跡の力の要請が来ていたが、今はすっかり来なくなった。あれだけしつこかったアイナクラ公爵家からも、何の便りも無い。

「お義父様が断り続けたので諦めたのでしょうか?」

「我が家門を放置するとは、聖女を蔑ろにしているようなものだ!」

 要請を断り続けていたのはコトコリス男爵の方だが、いざ要請が来なくなると、放置されていると激怒した。 

「落ち着いて下さいお義父様。流石に断り過ぎたのかもしれませんよ? 皇室にもアイナクラ公爵家にも、プライドはあるでしょうから」

「ふん、くだらん」

「そう仰らずに。たまにはこちらから折れて、皇宮に顔を出して来ては如何ですか? このままでは、その偽物の聖女が帝国中をかき乱し、エミルの地位が霞むことになるかもしれません」

「……そうだな、その偽物の聖女について苦言を呈しておく必要があるな」

 まだエミルは活動を再開する様子は無い。
 その間に、百分の一の可能性でも、偽物の聖女が本物の聖女であるエミルを出し抜くのは許し難い。

「陛下にその偽物の聖女を厳しく罰するよう、進言しよう。そして、エミルこそがファイナブル帝国の聖女と呼ばれるに相応しいと、皆に分からせんとな」

「ええ、頑張って下さいお義父様」

 帝都へ向かうと決めたコトコリス男爵は、早速、家の者に出発の準備を命じた。
 その背後にある机の上には、《ユウナ様の居場所について》と書かれた未開封の封筒。その中身には、《帝都にてユウナ様の目撃情報有り》と、記載されていた――



 ◇◇◇


 聖女の活動を一通り終え、束の間の休息。
 枯渇した大地は一度復活すれば、きちんと手入れを行うことで、今後、聖女が力を与えなくても、正常な状態を維持することが出来た。

 今は緊急で困っている土地も無いと、当初の約束通り、アイナクラ公爵家にてお世話になっている最中。
 アイナクラ公爵邸は、辺境にあるコトコリス男爵邸とは違い、帝都の中にある。
 アイナクラ公爵家は帝都で、アイナクラ公爵邸がある土地のみの領土を持つ、領民がいない貴族であり、アイナクラ公爵家は、代々皇帝陛下に仕える臣下として、その功績から、最高爵位を授かった名誉ある貴族である。

「はぁー極楽」

 テーブル一杯に広がる美味しいご馳走を前に、頬を頬張る。
 流石は名誉あるアイナクラ公爵家! 食事が美味しい! 寝具はふかふか! 服は新品! お風呂はピカピカ! 何より、誰も私を無視しない! きちんとお世話して、お話してくれる!

 レイン様は約束通り、私に自由を与えてくれた。
 好きに食事をしたり、お昼寝したり、お風呂にのんびり浸かってみたり、勉強したり、花を育ててみたり、お散歩したり――色々と自由を満喫している。

「ユウナ」
「レイン様」

 食事を終え、ゆっくりと食後の珈琲を楽しんでいると、レイン様から声をかけられた。

「どう? 何か困ったことや欲しい物はない?」

「何もありません。十分過ぎるくらいです」

 綺麗なお部屋に美味しい食事、清潔な服に、何より自由に、自分の好きに時間を使える。それだけで満足。

「本当にユウナは無欲だな。比べるのもおこがましいが、コトコリスの聖女は宝石やらアクセサリーやらを山のように望んだと聞くのに」

「妹はそういった物が好きでしたが、私はあまり興味が無いんです。それなら、美味しい食材をくれた方が嬉しいです」

 聖女として名が知れたら、皆、私に美味しい野菜とか魚とかくれるようになって、嬉しいんだよね。アイナクラ公爵邸に持って帰れば、美味しく調理してくれるし。聖女様様です。

「皆、ユウナが喜んで受け取ってくれるのが嬉しいんだろう」

「喜ぶに決まってるじゃないですか。新鮮なお野菜は美味しいんですよ?」

 私が帝都に留まるようになったから、今、帝都では、農作物フィーバーが発生している。
 実りを与える聖女が滞在しているので、豊作豊作豊作。しかも、いつもより味も美味しくて大きいと、騒ぎを聞き付けた人達が次から次へと作物を育て出し、帝都は今、自然に溢れていた。

あなたにおすすめの小説

偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら

影茸
恋愛
 公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。  あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。  けれど、断罪したもの達は知らない。  彼女は偽物であれ、無力ではなく。  ──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。 (書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です) (少しだけタイトル変えました)

聖水を作り続ける聖女 〜 婚約破棄しておきながら、今さら欲しいと言われても困ります!〜

手嶋ゆき
恋愛
 「ユリエ!! お前との婚約は破棄だ! 今すぐこの国から出て行け!」  バッド王太子殿下に突然婚約破棄されたユリエ。  さらにユリエの妹が、追い打ちをかける。  窮地に立たされるユリエだったが、彼女を救おうと抱きかかえる者がいた——。 ※一万文字以内の短編です。 ※小説家になろう様など他サイトにも投稿しています。

追放された役立たず聖女、実は国家の回復システムでした。私が消えた途端に国は崩壊、今さら泣いても戻りません。元勇者の魔王様に独占されています

唯崎りいち
恋愛
「役立たずの聖女はいらない」と国王に追放された私。 だがその瞬間、国中の“宿屋で一晩寝れば全回復する仕組み”は崩壊した。 ――それは、私の力で成り立っていたから。 混乱する人間たちをよそに、私は元勇者だった魔王様に連れ去られる。 魔王様はかつて勇者として魔物を虐げていた過去を持ち、 今は魔物を守るために魔王となった存在だった。 そして私は気づく。 自分の力は、一人を癒すだけでなく――世界そのものを支えていたのだと。 やがて回復手段を失った勇者たちは崩壊し、 国王は失脚、国は混乱に陥る。 それでも私は戻らない。 「君は俺のものだ。一生手放さない」 元勇者の魔王様に囲われ、甘やかされ、溺愛されながら、 私は魔王城で幸せに暮らしています。 今さら「帰ってきて」と言われても、もう遅いのです。

婚約者を病弱な妹に譲れと言われた夜、冷徹公爵が「では君は私がもらう」と手を差し伸べてくれました

ゆぷしろん
恋愛
伯爵令嬢リネットは、長年支えてきた婚約者エドガーを、病弱な妹ミレイユに譲るよう家族から一方的に命じられる。領地運営の書類作成や商会との交渉までこなし、婚約者を陰で支えてきたにもかかわらず、その働きはすべて当然のように奪われてきたのだ。 失意の中で婚約解消を受け入れたリネットの前に現れたのは、“冷徹公爵”と噂される王弟アシュレイ・クロフォード。 彼はリネットの才覚を見抜き、「では君は私がもらう」と告げて、公爵領へ迎え入れる。 ようやく自分の能力を正当に認められる場所を得たリネットは、北方公爵領で筆頭補佐官として活躍し始める。一方、彼女を失った元婚約者と家族は、次第に行き詰まっていき――。 これは、搾取され続けた令嬢が、自分の価値を認めてくれる人と出会い、後悔する者たちを置き去りにして幸せを掴む物語。

【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください

ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。 義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。 外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。 彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。 「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」 ――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。 ⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

妹の身代わりの花嫁は公爵様に溺愛される。

光子
恋愛
  お母様が亡くなってからの私、《セルフィ=ローズリカ》の人生は、最低なものだった。 お父様も、後妻としてやってきたお義母様も義妹も、私を家族として扱わず、家族の邪魔者だと邪険に扱った。 本邸から離れた場所に建てられた陳腐な小さな小屋、一日一食だけ運ばれる質素な食事、使用人すらも着ないようなつぎはぎだらけのボロボロの服。 ローズリカ子爵家の娘とは思えない扱い。 「お義姉様って、誰からも愛されないのね、可哀想」 義妹である《リシャル》の言葉は、正しかった。   「冷酷非情、血の公爵様――――お義姉様にピッタリの婚約者様ね」 家同士が決めた、愛のない結婚。 貴族令嬢として産まれた以上、愛のない結婚をすることも覚悟はしていた。どんな相手が婚約者でも構わない、どうせ、ここにいても、嫁いでも、酷い扱いをされるのは変わらない。 だけど、私はもう、貴女達を家族とは思えなくなった。 「お前の存在価値など、可愛い妹の身代わりの花嫁になるくらいしか無いだろう! そのために家族の邪魔者であるお前を、この家に置いてやっているんだ!」 お父様の娘はリシャルだけなの? 私は? 私も、お父様の娘では無いの? 私はただリシャルの身代わりの花嫁として、お父様の娘でいたの? そんなの嫌、それなら私ももう、貴方達を家族と思わない、家族をやめる! リシャルの身代わりの花嫁になるなんて、嫌! 死んでも嫌! 私はこのまま、お父様達の望み通り義妹の身代わりの花嫁になって、不幸になるしかない。そう思うと、絶望だった。 「――俺の婚約者に随分、酷い扱いをしているようだな、ローズリカ子爵」 でも何故か、冷酷非情、血の公爵と呼ばれる《アクト=インテレクト》様、今まで一度も顔も見に来たことがない婚約者様は、私を救いに来てくれた。 「どうぞ、俺の婚約者である立場を有効活用して下さい。セルフィは俺の、未来のインテレクト公爵夫人なのですから」 この日から、私の立場は全く違うものになった。 私は、アクト様の婚約者――――妹の身代わりの花嫁は、婚約者様に溺愛される。 不定期更新。 この作品は私の考えた世界の話です。魔法あり。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

妹と寝たんですか?エセ聖女ですよ?~妃の座を奪われかけた令嬢の反撃~

岡暁舟
恋愛
100年に一度の確率で、令嬢に宿るとされる、聖なる魂。これを授かった令嬢は聖女と認定され、無条件で時の皇帝と婚約することになる。そして、その魂を引き当てたのが、この私、エミリー・バレットである。 本来ならば、私が皇帝と婚約することになるのだが、どういうわけだか、偽物の聖女を名乗る不届き者がいるようだ。その名はジューン・バレット。私の妹である。 別にどうしても皇帝と婚約したかったわけではない。でも、妹に裏切られたと思うと、少し癪だった。そして、既に二人は一夜を過ごしてしまったそう!ジューンの笑顔と言ったら……ああ、憎たらしい! そんなこんなで、いよいよ私に名誉挽回のチャンスが回ってきた。ここで私が聖女であることを証明すれば……。