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6話 聖女ティア
しおりを挟む「貴女にも一応伝えておきますが、今度、聖女がここに来ます」
「本当ですか!?」
「暫く、ここに住むことになります」
「そう――なんですね、分かりました」
飛び跳ねたいくらい嬉しい気持ちをなんとか抑え、平然を装って返事をする。
「貴女とは別の女性がこの家に来ることになりますが、いいんですか?」
「? はい、聖女は特別ですもの、拒否する理由がありません」
「…………へぇ、それで、俺が他の女性に夢中になったらどうするんですか?」
「それならそれで仕方ありませんね、私は大人しく身を引かせて頂きます!」
寧ろ歓迎します! どうぞどうぞ、私のことは気にせず、遠慮なく愛を育んで下さい! 当て馬モブ悪女は、すぐ自分から撤退致しますので!
私としてはフェルナンド様に対して百点満点の回答をしたつもりたったんだけど、フェルナンド様は納得されていないようでした。
「ふーん」
何でそんな不満げ? せっかく、離婚してあげようと思ってるのに。
「邪魔をする気がないならもういいです。くれぐれも大人しくしていて下さい」
ああ、なるほど! 私がヒロインを虐めないように、念を押しにきたのね!
「はい! 絶対にお二人の邪魔はしません!」
私の発言にフェルナンド様は余計に眉間に皺を寄せられたけど、きっと私が本当に貴方との離婚を望んでいると分かれば、安心するよね!
私、ヒロインとフェルナンド様の恋、全力で応援します!
◇◇◇
結構生活十五日目――
「は、初めまして……私、《ティア=シファー》と申します……」
数日後、フェルナンド様の言った通り、ヒロインであり聖女のティアがグリフィン公爵邸にやって来た。
(おお、イラスト通り! すっごい可愛い!)
綿菓子みたいにふわふわのピンク色の髪、その中で鮮烈な紅い瞳――フェルナンド様と並べて見ると、本当に小説の中に転生したんだって実感する!
「ティア、彼女はリーゼ=グリフィン。俺の………………妻です」
溜めましたねぇ。私を妻って紹介するのが嫌なのがヒシヒシと伝わってきましたよ。別にいいけどね!
「初めまして、ティア。よろしくね」
「……」
挨拶のつもりで手を差し出したけど、ティアはその手を取らず、ビクッと体を揺らし、そのままフェルナンド様の後ろに隠れてしまった。あ、あれ? 私、既に怯えられてる!? 何で何で!? 私、まだ何もしてないのに! いや、する予定もないけど!
「リーゼ、今度の祝日に聖女の誕生を祝うパーティーが開かれるので、それまでティアにマナーやダンスなど、色々教えてあげて下さい」
「私がですか!?」
「他に誰がいるんですか? 貴女は一応、グリフィン公爵夫人でしょう?」
そう言えば、小説でもそんな展開でしたっけ……そこで、リーゼはティアに対して嫌がらせを繰り返すんですよね。今、思い出しました。
(今の私にティアを虐めるつもりは無い、無いけど、ここで大きな問題になるのは、私自身が、そんな貴族の嗜みを身に着けていないという事実! いやいやいや、無理でしょ!? 私、転生前は貴族でもない普通の人だったんだもん! 出来るわけないじゃない!)
「あ――の、それって、他に教師を雇うことは出来ないんですか?」
「教師?」
「費用は私が出しますので! だってほら、私が変に教えるよりも、ちゃんとした教師の方に教わる方が良いと思うんです!」
ついでに、私にも教師をつけよう。
「……別に構いませんが、普段からマナーやダンスには自信があると豪語していませんでしたか?」
「ちょーーーーっと、腕が落ちてしまった気がしまして」
もうお願い、これ以上突っ込んで聞いてこないで。
「分かりました、聖女にかかる費用はグリフィン公爵家が出しますのでお気遣いなく。それでよろしいですか? ティア」
「は、はい……」
フェルナンド様の背中に隠れて、小さく返事をするティア。
(ヒロイン――ティアは、確かにか弱い女の子って設定だったけど、小説では、もう少し明るかったように思うんだけど……)
優しい可憐な笑顔が魅力的だったはずなのに、今のティアは、ずっと悲しい、泣きそうな表情をしてる。
気にはなったけど、私に怯えている以上、変に行動を移すと余計に怯えさせてしまう気がする。それに、ここにはフェルナンド様がいるし、きっとティアの力になるでしょ! それで、愛を育んでくれたら良し!
頼るようにフェルナンド様の服の袖を握っているティアと、そんなティアを気に掛けているフェルナンド様の姿を見たら、自然と、小説通りの展開になる気がした。
(本当はティアが来たら離婚を伝えるつもりだったんだけど、折角だからパーティーまで見守ろうかな)
今度の聖女の誕生を祝うパーティーでは、二人が初めて手を取り合ってダンスを踊る挿絵が載ってて、本当に素敵だった。それを見てからでも遅くはないかな――――なんて、ファン心理が働いてしまったことを、のちにとても後悔することになるとは、夢にも思わなかった。
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