離婚しましょう、私達

光子

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2話 転生

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 ――――ある日、目が覚めた私は、鏡を見て、ここが異世界で、転生しているんだと気付いた。
 瞬間的に気付けたのは、私が世に言うオタクというやつで、異世界転生ものやら小説やらを読み込んでいたからだと思う。現実を受け入れるのは爆速だった。

「えー、可愛い、私」

 鏡で見た自分の姿は、金髪碧眼で、それはそれは愛くるしい美人だった。

 平然としているように見えるけど、内心は結構パニック。
 あれ? 私、死んじゃったの? 確か、仕事で嫌なことがあったってやけ酒して、家に帰る途中でトラックにはねられたような記憶があるけど、それでそのまま?

 豪華で広い部屋に、身につけているのは、どう見ても高価そうな服にアクセサリーの数々。どこかの貴族の女性だとは思うけど、肝心の誰に転生したかは分からない。

「誰に転生したんだろ、私」

 一人で部屋の中をウロウロしながら困惑していると、扉をノックする音が聞こえて、中に侍女と思わしき女性が入って来た。

「リーゼ様、お迎えにあがりました」
「リーゼ……それが私の名前?」
「そう、ですが……どうかされたんですか?」
「ううん! 何でもないの!」

 リーゼ? リーゼって誰? 思い出せない! あーもー、誰!?

「リーゼ様、旦那様がもうすぐお帰りになるお時間です」
「旦那様!? 私、結婚してるの!?」
「リ、リーゼ様? 一体どうされたんですか? 結婚されて、グリフィン公爵家に嫁いできたんじゃないですか」
「あ、ああ、そうだったわよね」

 グリフィン公爵……聞いたことある! でもまだ思い出せない! なんだったっけ……思い出せ、私!

「リーゼ様、早くお迎えに行かないと、旦那様が帰って来てしまいます」
「あ、はい! ごめんなさい」
「ごめんなさい……? リーゼ様が、私に謝罪を!?」

 え? 何? そこに引っかかるの? 私が謝るのがそんなにおかしい?
 侍女はとても驚いていて一瞬体が固まったけど、本当に時間が無いみたいで、そのまま誘導して、私を玄関ホールにまで連れて来た。
 玄関ホールには既に私達以外の使用人が何人か着いていたが、私の姿を見るなり、モーゼの海割りかってくらい道を開けた。え? 何? あれかな? 奥様は一番先頭で旦那様を向かえないといけないのかな?
 分からないけど、折角道を開けてくれたんだし、と、恐る恐る前へ進み、先頭へと出た。

「お帰りなさいませ、旦那様」

 大きな扉が開き、使用人達が一斉に頭を下げて迎え入れた人は、美しく整った顔をした、水色の髪をした男性だった。

(この人が私の旦那様……!? め、めちゃくちゃ格好良いんだけど!)

 彼氏ナシ=年齢の男性経験ゼロの私には、こんな格好良い人との免疫は無い。なのに、急に旦那様だと言われても理解が追い付かない。

「お、お帰りなさい」
「……」

 とりあえず定番の挨拶で出迎えてみたのだが、旦那様は冷たく私を睨み付けただけで、その場を去ってしまった。あ、あれ? 私、もしかしなくてもめっちゃ嫌われてる?

 でも、ある意味良かったのかもしれない。
 まだ全然状況が掴めてないし、気持ちの整理も出来てないし、ここで旦那様と話しても、絶対にボロが出ちゃうに決まってる!

「リーゼ様……その、気を落とさないで下さい。きっと、旦那様はちょっと忙しかっただけで……」
「ああ、ボーとしちゃってごめんなさい。そうだ、ねぇ、貴女の名前を教えてくれない? ついうっかり忘れちゃって」

 名前を知らないと呼ぶ時に不便だしって軽い気持ちで聞いたんだけど、侍女はまた、とても驚いた表情を浮かべた。

「わ、私の名前は《アルル》です」
「アルルね、覚えたわ! これからよろしく!」

 差し出した手に、アルルはゆっくりとだが、手を握ってくれた。よしよし、これで何とかアルルから情報を聞き出さなきゃ!

「実はね、私、朝起きた時にベットから勢い良く落ちちゃって、頭を打ったみたいなの」
「ええ!? 大丈夫なんですか?」
「ああ、うん。体は全然大丈夫なんだけど、ちょーーーーっと、記憶の方が混濁しちゃって……良かったら、色々と教えてくれない?」
「記憶が混濁……わ、分かりました。私でよろしければ……」
「ありがとう、アルル!」

 薄々気付いてはいたけど、私が何か言葉を発する度に、アルルだけじゃなくて周りにいる他の使用人達も驚いた表情するのは何なの?


 ◇◇◇

 玄関ホールから場所を移し、庭先にあるテーブルにお茶を二つ用意してもらい、アルルには対面に座ってもらった。ゆっくり話を聞きたいし、話してばっかりじゃ喉乾いちゃうもんね。

「あの、私、今日クビになるんですか……!?」
「ならないわよ! なんでそうなるの!?」

 どうにも怯えているなと思ったら、アルルってばそんなこと考えてたの!?

「だって、リーゼ様が使用人ごとき私に、謝るし、お礼を伝えてくれるし、名前を知ろうとしてくれるし、こんなお茶まで用意して、一緒にお茶を飲みましょうって言うなんて……! 私、何かリーゼ様の気に入らないことをしてしまったでしょうか!? クビだけは止めて下さい! 病弱な弟のためにも、クビになったら困るんです!」
「待って! 私、そんなことしないから!」
「ほ、本当ですか? 良かった……」

(私って、そんなに酷い女なの? 聞くのが怖くなってきたんだけど……)

 でも、聞かないと自分が誰で、ここがどこなのかも分からない。

「あのさ、アルル、私の旦那様の名前を言ってみてくれない?」
「旦那様ですか? フェルナンド様です」

「フェルナンド=グリフィン……フェルナンド!」

 思わず、勢い良く椅子から立ち上がってしまった。

(思い出した! 小説《光の聖女と闇の魔女》のヒロインと結ばれる主人公の名前! そしてリーゼは、そんな主人公とヒロインを邪魔する、当て馬的ザコ悪女だ!)

 光の聖女と闇の魔女――闇に汚染された土地を癒す聖女の力を持って生まれたヒロインが、フェルナンド様と恋に落ち、様々な困難に立ち向かいながら最終的に幸せになる小説!

(大好きな小説だったのに、忘れてた……)

 小説の知識が正しければ、私はとてもお金持ちの《モンセラット》伯爵令嬢で、フェルナンド様に一目惚れして、その有り余る財力を使い、無理矢理、フェルナンド様との結婚にこじつけた。

(一時期グリフィン公爵家は、汚染された領地で苦しむ人達のために多額の援助をして、財政困難に陥ってしまった。でもその原因を作ったのは、モンセラット伯爵家だった。リーゼは何としてもフェルナンド様を手に入れたくて、わざと、無利子でお金を貸すと持ち掛け、実際には多くの利子を請求し、その借金を理由に、結婚を迫ったのだ)

「最悪……まさかリーゼに転生するなんて……!」

 伯爵家の一人娘として産まれたリーゼは、父親に甘やかされて育ち、我儘で傲慢で、自分の思い通りに事が進まないと怒鳴り散らして物を投げつけるような女で、それはフェルナンド様と結婚してからも変わず、何かあれば使用人達を怒鳴り、勝手にクビにしたりと好き放題していた。

(だから皆、私が謝ったりお礼を伝えただけでビックリしてたのね)

 全てが繋がったけど、嬉しくない。

(私、ヒロインの聖女推しなのに! ヒロインを虐める悪女に転生するなんて、最悪!)

 しかも、このままいくと、フェルナンド様はモンセラット伯爵家に違法な利子をつけた証拠を出して没落に追い込み、リーゼには離婚を突き付け、そのまま訳ありの七十代男爵の後妻として送りこんでしまう! 平民として放り出されるならまだしも、そんな訳ありの男爵に嫁ぐなんて嫌っ!

(どうしよう……! きっとフェルナンド様のことだから、私を追い詰める準備はもう進めているはず!)

 リーゼは、小説の初めの方でもう既に証拠を掴んでいたフェルナンド様によってあっという間に退場させられる! だから、名前を聞いても全然ピンっとこなかったんだ。 

(――何とか円満に離婚するしかない!)

 これが私の結論だった。

(モンセラット伯爵――お父様にお願いして、すぐに違法な利子とやらを直ちに取り止めて、精一杯、謝罪して離婚してもらおう)

 リーゼはフェルナンド様を好きだったかもしれないけど、今の私は、旦那様のことが好きじゃない。大体、好きでも、相手を騙して結婚するような真似は、絶対に良くない。

「私から解放してあげなきゃ」

 好きでもない相手と無理矢理結婚させられた可哀想な旦那様、待ってて下さいね! すぐに、離婚して解放します!

 だから、私の推しのヒロインと、末永く幸せになって下さい。
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