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12話 お父様来襲②
しおりを挟む「嘘をつくな!」
信じませんか……まぁ、今まで聖女としての妹の姿を見てきましたもんね。私が力を与えた紛い物ですけど。
「コトコリス男爵、これ以上の聖女の侮辱は止めて頂きます。じゃないと、聖女の専属魔法騎士として、貴方を罰しなければならなくなります」
「くっ!」
レイン様はファイナブル帝国の中でも最強の魔法騎士。何の力も持たないお父様が権力でも純粋な武力でも勝てるはずがない。
「聖女の父親にこのような真似をして許されるはずがない! この事は陛下に報告させてもらうぞ!」
「お好きにどうぞ。と言いたいところですが、まさか今から陛下の元へ行くつもりですか?」
「当たり前だ! その為にコトコリス領からわざわざ帝都に出向いたのだ!」
「……謁見の約束を取り付けていませんよね?」
嘘でしょう。いやまさか、いくらお父様でもそんな暴挙に出るはずが――
「そんなもの! 聖女の父親がわざわざ会いに来たのだから、他の何を差し置いても、ワシと謁見するのが礼儀だろう!」
おーーーーい! もう止めて! 馬鹿なの? 馬鹿なんだろうね! ファイナブル帝国の皇帝陛下にまで、そんな横柄な態度をとるなんて、馬鹿過ぎて目も当てられないよ!
「謁見の約束をしていない者を陛下と会わせるわけには行きません。お帰り下さい、コトコリス男爵」
「馬鹿を言うな! 陛下がワシの謁見を断るはずが無いだろう!」
あ、こいつ駄目だ。聖女の存在で自分がどれだけ偉くなったつもりなのよ。
「もうお前達と話していても埒があかん! ワシは皇宮に行く! 後悔してもしらんぞ!」
「……はぁ、もう好きにして下さい」
何を言っても無駄だと悟ったレイン様は、お父様の行く末を止めなかった。
「コトコリス男爵、陛下に会いに行ったみたいですが、いいんですか?」
「皇宮には父も兄もいるし、他の騎士達もいるから、コトコリス男爵は謁見どころか、皇宮に入ることも出来ないと思うよ」
それが正しい対応ですからね。普通、陛下に謁見なんて、男爵位がしようと思っても特別なことが無い限り断られるレベルですから。
その特別なことが、今まで聖女の父親としての立場だったのでしょうが、それでも、あんな横柄な態度あります? もしかしてお父様は鋼のメンタルの持ち主なんでしょうか? 私なんて陛下から謁見はいつでもユウナの都合のいい時でって言われただけで胃に穴があきそうだったのに。
「失礼なんだが、ユウナは本当にコトコリス男爵の娘だったのか?」
「心底残念なことに血の繋がりのある娘だったんです」
ただ、真っ当に育てられた覚えはありませんけどね。妹と差別されて出来損ないと罵られて絶縁を告げられて家を追い出されて――酷い親。
「反面教師でしょうか、ああはなりたくないと思って育ってきました」
「ユウナが常識ある女性に育ってくれて良かったよ」
レイン様の言葉に、心配そうに集まっていた周りの住民達も、大きく頷いた。
「どうするユウナ? 陛下との謁見だが、日を改めるか? 今皇宮に行くと、またコトコリス男爵と顔を合わせることになるが」
「そうですね……」
一生関わりたくないのが本音だけど、お父様の様子じゃ、他方面にも多大なご迷惑をかけてるのが目に見て分かるんですよね。実際、聖女の力を頼りに来た人達に酷い要求をしているようですし……ここまでお父様やエミルを野放しにしていた自分にも責任があると思うと、このまま放置することは出来ない。
「陛下さえよければ、コトコリス男爵も謁見に同行させても良いですか?」
「……いいのか?」
「はい、折角遠い所から来たのに可哀想ですから」
満面の笑みで、思ってもいないことを口にする。
「ユウナが望むなら構わないが……コトコリス男爵、もと父親が酷い目に合うのを見ても平気か?」
「全然大丈夫です」
「分かった、陛下に確認してみるが、ユウナの頼みなら陛下は断らないだろう」
「よろしくお願いします」
一度痛い目に合ってもらわないと、ご自身の立場を理解されないでしょうし、遠慮なくやっちゃって下さい。
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