18 / 62
18話 再会
しおりを挟む◇◇◇
馬車の中には、一緒だと思っていたティアの姿は無かった。
「あの、ティアは?」
「ティアなら、一足先にグリフィン公爵邸に帰ってもらっています」
「どうして、こんなに早く帰ってきたんですか? 一週間くらい、時間がかかるものだと思っていたんですけど」
「俺がいつ、一週間、時間がかかると言いました? そう思われていた根拠は知りませんが、ティアが土地を癒した後、すぐにグリフィン公爵邸に帰りたいと言ったので、そのようにしたまでです」
聖女としての活動後、何の寄り道もせずに戻って来たってこと?
「ティアの息抜きのために、綺麗な景色とか、見に行かなかったんですか?」
「行っていません」
「そ――う、なんですね」
小説では、聖女の活動に慣れずに弱気になっているティアのために、色々としてあげていたのに……
「そんなに俺が早く帰ってくるのが嫌でしたか? ああ、浮気相手との時間がなくなるのが、嫌だったんですね?」
「浮気相手? 何言って――んっ、んっ――!」
馬車の中、壁に追いやられ、激しく唇を奪われる。
「も、止め……」
なんとか体を離そうと押してみても、びくともしなかった。
「貴女は俺の妻なんですから、浮気、しないで下さい」
「浮気なんかじゃ……ジークは、ティアの……んっ!」
幼馴染で、ジークはティアが好きで、相談に乗っていただけ。そこまで言いたかったのに、また口を塞がれて何も言えなかった。
こんなことになるなら、大人しく家で過ごしていれば良かった。ファン心理からジークの姿を見に行ってしまった自分を、心底後悔した――
「――っ、ティアに、確認して下さい」
やっと解放されて、最初に出た言葉は、それだった。ティアに確認すれば、全てがハッキリする。
「《ジーク=モナーク》、ティアの幼馴染で、彼女に会いに来たんでしょう?」
「知っていたんですか!?」
「ミセスから報告は上がっていましたから、調べさせました」
言いたいことは、色々ある。
まず、ミセスはフェルナンド様に知られたら怒られると言っておきながら、とっくに教えていたことと、全てを知った上で、浮気だと私を責めたフェルナンド様のこと!
「酷い、皆、酷いです。やっぱり、ジークの方が優しい……!」
「へぇ? そこでまだ別の男の名前を出せるなんて、リーゼは凄いですね」
「嘘です! ごめんなさい!」
やっと解放されたのにもう一度壁に押しつけようとするフェルナンド様を、必死で止める。
「あのっ、以前、私がどこで誰と何をしていようと、興味無いって言ってませんでした?」
「そんなこと言いましたか?」
「言いました!」
「すみません、まさか貴女が、平民の格好をして誰もお供をつけずに街へ出て、男と密会するだなんて思ってもいなかったので」
「密会って……ちゃんとミセスにも伝えていたのに」
「ええ、だから、まだ許しているんです」
(……まだ? もしかしてミセスに伝えてなかったら、もっと酷い目に合ってたの!?)
フェルナンド様の台詞に、背筋がゾクリと凍った。
「ティアにも幼馴染の件は伝えています。彼に会いたいと言っていたので、近々、こちらから迎えを送ります」
「! 良かった……!」
私の所為で二人が会えなくなってしまっていたら、罪悪感で押しつぶされるところだった。
「他人のことなんてどうでも良かったはずの貴女が、随分な変わりようですね」
「二人には、幸せになって欲しいですから」
ジークの想いは届かないけど、それでも、好きな人の幸せを願って身を引けるジークの強さを、優しさを、リーゼにも見せてあげたかった。
(でも、今のリーゼは私)
私が代わりに、しっかりと見届けますね。
◇◇◇
結婚生活一ヶ月十六日目――
今日は、ジークとティアが会う日だ。
フェルナンド様は言葉通り、その日の内にジークに使いを出し、次の日である今日には、グリフィン公爵邸へ招待した。
「ジーク、私が公爵夫人であることとか、色々と黙っていて……本当にごめんなさい」
応接室に通されたジークに、これまでのことを謝罪する。
謝っても許してくれなくて当然、きっと、友達には戻れないんだろうな、って覚悟していたのに、ジークは優しく、許してくれた。
「リーゼ様は黙っていただけで、嘘はついていませんでした。僕の方こそ、公爵夫人に対して無礼な口の利き方をしてしまい、申し訳ありませんでした」
「……あの、前みたいに、砕けた口調で話してもらうのは、駄目?」
「え?」
急に距離を置かれたみたいで、悲しい。
「僕は別にいいけど……リーゼはいいの?」
「ええ、だって私、ジークのこと、大切な友達だと思ってるから」
折角、出会えた、ティア仲間です。推しの良さを語り合える同士なんて、最高だもの。
「そっか、そう言ってもらって、僕も嬉しいよ。ありがとう、リーゼ」
こんな私を許して、今まで通り友達でいてくれるなんて、やっぱりジークは、引くほど優しい!
「フェルナンド様も、グリフィン公爵邸に招待して頂き、ありがとうございます」
「……いいえ、聖女の望みなので」
(何でフェルナンド様は、そんなに不機嫌なんですか?)
応接室には、私とジークの他に、笑顔だけど目の奥が笑っていないフェルナンド様の姿もあった。
あれですか? ジークを自分の恋敵だと認識されているの? それは合ってるけど、ティアはフェルナンド様を選ぶんだから、心配ないのに。
「……ジーク兄さん……!」
「ティア!」
遅れてやってきたティアは、ジークの姿を見た瞬間、涙が溢れた。
故郷を離れ、単身、聖女として活動しなくてはいけない重圧は、想像を絶するくらい、大きいものだと思う。そんな中、年上の幼馴染で、兄と呼んで慕っていてたジークが目の前に現れたら、安心して泣いてしまっても無理はない。
「うう、会いたかった、寂しかった……ジーク兄さん……!」
「ティア……」
二人で抱き合う姿を見て、私とフェルナンド様は、そっと席を外した。
890
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』
鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」
華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。
王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。
そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。
レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。
「お願いだ……戻ってきてくれ……」
王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。
「もう遅いわ」
愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。
裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。
これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを
青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ
学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。
お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。
お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。
レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。
でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。
お相手は隣国の王女アレキサンドラ。
アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。
バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。
バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。
せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる