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14話 反省して下さいね、お父様
しおりを挟む三人に揃って自分を否定されたお父様は、悔しさからか、体がプルプルと震えていた。
「そんなユウナには、私から正式に、《ファイナブル帝国の聖女》の称号を授けようと思う」
「――え?」
「ユウナをここに呼び寄せたのは、これを伝えるためでもあった。ユウナは、ファイナブル帝国の聖女と呼ばれるに相応しい活躍をしている。よって、この名を正式にユウナの称号として授けよう」
ファイナブル帝国の聖女――――民衆から呼ばれていた通り名を、実際に私のものに?
「ゆ、許さん! 許さんぞユウナ!」
「コトコリス男爵様……」
意気消沈していたお父様も、ファイナブル帝国の聖女の称号に、息を吹き返して、私を睨み付けた。
あだ名で民衆に呼ばれているのと、正式に皇帝陛下から称号を承るのとでは、桁違いに重みが違う。
ファイナブル帝国で聖女の、それも、帝国の名を背負う聖女の称号……その重みは、公爵位にも匹敵する。いや、寧ろ、それ以上……?
「何故だ、何故お前如きが! エミルですら、正式に聖女の称号は頂いていないんだぞ! なのに何故お前のような出来損ないが!」
「……私を出来損ないだと決め付けていたのは、コトコリス男爵様でしょう? 残念でしたね、出来の悪い娘の方が、優秀で」
自分達から追い出したんだから、後悔しても遅いのよ。
「ユウナ!」
私に掴みかかろうと飛び付いて来た所を、レイン様が魔法で華麗に捕らえた。
「コトコリス男爵、ファイナブル帝国の聖女に対する狼藉、許せるものではありません。少し頭を冷やして頂く必要がありますね」
「なっ、何をする!? 止めろ! どこに連れて行く気だ!?」
レイン様の魔法で動きを封じられたお父様を、皇宮の騎士達が流れるような動きで、連行した。
「地下牢ですよ」
「ちかろ……!?」
「ファイナブル帝国の聖女に狼藉を働いたのですから当然でしょう」
皇宮の外れにある地下牢には、一切日が届かない三畳一間の監獄がある。一日一食、隙間の壁から届く質素な食事。薄汚い部屋、湧き出る異臭に虫。
罪人が囚人されるそこは、貴族当主が入れられるにはあまりに苦痛で、恥ずべきことだった。
「お、お許し下さいお許し下さい陛下! 私はただ、陛下のために! ファイナブル帝国のために! そんな出来損ないの娘より、エミルの方が聖女に相応しいとお伝えしたかっただけで!」
「コトコリス男爵、言葉を慎め」
絶対零度な眼差しでお父様を睨み付けるアイナクラ公爵様。
「ユウナ様は今や、貴方より上の立場の人間だ。言葉遣いはもとより、視線、態度、全てに敬意を持って示せ」
お父様に男爵家を追い出されてしまった哀れな娘でしたが、あっという間にお父様を追い越してしまいましたね。それも圧倒的に。面白。
「コトコリス男爵、次に会うことがあれば、敬語でお願いしますね」
おっと、様付けも忘れないでね。私は今や、お父様よりも立場が上なんだから。
「ユウナ……!」
その睨み付ける視線も駄目ですよ。じゃないと、せっかく牢から出て来ても、また、牢に連れ戻されることになりますからね。
「さようなら、反省して下さい」
私はそのまま、泣き叫ぶお父様を見送った。
もと父親の情けない姿だったけど、爽快なだけで、可哀想とか、同情する気持ちは一寸も起きなかった。自業自得。
「ユウナ、大丈夫?」
心配そうに私に声をかけるレイン様。
「はい、レイン様が守ってくれましたから」
流石は歴代最強の魔法騎士。お父様の魔の手から颯爽と私を守って下さいました。
「陛下もアイナクラ公爵様も、私を信じて下さってありがとうございました」
「当然じゃ」
「うむ」
「しかしコトコリス男爵にも困ったものだ。聖女の力を悪用するなと、再三、通告しておるのにのぉ」
「住民達が望んで聖女の力を求めているので、強く止めるわけにもいきませんしな」
私の力を得たエミルの回復魔法は奇跡と呼ぶに相応しく、絶対に治らないと言われていた怪我を治したり、瀕死の人間を蘇らせることも出来た。
例え奇跡の対価として膨大な報酬が必要だとしても、奇跡の力を求めるものは後を絶たない。
もっと早くエミルの力は弱まると思ってたのに……
双子の妹だからか、私が長く力を与えてきたからか、エミルは私と離れて数か月経った今でも、以前と変わらない回復魔法が使えた。
「コトコリス男爵は聖女を利用して貴族の後ろ盾も得ているしのぉ」
「……シャイナクル侯爵令息も、その中の一人ですね」
シャイナクル侯爵令息であるルキ様。妹に奪われた私のもと婚約者で、現、エミルの夫。
「あそこも息子の一人であるルキが中々に厄介でな。野心家で打算的。シャイナクル侯爵の地位を自分のものにしようと、聖女を手に入れるために必死だったのを思い出すな」
三人兄弟の長男のルキ様は、次期シャイナクル侯爵当主と言われているが、弟達は二人共優秀だった。そんな中で、ルキ様は聖女を手に入れて、侯爵家当主の座を絶対的に手に入れようと考えた。一度はその争奪戦に敗れ、聖女の姉である私で妥協したが、姉のものを何でも欲しがる妹の性質で、見事、妹を手に入れることが出来た。
「考えてみれば、ルキが聖女と結婚してからというもの、コトコリス男爵の要求がひと際酷くなっていった気がするのぉ。ルキが入れ知恵でもしたんじゃろ」
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