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37話 好きになったのが
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「エミル夫人の真似、上手だったな、ユウナ」
「双子だから顔はそっくりですし、雰囲気も出ていたでしょう?」
お父様は私の要望通り、コトコリス領で一番の宿を手配してくれた。
コトコリス領は辺境にあるけど、コトコリスの聖女の出現で辺境とは思えない発達をしているから、宿の質は辺境とは思えないほど良い。
「ああ、コトコリス男爵もしっかりと愛娘の真似だと気付いていたようだしな」
「ふふ、あの時のコトコリス男爵の顔、見物でしたね」
今まで自慢の娘が言っていた言葉が、どのくらい非常識でうざいものなのか、お父様は少しは理解するべきです。
「『どうせ助けるのなら、思う存分コトコリス男爵家に仕返ししましょう』なんて、ミモザも面白い提案をするものだ」
ミモザ様は私に、どうせ嫌々助けなければならないなら、最大限、向こうが嫌がることをしましょうと提案した。
『立場的に助けてもらう向こうが下なのですから、今まであの人達がしてきたことをし返してあげればいいんですよ。きっと、楽しいですよ。ああ、ついでにルキ兄様も一緒に苦しめてきて下さいね』
笑顔でそう提案するミモザ様を、少し怖いと思ったのはここだけの秘密です。
「コトコリス男爵やエミルをただ助けるのは嫌だと思っていたので、少しは気分が晴れますよ」
現に、お父様のあの悔しそうな顔は、今思い出すだけでも笑える。
「それにしても、その当の本人であるエミル夫人の姿が見えなかったな。絶対に姿を現すと思っていたんだが」
「そう言えばそうですね」
怖いくらい私に執着する妹。
招待していないにも関わらず、ファイナブル帝国の聖女である私を祝う宴にも来ていたとアイナクラ公爵様から報告を受けた時には、本当に馬鹿なんだなと頭を抱え、何度目かの家族の縁を切っていて良かったと思った。
「私が来ることをエミルに黙っていたのかもしれませんね。偽物の聖女だと言っていた姉を頼るなんて、エミルを本物の聖女だと信じていないみたいですから」
どうしてコトコリス男爵邸を待ち合わせ場所にせず、コトコリス領に入ってすぐの町アクアを指定したのかと不思議に思っていましたが、エミルにバレないようにするためなら、納得出来る。
コトコリス男爵邸にはエミルが住んでいるから、私が来たら一発でバレますもんね。
さっさと土地を回復させて、エミルにバレない内に帰らせるつもりでいたのに、私が土地を回復しないとか言い出し、留まる選択をした。
「いや、それでもいつかはバレるだろう。僕達がここに来たのは、領民達も大勢目撃している」
アイナクラ公爵家の馬車で堂々とここまで来ていますからね。しかも一人や二人のお使いで来てるワケでも無く、ある程度の人数を引き連れてで来ているんだから、私達が来たことは、いずれはバレると考えるのが普通。
「コトコリス男爵は目先のことしか考えられませんから」
今が良ければそれで良い人。聖女の力を傘に好き勝手にしていたお父様に、考える力は皆無です。
それに、お父様はエミルを可愛がっているけど、大切なことを言わずに行動することがある。私に絶縁を叩きつけて家から追い出した時もそうだった。
「どちらにしろ、レイン様の言う通り、土地が回復すれば、エミルには私がここに来たことはバレます。エミルは私が本物の聖女だと知っていますから」
誰よりも自分が偽物で、私が本物の聖女だと知っているのは、エミルだもの。
「私がここに留まる選択をした以上、私がいることを隠し通すのは無理でしょうし、きっと、明日にでも襲撃してくるんじゃないですか?」
どうして言ってくれなかったの!? なんて言ってお父様を泣きながら責めるエミルの姿が目に浮かぶようです。
「出来れば二度と会いたくないんだがな」
「心から同意します」
産まれた時から一緒にいた双子の妹。昔は、私もエミルが大好きだった。だけど、今は嫌い、大嫌い。
窓の外から見えるコトコリス領の景色は、幼い頃から過ごした見慣れた景色なのに、ちっとも懐かしいとも、帰ってこれて嬉しいとも思わなかった。
やっぱり私は、ここが自分の故郷だと思えないのだと、痛感する。
「ユウナ? 大丈夫か?」
いつも私を心配してくれるレイン様。
「大丈夫です、コトコリスよりも……今はアイナクラ公爵邸の方が、帰りたい場所だと思っただけです」
聖女の活動を終えて帰る度、アイナクラ公爵邸についてホッとする自分がいる。あそこは、使用人の皆さんも、皆、私を温かく迎え入れてくれる。幼い頃から慣れ親しんだこの場所よりも、アイナクラ公爵邸の方が、帰りたい場所だと強く思う。
そしてそれはきっと――――
「私が今、こうしてここにいれるのは、レイン様のおかげです。レイン様が一緒に来て下さったから、ここでこうして、エミルやコトコリス男爵にも立ち向かっていけます」
――――レイン様がいるからだ。
「……そんなにストレートに言われると照れるけど……ありがとう」
家から追い出された私を見つけてくれたレイン様。
きっと、初めて会った時から、運命を感じていた。私は――――レイン様が好きなんだ。
レイン様のような人を好きになれて良かった。例えこの恋が実らなくても、それでも良いと思えるほど、素敵な人を好きになれた。
ルキ様を好きにならなくて良かった。私の初恋がレイン様で……良かった。
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