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しおりを挟む『初めまして。僕は面堂 あきとと言います』
合コンの自己紹介。
(顔はイケメン!◎)
『職業は、医者をしています』
彼の職業に、周りの女の子達からすごーい。と歓声が上がる。
(医者か…〇だけど……)
はなは合コンに来た男達の品定めを、カクテルの入ったグラスに口をつけながらしていた。
(今の彼氏には弁護士もいるし、商社マンもいるし、医者も一応いるのよねー)
肩書きは〇だけど、全員、これだ!って決め手が無い。
(まぁでも、今の医者の彼氏より顔面偏差値◎だし、乗り換えちゃおっかな)
考え深けていると、あきとの隣に座っていた男が、あきとの肩に手を回し、もう片方の手で彼を指差した。
『こいつの親父幾つも病院を経営してるんだぜー?すげーよな!ちょー御曹司!』
『ーーー』
息を飲んだ。
『止めてよ。僕、そーゆーの関係無く、僕自身を見てくれる人がいいんだから』
(見つけた!!!)
すぐに、彼の事を調べた。
面堂ーーー大きな大病院ーーーその息子ーーー!!彼自身も医者!!!
『やっと…!』
はなに相応しい男に出会えた!!!
これで、あの陰キャ眼鏡に勝てる!!!
たぁ君ははなの物。
絶対に他の女には渡さないーー。
美人で可愛い、はなにこそ相応しいの。
だって、はなには今も彼氏が沢山いて、お金だって家だってくれる。
皆優しくて、何でもしてくれるーーー。
はなの周りには、はなを甘やかして、ちやほやしてくれる人しか、いなかった。
ーーー自分がそうした。
自分にとって、都合の良い人を、はなの容姿に夢中になった男を、ただ、周りに置いていただけ。
「とりあえず2人とも、落ち着こう」
ヒートアップしてる2人の喧嘩の間にけいじが入った。
「水瓶の水はどのくらい残ってる?1晩は持ちそう?」
「あぁ?まぁ、1晩なら」
「じゃあ明日僕が汲んでくるよ」
さらりと自分の負担を増やすけいじを、濱田はギロリと睨みつけた。
「てめぇなぁー」
「勿論、明日は、はなさんにも手伝ってもらう」
はなは濱田にキツく言われてから、考え込むように黙り込み、言葉を発していなかった。
けいじはそんなはなに向きあった。
「明日また、濃い霧が出たら、ここから出れなくなるかもしれない」
悪魔の森の霧は、深く、視界を遮る。
「その霧が一日で消える保証も無いーーー水は生命線だし、貴重なんだ」
「…霧…」
あの深い霧を体験したなら、その恐怖を理解している。
「は、はな、そこまで…考えて無かった…」
井戸が近くにある事で、安定で水が何時でも汲めると思ったのだろう。
ここまで運ぶ男性側の労力を完全無視しているが、自己の生命線にも関わる事に、はなの顔色は真っ青になった。
「分かってくれればいいさ。次からは、気をつけて欲しい」
「…っ分かったわよ!」
「ちっ!」
はなは渋々だが、応じ、濱田もまだ文句が有りそうだったが、一応の収束になった事に、あかりは安堵の息を吐いた。
その後、あきとも起きてきて、事の顛末を知ると、寝ずの番を今日も引き受けた。
本来今日はけいじの筈だが、明日水汲みをはなとする事を考え、負担を減らす為に申し出たのだ。
けいじは大丈夫だと当初その申し出を断ったが、あきとが押し切った。
『ーー本当なら、水汲みを変われば良いんでしょうけど……すみません。はなと2人になるのは、今は避けたくて…』
とのあきとの言葉に、はなの異様な執着を考え、けいじは応じる事にした。
次の日、無事に晴れ、霧が出ていない事に、全員が安堵した。
それから、また数日が経ったーーー。
「よいしょ…」
屋根付きの小屋から、薪を幾つか持ち運ぶあかり。
数日が経ったが、まだ助けがくる気配は無い。
今、町でどれ程騒ぎになっているのか。
どの位捜索が進んでいるのか。
そもそも、いなくなった事に気付いているのかさえ、分からない。
それ程、森は静かで、自分達以外に人の気配を感じなかった。
「寒…」
今日はいつもより寒く感じる。
はなは薪を持って、家の中に入った。
「お帰りあかりちゃん」
家の中には、今起きたであろうけいじが囲炉裏の前で座り、火を管理していた。
「…もう起きちゃったんですか?」
「目が覚めちゃってな」
昨晩寝ずの番をしていたにも関わらず、早く目を覚ましたけいじに、あかりは不満げだった。
「濱田さんにまた怒られますよ」
無理する事の多いけいじを、濱田は常々叱っている。
初めは怖いと思っていて、今も、会話は殆ど無いが、本当は優しい人なんだと、濱田に対しての認識をあかりは改め始めていた。
「あはは」
けいじは笑って誤魔化した。
けいじがこうして、無理して起きてくるのには、理由がある。
バンッっっ!!!!
「!」
大きな扉の閉める音に、あかりがビクリと反応する。
「何なの何なの!何ではなを無視するのよ!?」
「…ほんと…もう止めてよ、はな…」
あきとに縋るように詰め寄るはな。
そんなはなを、あきとは疲れ果てた表情で拒絶する。
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