7 / 62
7話 好きじゃなくなったんです
しおりを挟む◇◇◇
結婚生活十五日目――
「もう、無理っ!」
実家であるモンセラット伯爵家を借り、ダンスやらマナーやら挨拶の仕方等を教師の人達に教えてもらっているけど、心が折れそう!
「難しいよぉ」
特に難しいのが、ダンス。何度踊っても、教師の足を思いっ切り踏んづけてしまう!
(先生も段々、足の痛みを気にして私と踊るのを嫌がってきてるし……本当にごめんなさい! でも決してわざとじゃないんです!)
何とかパーティーまでに挨拶やマナーは形になっても、ダンスだけは不可能。このままだと、踊った相手の足を負傷させる自信しかない。
(もういっそのこと、パーティーを欠席する?)
二人がダンスを踊る姿は見れないけど、それが一番良い気がしてきた。
「よし、欠席しよう」
数日前に決めたパーティーの出席を簡単に諦め、私はフェルナンド様に欠席を伝えるために、グリフィン公爵邸に戻った。
◇◇◇
私がグリフィン公爵邸ではなく、モンセラット伯爵邸で勉強しているのには、理由が二つある。
一つは、貴族令嬢であるはずの私が、出来て当然のはずのダンスやマナーの勉強をしているのを隠すため。
そしてもう一つは、ティアのため――
(ティア、相変わらず私に怯えてるんだよね)
特に何かした覚えはないのに、初対面から私に怯えているティア。出来るだけ刺激を与えないように会わないようにしてるけど、今朝も、少しすれ違っただけで蛇に睨まれた兎のように震えてた。
(最近はご飯も実家で食べるようにしてるから、こんなに早く帰るのは久しぶり)
夕食も食べてゆっくりしてから帰るから、グリフィン公爵邸には最早、寝に帰るだけ状態になってる。
(お父様も喜んでくれるし、のびのび暮らせるから、実家の方が居心地が良いんだよね)
(どうせ私は、もうすぐここからいなくなるし――)
「――今日はお早いお帰りですね」
「! フェルナンド様」
グリフィン公爵邸、自分の部屋に入る直前、不機嫌そうなフェルナンド様に声をかけられた。
まさか、フェルナンド様がこんな早い時間に家にいるとは思っていなくてビックリしたけど、ティアがいるから心配して家にいるんだと気付いて、納得した。
「毎日毎日、どこに夜遊びに行かれているんですか?」
「夜遊びって……ただ、実家に帰っているだけです」
「こんなに頻回に実家に? それはそれで問題だと思いますが」
「問題?」
「嫁いだ身でありながらこう頻回に実家に帰られては、周りから何か問題があると思われても仕方無いでしょう」
「それはそうかもしれませんけど、私達の場合、今更では?」
私とフェルナンド様が不仲であることも、私がお金の力を使って無理矢理結婚したことも、周知の事実として知れ渡っているんだから。
「……他に好きな男でも出来たんですか?」
「はい?」
「俺に興味が無くなったように見えるので」
そりゃあ、私は初めからフェルナンド様のことが好きじゃありませんからね、って言えたら楽なんだけど、言ったら転生のこととか話さなきゃいけなくなるし、面倒事になるのは嫌。だから簡単にこう答えよう。
「フェルナンド様のことが好きじゃなくなったんです」
嘘じゃない、リーゼは、フェルナンド様が好きだった。リーゼになった私は、フェルナンド様が好きじゃなくなった。これが正解。
「あれだけ俺を振り回しておいて? 随分、勝手ですね」
「それは……本当にごめんなさい」
「それに、聞いてはみましたが、正直、あれだけ俺に執着していた貴女が急に俺を好きじゃなくなるなんて信じられません。俺の気を引こうと、わざとしているんじゃないですか?」
「そんなことありません! 本当に好きじゃなくなったんです!」
どう言ったら信じてもらえるんだろう? やっぱり、離婚を切り出すしかない? 離婚したいって言えば、流石に信じてくれるよね。
「あの、私――」
「ダンスが上手く踊れないんですか?」
「何でそれを知ってるんですか!?」
「モンセラット伯爵が教えて下さいました。娘が頻回に実家に戻っていて申し訳ありません、と」
お父様……! わざわざフェルナンド様に報告するなんて、私がちゃんとして、ってお願いした日から、本当にちゃんとするようになったんですね! というか、フェルナンド様は知っていてわざと、どこに行ったとか聞いたのね!? なんて意地悪!
「ダンスは得意だと聞いていましたが?」
「ちょーーーーっと、見栄を張っていまして……」
「そんなことだろうと思っていました。次からはここでダンスの練習をして下さい。貴女にも教師を呼びましたから」
「……はい」
(駄目だ、逃げられそうにない。やっぱりパーティーが終わってから離婚しよう)
でも、見栄を張っていたわけじゃないの! リーゼは、本当にダンスが得意だったって聞いたし! ……でもまぁ、誤解してくれているなら、それでいいか。
「あ、でも。私がここにいたら、ティアが――」
私が最近家を出ているのは、ティアのこともある。
「ティア? 彼女がどうかしましたか?」
「あの、彼女、私に怯えているみたいだから、心配で……」
ティアの悲しそうな顔を見るのは、辛い。だって私、小説ではヒロイン推しだったんだもん!
「そんなことを気にして家を出ていたんですか?」
「だって、可哀想じゃないですか。ただでさえ、故郷から遠く離れた場所へ、一人で連れてこられたのに」
696
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』
鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」
華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。
王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。
そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。
レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。
「お願いだ……戻ってきてくれ……」
王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。
「もう遅いわ」
愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。
裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。
これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを
青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ
学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。
お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。
お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。
レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。
でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。
お相手は隣国の王女アレキサンドラ。
アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。
バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。
バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。
せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
【長編版】この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ
・めぐめぐ・
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。
アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。
『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。神聖魔法を使うことしか取り柄のない役立たずのくせに』
そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。
傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。
アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。
捨てられた主人公がパーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー長編版。
--注意--
こちらは、以前アップした同タイトル短編作品の長編版です。
一部設定が変更になっていますが、短編版の文章を流用してる部分が多分にあります。
二人の関わりを短編版よりも増しましたので(当社比)、ご興味あれば是非♪
※色々とガバガバです。頭空っぽにしてお読みください。
※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる