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36話 仕返しします②
しおりを挟む「時間に遅れるなんて、エミルの十八番じゃないですか。なのに私だけを責めるなんて、コトコリス男爵家の皆さんは本当に自分本位な人達ばかりですね」
自分達は良くて、他人は駄目。
エミルは以前、私達を数日待たせたのに、私は一日しか待たせていないんですよ? それだけでも御の字でしょう。
「そ、それは、エミルは聖女で特別な存在だから――」
まだ言うか。懲りない方ですね。
「本物の聖女がいるなら、偽物の聖女である私は必要ありませんね。帰ります」
「ま、待て! いや、待って下さい!」
「何ですか?」
「お願いします! どうか土地を回復して下さい、ユウナ様!」
踵を返して馬車に乗り込もうとする私を、お父様は慌てて引き止めた。
無様な情けない顔。どうして私相手に頭を下げないといけないのかって不満が顔に出ていますよ。
「私は偽物の聖女なのでは? 偽物の聖女の助けが必要ですか? 本物の聖女であるエミルがいるのに」
「それ……は」
「エミルに助けてもらえばいいのに。エミルが本物の聖女なら、ですけど」
無理に決まってる。
お父様が本物の聖女だと信じて疑っていないエミルは、偽物なの。どう足掻いても、土地の回復なんて出来ないの。
「……ユウナ様! エミルは今、聖女の力を一時的に失っているんです!」
「はぁ」
そんな事実は無い。エミルは最初から最後まで聖女じゃありません。
「ですから、力を取り戻すまでの間、エミルに代わってユウナ様がコトコリス領を救うべきなんです! 姉ならば、可愛い妹のために力になるべきでしょう!? エミルは出来損ないだった貴女にも、分け隔てなく愛を与えていたのに!」
「はぁ」
愛なんて与えられた覚えはありませんし、意味不明です。
そもそも、何で私がエミルに代わって救わないといけないのよ。そんなの、今までと何も変わらないじゃない。私はずっと、エミルの代わりに土地を救ってきたんだから。
「コトコリス男爵、今更、姉妹の関係を持ち出さないでくれます? 家族の縁を切ったのはそちらでしょう?」
「そう、ですが! しかし!」
お父様に唯一感謝していることがあるとすれば、それは、私と家族の縁を切ってくれたことよ。
「コトコリス男爵には少し猶予をあげます、助けて欲しいなら、領民達の前で、ご自慢の娘が偽物の聖女であるとお認めになって下さい」
「! 馬鹿な! そんなこと出来るはずが無い!」
「では帰りましょうか?」
「くっ!」
私を睨み付けるお父様。そんな立場にないことが、未だに分からない無能なんですね、可哀想に。ここでしっかりと、立場を分からせてあげる必要がありますね。
「『えーん、折角、ファイナブル帝国の聖女である私が、こんな遠くて汚い辺境の町まで来たのに、こんな風に扱われるなんて、酷いです! 聖女である私は、もっと大切にされるべきなのに!』」
「! それ――は――」
「『こんな酷い人達のいる土地、助けてあげたくありません、もう早く帰りましょう』」
エミルを真似てみたのですが、双子なだけあって似ているでしょう? 貴女のご自慢の娘が、よく言っていた言葉です。
「大丈夫かユウナ? そうだな、帰ろう。聖女にこんな無礼な態度をする者達を助ける義理は無い」
レイン様も私に合わせて、一緒にお父様を追い詰める。
「も――申し訳、ありませんユウナ様! どうか、どうか、助けて下さい!」
ようやく自身の立場を自覚し、頭に地面をつけ、土下座で謝罪するお父様。
聖女の力を笠に好き勝手していたエミルにお父様。今まで自分達がしてきた理不尽な振る舞いをされる気分はどうでしょう? これまでお父様やエミルがしてきたことですもの、私がしても別にいいですよね?
「では、エミルを偽物だと認めて下さいますか?」
「――」
お父様は同じ要求に、今度は否定も、肯定もしなかった。きっと迷われているのでしょう。
領民達の前でエミルが偽物の聖女だったと認めるなんて、エミルがこれまで築き上げてきた立場が崩れるのは勿論、お父様自身もまた、本物の聖女である私を昔から蔑み、挙げ句コトコリス領から追い出した、見る目の無い無能な父親のレッテルが貼られることになる。
エミルと同じで、自分が大好きなお父様には屈辱的でしょう。
「コトコリス男爵、貴方の覚悟が決まるまでの間、私は暫くここに留まってあげます。それまでの私の接待、手を抜かないで下さいね。不快だと思えば、私はすぐに帰りますから」
「……は、い」
力無く頷いたお父様。いい気味です。
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