聖女は妹ではありません。本物の聖女は、私の方です

光子

文字の大きさ
37 / 60

36話 仕返しします②

しおりを挟む
 

「時間に遅れるなんて、エミルの十八番じゃないですか。なのに私だけを責めるなんて、コトコリス男爵家の皆さんは本当に自分本位な人達ばかりですね」

 自分達は良くて、他人は駄目。
 エミルは以前、私達を数日待たせたのに、私は一日しか待たせていないんですよ? それだけでも御の字でしょう。

「そ、それは、エミルは聖女で特別な存在だから――」

 まだ言うか。懲りない方ですね。

「本物の聖女がいるなら、偽物の聖女である私は必要ありませんね。帰ります」

「ま、待て! いや、待って下さい!」

「何ですか?」

「お願いします! どうか土地を回復して下さい、ユウナ様!」

 踵を返して馬車に乗り込もうとする私を、お父様は慌てて引き止めた。
 無様な情けない顔。どうして私相手に頭を下げないといけないのかって不満が顔に出ていますよ。

「私は偽物の聖女なのでは? 偽物の聖女の助けが必要ですか? 本物の聖女であるエミルがいるのに」

「それ……は」

「エミルに助けてもらえばいいのに。エミルが本物の聖女なら、ですけど」

 無理に決まってる。
 お父様が本物の聖女だと信じて疑っていないエミルは、偽物なの。どう足掻いても、土地の回復なんて出来ないの。

「……ユウナ様! エミルは今、聖女の力を一時的に失っているんです!」

「はぁ」

 そんな事実は無い。エミルは最初から最後まで聖女じゃありません。

「ですから、力を取り戻すまでの間、エミルに代わってユウナ様がコトコリス領を救うべきなんです! 姉ならば、可愛い妹のために力になるべきでしょう!? エミルは出来損ないだった貴女にも、分け隔てなく愛を与えていたのに!」

「はぁ」

 愛なんて与えられた覚えはありませんし、意味不明です。
 そもそも、何で私がエミルに代わって救わないといけないのよ。そんなの、今までと何も変わらないじゃない。私はずっと、エミルの代わりに土地を救ってきたんだから。

「コトコリス男爵、今更、姉妹の関係を持ち出さないでくれます? 家族の縁を切ったのはそちらでしょう?」

「そう、ですが! しかし!」

 お父様に唯一感謝していることがあるとすれば、それは、私と家族の縁を切ってくれたことよ。

「コトコリス男爵には少し猶予をあげます、助けて欲しいなら、、ご自慢の娘が偽物の聖女であるとお認めになって下さい」

「! 馬鹿な! そんなこと出来るはずが無い!」

「では帰りましょうか?」

「くっ!」

 私を睨み付けるお父様。そんな立場にないことが、未だに分からない無能なんですね、可哀想に。ここでしっかりと、立場を分からせてあげる必要がありますね。

「『えーん、折角、ファイナブル帝国の聖女である私が、こんな遠くて汚い辺境の町まで来たのに、こんな風に扱われるなんて、酷いです! 聖女である私は、もっと大切にされるべきなのに!』」

「! それ――は――」

「『こんな酷い人達のいる土地、助けてあげたくありません、もう早く帰りましょう』」

 エミルを真似てみたのですが、双子なだけあって似ているでしょう? 貴女のご自慢の娘が、よく言っていた言葉です。

「大丈夫かユウナ? そうだな、帰ろう。聖女にこんな無礼な態度をする者達を助ける義理は無い」

 レイン様も私に合わせて、一緒にお父様を追い詰める。

「も――申し訳、ありませんユウナ様! どうか、どうか、助けて下さい!」

 ようやく自身の立場を自覚し、頭に地面をつけ、土下座で謝罪するお父様。
 聖女の力を笠に好き勝手していたエミルにお父様。今まで自分達がしてきた理不尽な振る舞いをされる気分はどうでしょう? これまでお父様やエミルがしてきたことですもの、私がしても別にいいですよね?

「では、エミルを偽物だと認めて下さいますか?」

「――」

 お父様は同じ要求に、今度は否定も、肯定もしなかった。きっと迷われているのでしょう。
 領民達の前でエミルが偽物の聖女だったと認めるなんて、エミルがこれまで築き上げてきた立場が崩れるのは勿論、お父様自身もまた、本物の聖女である私を昔から蔑み、挙げ句コトコリス領から追い出した、見る目の無い無能な父親のレッテルが貼られることになる。
 エミルと同じで、自分が大好きなお父様には屈辱的でしょう。

「コトコリス男爵、貴方の覚悟が決まるまでの間、私は暫くここに留まってあげます。それまでの私の接待、手を抜かないで下さいね。不快だと思えば、私はすぐに帰りますから」

「……は、い」

 力無く頷いたお父様。いい気味です。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹と寝たんですか?エセ聖女ですよ?~妃の座を奪われかけた令嬢の反撃~

岡暁舟
恋愛
100年に一度の確率で、令嬢に宿るとされる、聖なる魂。これを授かった令嬢は聖女と認定され、無条件で時の皇帝と婚約することになる。そして、その魂を引き当てたのが、この私、エミリー・バレットである。 本来ならば、私が皇帝と婚約することになるのだが、どういうわけだか、偽物の聖女を名乗る不届き者がいるようだ。その名はジューン・バレット。私の妹である。 別にどうしても皇帝と婚約したかったわけではない。でも、妹に裏切られたと思うと、少し癪だった。そして、既に二人は一夜を過ごしてしまったそう!ジューンの笑顔と言ったら……ああ、憎たらしい! そんなこんなで、いよいよ私に名誉挽回のチャンスが回ってきた。ここで私が聖女であることを証明すれば……。

偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら

影茸
恋愛
 公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。  あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。  けれど、断罪したもの達は知らない。  彼女は偽物であれ、無力ではなく。  ──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。 (書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です) (少しだけタイトル変えました)

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?

ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。 だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。 これからは好き勝手やらせてもらいますわ。

【完結】偽物の王女だけど私が本物です〜生贄の聖女はよみがえる〜

白崎りか
恋愛
私の婚約者は、妹に夢中だ。 二人は、恋人同士だった賢者と聖女の生まれ変わりだと言われている。 「俺たちは真実の愛で結ばれている。おまえのような偽物の王女とは結婚しない! 婚約を破棄する!」 お好きにどうぞ。 だって私は、偽物の王女だけど、本物だから。 賢者の婚約者だった聖女は、この私なのだから。

【完結】次期聖女として育てられてきましたが、異父妹の出現で全てが終わりました。史上最高の聖女を追放した代償は高くつきます!

林 真帆
恋愛
マリアは聖女の血を受け継ぐ家系に生まれ、次期聖女として大切に育てられてきた。  マリア自身も、自分が聖女になり、全てを国と民に捧げるものと信じて疑わなかった。  そんなマリアの前に、異父妹のカタリナが突然現れる。  そして、カタリナが現れたことで、マリアの生活は一変する。  どうやら現聖女である母親のエリザベートが、マリアを追い出し、カタリナを次期聖女にしようと企んでいるようで……。 2022.6.22 第一章完結しました。 2022.7.5 第二章完結しました。 第一章は、主人公が理不尽な目に遭い、追放されるまでのお話です。 第二章は、主人公が国を追放された後の生活。まだまだ不幸は続きます。 第三章から徐々に主人公が報われる展開となる予定です。

聖女の妹、『灰色女』の私

ルーシャオ
恋愛
オールヴァン公爵家令嬢かつ聖女アリシアを妹に持つ『私』は、魔力を持たない『灰色女(グレイッシュ)』として蔑まれていた。醜聞を避けるため仕方なく出席した妹の就任式から早々に帰宅しようとしたところ、道に座り込む老婆を見つける。その老婆は同じ『灰色女』であり、『私』の運命を変える呪文をつぶやいた。 『私』は次第にマナの流れが見えるようになり、知らなかったことをどんどんと知っていく。そして、聖女へ、オールヴァン公爵家へ、この国へ、差別する人々へ——復讐を決意した。 一方で、なぜか縁談の来なかった『私』と結婚したいという王城騎士団副団長アイメルが現れる。拒否できない結婚だと思っていたが、妙にアイメルは親身になってくれる。一体なぜ?

殿下、幼馴染の令嬢を大事にしたい貴方の恋愛ごっこにはもう愛想が尽きました。

和泉鷹央
恋愛
 雪国の祖国を冬の猛威から守るために、聖女カトリーナは病床にふせっていた。  女神様の結界を張り、国を温暖な気候にするためには何か犠牲がいる。  聖女の健康が、その犠牲となっていた。    そんな生活をして十年近く。  カトリーナの許嫁にして幼馴染の王太子ルディは婚約破棄をしたいと言い出した。  その理由はカトリーナを救うためだという。  だが本当はもう一人の幼馴染、フレンヌを王妃に迎えるために、彼らが仕組んだ計略だった――。  他の投稿サイトでも投稿しています。

処理中です...