聖女は妹ではありません。本物の聖女は、私の方です

光子

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13話 お父様を連れた陛下の謁見

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 ***


「皇帝陛下にご挨拶申し上げます」

「おお、良く来てくれたなユウナ。楽にしてくれ」

 レイン様の仰る通り、陛下は謁見の約束をしていない唐突な訪問にも関わらず、快く私を迎え入れてくれた。

「一度ユウナにしっかりと礼を伝えたくてな。土地を救い、実りを与えてくれてありがとう。ユウナはファイナブル帝国の誇りだ」

「そんな……もったいないお言葉です」

 陛下からこうして直接お礼を言われるだけで光栄です。ファイナブル帝国に産まれた民として、陛下に忠義を誓うのは当然。ましてや、私は以前、形だけですが貴族でしたしね。貴族とは、陛下に仕える者。陛下のお力になり、国の発展や平和のために、尽力を尽くすもの――

「陛下! このような聖女の偽物に頭を下げるなど、愚の骨頂ですぞ!」

 ――なんですけど、陛下に向かってなんて口の利き方してのかなー? この元父親は!

「このワシの謁見も拒むなど、言語道断です! 皇宮に足を入れることすら、騎士達が邪魔したんですぞ! あの役立たずな騎士達には、即刻罰を与えるべきです!」

「黙れ」

「なっ!」

 陛下と共に謁見の場にいたアイナクラ公爵様は、強くお父様を睨み付けた。

 私達が皇宮に着いた頃には、お父様は皇宮の中に入ることも出来ずに騎士達と揉めていて、『お前等全員、陛下に言いつけてクビにしてやる!』『ワシを誰だと思ってる!? 聖女の父親だぞ!』など喚き散らしていて、酷い有様だった。
 ああ、本当に親子の縁を切っていて良かった。

「このような横暴を許していいんですか陛下!? 今後エミルは――コトコリスの聖女は皇室の要求に応えず、奇跡の力を使うのを止めますぞ!? そうすれば、土地は腐敗するばかりで、困るのはそちらでしょう!」

「……」

 聖女の力を自分の権力の道具として使うなんて、お父様は本当に救いようのない人だったんですね。

「ふむ。今後、皇室がコトコリスの聖女を、其方の娘を頼ることはない」

「なん――ですと!?」

「其方を聖女の父親だからと、今まで甘く接してきたのは認めよう。だが、今は我がファイナブル帝国にはユウナがいる。聞けばユウナは其方と親子の縁を切っているようだし、其方の娘はもう必要ないのじゃ」

「何を世迷言を! ユウナは偽物の聖女です! 目をお覚まし下さい!」

「くどい」

「――っ!」

 私には見せたことがない冷たい陛下の眼光。最高齢の皇帝陛下として君臨されているけど、まだまだ現役ですね。

 お父様は今までと違う陛下やアイナクラ公爵様、皇宮の皆様の冷たい態度に戸惑っておられるようで、次の言葉が出ないのか、口をパクパクと動かしていた。

「へ、陛下、私はファイナブル帝国のためを思って進言しているのです。ここにいるユウナは、陛下の仰る通り以前は私の娘でしたが、昔から嘘をつく子でして、聖女である妹に嫉妬して、自分が聖女だと嘘をつき、純真な妹を傷付けるような非道な娘です。さらには、妹の婚約者を我儘を言って奪おうとしたんです!」

 ……酷い父親。そんな事実、一つも無いのに。

 やっとお父様の口から出た言葉は、私を傷付けるもの。
 私の婚約者を奪って結婚したのはエミルの方なのに、それはお父様も確実に知っているはずなのに、知っていて、私を貶めるんですね。

「そんな嘘つきな娘を信じる必要はございません! どうか、私の言葉を――」

「いい加減にしないか!」

「ひっ!」

 陛下の怒号の一発に、お父様は悲鳴を上げ、その場にへたり込んだ。

「黙って聞いておれば好き勝手抜かしよって! ユウナがそのような嘘をつくはず無いじゃろう!」

「……陛下……」

 私のことを信じて下さるんですね。

「大体、何がファイナブル帝国のためを思ってじゃ。どの口が言うか! 聖女の力を私利私欲のために使っておった分際で!」

「わ、私はそのようなことは……」

「聖女の力を貸して欲しくば、爵位を上げろだの、領地を増やせだの、報酬金をもっと寄越せだの抜かしておったくせに、何を言う! 最近では、皇室以外にも、聖女の癒しの力を求めて来た者達に無茶な報酬を求めていると聞いたが?」

「そ、それは、奇跡の力の対価として当然のことでして……」

「ユウナはそのようなもの一切求めんぞ。もとが其方の娘とは思えんほど、心根も美しい素晴らしい聖女だ」

「貴方のご自慢の娘と違い、ユウナは誰に対しても優しく、一生懸命、聖女として人々を救おうとする。ユウナこそが聖女に相応しい」

「謙虚で礼儀もしっかりしている。コトコリスの聖女とは比べる方が失礼だ」

 陛下もレイン様もアイナクラ公爵様も、皆が私を信じてくれる。それが……とても嬉しい。

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